守田です。(20111221 23:30)
12月15日に、「ママのタウン・ミーティング」という集いに招かれました。
中村和雄さんを招いて、放射能の問題、保育所のこと、教育の格差につい
て、医療費の小学校卒業までの無料化についてなど、明日の京都のことを
さまざまな角度から話し合う場でした。
朝10時からの会合でした。会場には小さいお子さんを抱いたママさんたち
がたくさんかけつけていました。二本松市から避難中のお母さんも参加。
そこで15分ほどお話をさせていただき、僕なりに脱原発にむけていかに
歩むのかをお話しました。
話の内容は、一つに現在進行している放射能汚染の状況をいかにみるか。
二つに、内部被曝が隠されてきた理由、三つに放射能との共存時代を
いきに生きるかです。この最後のところで、僕が中村和雄さんを、強く
信頼している理由も説明しました。
この内容をみなさんともシェアしたいと思い立ち、文字起こししました。
なお、ちょうど韓国ソウル大使館前の1000回目のデモが行われた翌日だっ
たので、「旧日本軍性奴隷問題Q&A」という冊子を持っていって、
資料としてお配りしました。以下、僕の発言です。
**************
脱原発にむけていかに歩むのか
今日は12月15日ですが、昨日14日は特別な日でした。そう言うと討ち入り
の日かと言われます。それはそれであるのですが、実は昨日12月14日に韓
国のソウル市の日本大使館の前で、旧日本軍の性奴隷被害にあったおばあ
さんたちが1000回目のデモを行いました。
このデモは500回目で、ギネスブックに世界で一番長く続いたデモとして
登録されていて、それが1000回にもなってしまいました。これに連帯して
世界の中の6カ国、30都市で連帯行動がありまして、実は私たちも京都市内
で街頭行動をしてきました。
今日はその資料も持ってきていますが、原発の話をするのに、なぜこの話
なのかと思われると思うのですけれども、おばあさんたちが、告発してい
るのは何かというと日本社会の暴力構造なのですね。とくに女性の地位が
非常によろしくない、そういう日本社会のあり方に対する告発です。
そしてその日本社会の暴力構造が今、私たちにもの凄い形で襲いかかって
きているのです。その根っこには私は同じものがあると思います。ではそ
の暴力がどのように私たちに襲い掛かっているのかというと、それは放射
能の問題です。
ただ放射能という物質が私たちに襲い掛かってきているのではありませ
ん。日本政府が、多くの人があんな危険な原発をやめてくれと何度も言っ
たのに、危険性を全部覆い隠して運転を強行して、あのような大事故を起
こしたわけですよね。
それだけではなくて、今、起こっているのは、膨大な放射能が出ているこ
とに対して、放射能は大して危なくないんだ、放射能は怖くないんだとい
うキャンペーンが行われて、避けられる被曝までもが避けられずに、被曝
がどんどん拡大していることです。
そういう暴力が私たちに降りかかってきていて、それをどうやって正すの
かが問われています。そういうときですから、こうしたソウル大使館の前
であげられたおばあさんたちの声も、私たちが思っていることと一つなの
だと思っていただきたいと思います。それで今日は資料を持ってきました。
それで放射線の影響の現状ですが、大変深刻なことが次々と起こってきて
います。政府はつい数日前も、福島県の方たちの被曝量は、思ったより少
なかったという発表を行いましたが、まったくウソです。とくに内部被曝
はいったんしてしまったら、ほとんど測ることができません。その内部被
曝がまったく無視されています。原発作業員の方の場合は外部被曝だけで
も、かなりなものになっています。
放射線の影響ではないかと当事者が胸を痛めている事態もいろいろと報告
されています。ただしそれらの一つ一つの福島の事故との因果関係ははっ
きりしません。放射線の害以外の可能性もあるので、デリケートな問題な
のですが、それでも、各地から若者も含めて突然死が起こっていることな
どが報道されています。数日前には、福島で除染作業に携わっていた方が、
除染作業中に亡くなられています。60歳の方ですが、除染活動が被曝を重
ねやすいことを考えるとショッキングです。
放射能で、何かガンにしかならないような言い方もされていますが、そう
うではなくて、放射線は身体のあらゆるところで悪さをします。心筋梗塞
や脳溢血なども起こってきます。また免疫機能がダメージを受けるので、
もともと抱えていた病いが悪化する場合もあります。なので突然死の場合
も放射線の影響が疑われます。
東京もかなりの被曝状態にあります。東京の町田市の市民団体が、子ども
たちの状況を調べてくれたのですが、それによると、例えば311のときに
5歳だった男の子が鼻血を出したと報告されています。どのような鼻血だっ
たのかというと、25分から30分、水道の蛇口を全開にしたような鼻血だっ
たそうです。
普通ではありえないような鼻血なのです。そうした例がたくさん報告され
ています。健康被害が各地からどんどん報告されています。大阪から参加
されたレスキュー隊の隊員の方も、体調が悪くなった末に、9月ごろに亡く
なられています。そういうことがどんどん起こっているのですが、政府は
一切、放射線の害であることを認めません。
放射線の話で、みなさんに一つだけ覚えて欲しい数字があります。0.6マイ
クロシーベルト毎時という数字です。なぜ覚えて欲しいのかというと、私
たちの国の法律では、ここからは放射線管理区域になるからです。この区
域では、してはならないこととして、飲み食い、寝ること、子どもを連れ
込むことがあげられます。
ところが福島市はどういう状態なのか。駅前で、1.0マイクロシーベルト毎
時ぐらいの値が出てくるのですね。さらに小学校の近くにいったら、5マイ
クロシーベルトという値が出ていました。その通学路の横にある電気製品
の量販店の駐車場では、6月には150マイクロシーベルト毎時という値がで
ました。
放射線管理区域は0.6マイクロシーベルト以上です。そんな恐ろしい値が出
ているのに、11月13日にとんでもないイベントが行われました。何かという
と東日本女子駅伝大会です。この駅伝は中学生と高校生と実業団でチームを
作ったのです。つまり放射線管理区域の100倍以上にもなるような値の出て
いるところもある放射線の値の高い地域で女子中学生、高校生、選手たちが
マラソンをさせられたのです。
そういうことを行っているのが、今の日本政府であり、福島県、福島市なの
です。だから本当に私たち市民の側が、この構造的暴力から身を守っていか
なければ、私たちや子どもたちの未来は本当に暗くなってしまうと思います。
それでは放射線の影響を何を手がかりにみていくかですが、私が紹介したい
のは肥田舜太郎さんと、矢ケ崎克馬さんのお二人です。ポイントだけいいま
すと、なぜいま、放射線が大して恐ろしくないのかといわれるかというと、
放射線が人間に対してどのように影響するのかということが調べられたのは、
広島・長崎での疫学的な調査なのです。
誰が行ったのかというと、アメリカ軍であり、その後継者たちです。アメリ
カ軍はなんのためにこれをやったのか。一つは原爆の威力を知るためです。
もう一つは原爆の非人道性を隠すためだったのです。なぜかというと、当時
からヨーロッパなどから、あれは遺伝的な影響のある非人道的な兵器ではな
いかという声があがっていたのですね。
なのでアメリカは調査をするといいながら、実は調査対象を初めから凄く切
り縮めてしまったのです。だから「被爆者」という言葉がありますが、実は
ものすごく多くの実際に被曝された方々がそこに含まれていないのです。そ
こで調査されて出されてきた放射線に対する考え方を、国際放射線防護委員
会(ICRP)という組織がまとめていて、これが国際的なスタンダードに
なっているのです。
実は日本のお医者さんたちも、ほとんどこの教育を受けています。なのでお
医者さんたちの中には、放射線はたくさんの量を浴びなければ大丈夫だとい
う、わりと安易な考え方をもたれている方もいます。そのためお子さんが
鼻血を出して病院に連れて行っても、気の病だといわれて返されてしまうこ
とが多いです。実際にはそうではないのです。データの多く、とくに内部
被曝の実態が隠されてしまったのです。
私がここで矢ケ崎克馬さんを紹介するのは、この方が、被爆者の原爆症認定
訴訟という裁判に関わられてこられたからです。原爆症認定訴訟というのも、
とても分かりにくい言葉なのですが、どういうことなのかというと、今、被
爆者の方は23万人ぐらいおられます。正確には「被爆者」という認定を受け
た方たちです。
その方たちが、次々とガンなどの病に襲われています。明らかに放射線の影
響です。ところがさきほども言いましたように、アメリカ軍が放射線の影響
を隠してしまったので、被爆者の方がガンなどにかかっても、放射線の影響
だとは認められてこなかったのですね。内部被曝が一切認められませんでし
た。低線量被曝の脅威が切り捨てられてしまったのです。
実際にガンにかかる方は大変多いのですけれども、そのガンなどの病が、放
射線によるものだと認められると、原爆症認定を受けられるのです。分かり
にくいですね。僕は被爆者の方はみな、こうした認定と補償を受けていると
思っていたのですが違うのです。
それでは被爆者の方のうち、原爆症認定をどれぐらいの方が受けておられる
のかというと、2003年の段階で、被爆者は27万人おられました。そのうちに、
原爆症認定を受けておられた方は2000人しかいなかったのです。1%以下です。
それで被爆者の方たちから、このままでは、死んでも死にきれない、今さら
補償をもらってもしかたがないけれども、死ぬ前に、自分は放射線のために
病気になったことを政府に認めさせたいという声が起こってきました。それ
で行われたのが、原爆症認定訴訟だったのです。
その裁判は、なんと19連勝しています。日本の裁判史上、ありえなかったこ
とです。どの裁判長が資料を読んでも、これはあまりにもひどい、国が責任
をとりなさいという判決を出したのです。実はその裁判の京都訴訟を行った
のが、中村さんと同じ弁護士事務所のお仲間たちなのですね。中村さんもそ
こでよくお話を聞かれているのですけれども、この方たちは、世界中の法律
家の中で、最もよく内部被曝の恐ろしさを知っている弁護士さんたちだと思
います。
これほどの被曝状態の中で、私たちはどのように生きていったら良いのか。
私は肥田舜太郎さんという94歳で、生涯で6000人の被爆者を診てこられた被
曝医師の方にインタビューしたのですけれども、その先生がおっしゃったの
は、一つは放射能の元を断たなければだめだということです。原発を止める
ことです。
もう一つ、腹を決め、開き直り、覚悟を決めて、その上で免疫力を最大に上
げて、病の発症と闘うんだ、前向きに対決するしかないよと、笑いながら
おっしゃいました。僕もそう思います。もう出てきてしまった放射能とは前
向きに対決していくことが大事だと思うのですが、そのためにはやはり行政
の力が本当に今、重要です。
それがどちらを向いているか。放射能に対して厳しい目を持っているか、そ
うではないのか。このことによって、私たちの生活や未来は左右されてしま
います。やはり個人、個人の力で市場で安全なものを買うことには限界があ
ります。疲れてもしまいます。
だから放射線に対して厳しい視点を持っている方にトップに立っていただく
必要があります。私はこれは京都市だけの問題ではないと思います。今、京
都市から脱原発の明確な声をあげることは、全国的にも位置があると思いま
す。全国の人々、子ども、赤ちゃんを救うために、そういう声を上げること
が大事だと思います。
同時に僕が中村さんのことを、この人は凄いのだと思うもう一つの理由があ
ります。一番最初に僕は、性奴隷の被害と向かい合っているおばあさんたち
のことを話しましたけれども、今、日本社会を誰が一番動かしているか、誰
が揺り動かしているのかというと、僕は小さなお子さんを抱えたお母さんた
ち、この会場にいるみなさんたちだと思うのです。
とくにその一番先頭にいるのは誰かと言うと、お子さんを抱えて勇気を持っ
て飛び出して、避難してきた方たちだと思うのですね。そうした女性たちの
声を中心にそれに共感した女性の声が高まっています。実は今日のこの集会
も、朝の10時からですよね。僕はこの10時からの講演会によく呼ばれるので
す。今までの人生でありませんでした。
今まで一番、政治に関わりにくかった方たちがどんどん出てきているのです
よね。それが今、日本の社会を変えつつあると僕は思うのです。そのときに
われわれ男性には、このことが理解できるかどうか、大変、問われているの
ですね。そう考えたとき、中村さんという方は、ご結婚されたときから、完
璧に、家事育児労働を分担して行ってこられたのです。
僕は完璧とはとてもいかないので、男性として彼の方が、ステージが上だな
と思っています。お母さんたちが切実に子どもを守りたいと思っている気持
ち、それが今の社会の中で一番尊く強いのだということを、しっかりと理解
してくれる方が先頭に立ってくれれば、われわれ日本の男性も、女性の頑張
りにもっと応えて、前に進んでいけるのではないかと思っています。
その意味で、中村さんと一緒に京都を変えて、そこから日本社会全体にアピ
ールをしていきたいと思います。そのために僕もできる限り努力をして、
みなさんと一緒に歩んでいきたいと思います。
12月15日に、「ママのタウン・ミーティング」という集いに招かれました。
中村和雄さんを招いて、放射能の問題、保育所のこと、教育の格差につい
て、医療費の小学校卒業までの無料化についてなど、明日の京都のことを
さまざまな角度から話し合う場でした。
朝10時からの会合でした。会場には小さいお子さんを抱いたママさんたち
がたくさんかけつけていました。二本松市から避難中のお母さんも参加。
そこで15分ほどお話をさせていただき、僕なりに脱原発にむけていかに
歩むのかをお話しました。
話の内容は、一つに現在進行している放射能汚染の状況をいかにみるか。
二つに、内部被曝が隠されてきた理由、三つに放射能との共存時代を
いきに生きるかです。この最後のところで、僕が中村和雄さんを、強く
信頼している理由も説明しました。
この内容をみなさんともシェアしたいと思い立ち、文字起こししました。
なお、ちょうど韓国ソウル大使館前の1000回目のデモが行われた翌日だっ
たので、「旧日本軍性奴隷問題Q&A」という冊子を持っていって、
資料としてお配りしました。以下、僕の発言です。
**************
脱原発にむけていかに歩むのか
今日は12月15日ですが、昨日14日は特別な日でした。そう言うと討ち入り
の日かと言われます。それはそれであるのですが、実は昨日12月14日に韓
国のソウル市の日本大使館の前で、旧日本軍の性奴隷被害にあったおばあ
さんたちが1000回目のデモを行いました。
このデモは500回目で、ギネスブックに世界で一番長く続いたデモとして
登録されていて、それが1000回にもなってしまいました。これに連帯して
世界の中の6カ国、30都市で連帯行動がありまして、実は私たちも京都市内
で街頭行動をしてきました。
今日はその資料も持ってきていますが、原発の話をするのに、なぜこの話
なのかと思われると思うのですけれども、おばあさんたちが、告発してい
るのは何かというと日本社会の暴力構造なのですね。とくに女性の地位が
非常によろしくない、そういう日本社会のあり方に対する告発です。
そしてその日本社会の暴力構造が今、私たちにもの凄い形で襲いかかって
きているのです。その根っこには私は同じものがあると思います。ではそ
の暴力がどのように私たちに襲い掛かっているのかというと、それは放射
能の問題です。
ただ放射能という物質が私たちに襲い掛かってきているのではありませ
ん。日本政府が、多くの人があんな危険な原発をやめてくれと何度も言っ
たのに、危険性を全部覆い隠して運転を強行して、あのような大事故を起
こしたわけですよね。
それだけではなくて、今、起こっているのは、膨大な放射能が出ているこ
とに対して、放射能は大して危なくないんだ、放射能は怖くないんだとい
うキャンペーンが行われて、避けられる被曝までもが避けられずに、被曝
がどんどん拡大していることです。
そういう暴力が私たちに降りかかってきていて、それをどうやって正すの
かが問われています。そういうときですから、こうしたソウル大使館の前
であげられたおばあさんたちの声も、私たちが思っていることと一つなの
だと思っていただきたいと思います。それで今日は資料を持ってきました。
それで放射線の影響の現状ですが、大変深刻なことが次々と起こってきて
います。政府はつい数日前も、福島県の方たちの被曝量は、思ったより少
なかったという発表を行いましたが、まったくウソです。とくに内部被曝
はいったんしてしまったら、ほとんど測ることができません。その内部被
曝がまったく無視されています。原発作業員の方の場合は外部被曝だけで
も、かなりなものになっています。
放射線の影響ではないかと当事者が胸を痛めている事態もいろいろと報告
されています。ただしそれらの一つ一つの福島の事故との因果関係ははっ
きりしません。放射線の害以外の可能性もあるので、デリケートな問題な
のですが、それでも、各地から若者も含めて突然死が起こっていることな
どが報道されています。数日前には、福島で除染作業に携わっていた方が、
除染作業中に亡くなられています。60歳の方ですが、除染活動が被曝を重
ねやすいことを考えるとショッキングです。
放射能で、何かガンにしかならないような言い方もされていますが、そう
うではなくて、放射線は身体のあらゆるところで悪さをします。心筋梗塞
や脳溢血なども起こってきます。また免疫機能がダメージを受けるので、
もともと抱えていた病いが悪化する場合もあります。なので突然死の場合
も放射線の影響が疑われます。
東京もかなりの被曝状態にあります。東京の町田市の市民団体が、子ども
たちの状況を調べてくれたのですが、それによると、例えば311のときに
5歳だった男の子が鼻血を出したと報告されています。どのような鼻血だっ
たのかというと、25分から30分、水道の蛇口を全開にしたような鼻血だっ
たそうです。
普通ではありえないような鼻血なのです。そうした例がたくさん報告され
ています。健康被害が各地からどんどん報告されています。大阪から参加
されたレスキュー隊の隊員の方も、体調が悪くなった末に、9月ごろに亡く
なられています。そういうことがどんどん起こっているのですが、政府は
一切、放射線の害であることを認めません。
放射線の話で、みなさんに一つだけ覚えて欲しい数字があります。0.6マイ
クロシーベルト毎時という数字です。なぜ覚えて欲しいのかというと、私
たちの国の法律では、ここからは放射線管理区域になるからです。この区
域では、してはならないこととして、飲み食い、寝ること、子どもを連れ
込むことがあげられます。
ところが福島市はどういう状態なのか。駅前で、1.0マイクロシーベルト毎
時ぐらいの値が出てくるのですね。さらに小学校の近くにいったら、5マイ
クロシーベルトという値が出ていました。その通学路の横にある電気製品
の量販店の駐車場では、6月には150マイクロシーベルト毎時という値がで
ました。
放射線管理区域は0.6マイクロシーベルト以上です。そんな恐ろしい値が出
ているのに、11月13日にとんでもないイベントが行われました。何かという
と東日本女子駅伝大会です。この駅伝は中学生と高校生と実業団でチームを
作ったのです。つまり放射線管理区域の100倍以上にもなるような値の出て
いるところもある放射線の値の高い地域で女子中学生、高校生、選手たちが
マラソンをさせられたのです。
そういうことを行っているのが、今の日本政府であり、福島県、福島市なの
です。だから本当に私たち市民の側が、この構造的暴力から身を守っていか
なければ、私たちや子どもたちの未来は本当に暗くなってしまうと思います。
それでは放射線の影響を何を手がかりにみていくかですが、私が紹介したい
のは肥田舜太郎さんと、矢ケ崎克馬さんのお二人です。ポイントだけいいま
すと、なぜいま、放射線が大して恐ろしくないのかといわれるかというと、
放射線が人間に対してどのように影響するのかということが調べられたのは、
広島・長崎での疫学的な調査なのです。
誰が行ったのかというと、アメリカ軍であり、その後継者たちです。アメリ
カ軍はなんのためにこれをやったのか。一つは原爆の威力を知るためです。
もう一つは原爆の非人道性を隠すためだったのです。なぜかというと、当時
からヨーロッパなどから、あれは遺伝的な影響のある非人道的な兵器ではな
いかという声があがっていたのですね。
なのでアメリカは調査をするといいながら、実は調査対象を初めから凄く切
り縮めてしまったのです。だから「被爆者」という言葉がありますが、実は
ものすごく多くの実際に被曝された方々がそこに含まれていないのです。そ
こで調査されて出されてきた放射線に対する考え方を、国際放射線防護委員
会(ICRP)という組織がまとめていて、これが国際的なスタンダードに
なっているのです。
実は日本のお医者さんたちも、ほとんどこの教育を受けています。なのでお
医者さんたちの中には、放射線はたくさんの量を浴びなければ大丈夫だとい
う、わりと安易な考え方をもたれている方もいます。そのためお子さんが
鼻血を出して病院に連れて行っても、気の病だといわれて返されてしまうこ
とが多いです。実際にはそうではないのです。データの多く、とくに内部
被曝の実態が隠されてしまったのです。
私がここで矢ケ崎克馬さんを紹介するのは、この方が、被爆者の原爆症認定
訴訟という裁判に関わられてこられたからです。原爆症認定訴訟というのも、
とても分かりにくい言葉なのですが、どういうことなのかというと、今、被
爆者の方は23万人ぐらいおられます。正確には「被爆者」という認定を受け
た方たちです。
その方たちが、次々とガンなどの病に襲われています。明らかに放射線の影
響です。ところがさきほども言いましたように、アメリカ軍が放射線の影響
を隠してしまったので、被爆者の方がガンなどにかかっても、放射線の影響
だとは認められてこなかったのですね。内部被曝が一切認められませんでし
た。低線量被曝の脅威が切り捨てられてしまったのです。
実際にガンにかかる方は大変多いのですけれども、そのガンなどの病が、放
射線によるものだと認められると、原爆症認定を受けられるのです。分かり
にくいですね。僕は被爆者の方はみな、こうした認定と補償を受けていると
思っていたのですが違うのです。
それでは被爆者の方のうち、原爆症認定をどれぐらいの方が受けておられる
のかというと、2003年の段階で、被爆者は27万人おられました。そのうちに、
原爆症認定を受けておられた方は2000人しかいなかったのです。1%以下です。
それで被爆者の方たちから、このままでは、死んでも死にきれない、今さら
補償をもらってもしかたがないけれども、死ぬ前に、自分は放射線のために
病気になったことを政府に認めさせたいという声が起こってきました。それ
で行われたのが、原爆症認定訴訟だったのです。
その裁判は、なんと19連勝しています。日本の裁判史上、ありえなかったこ
とです。どの裁判長が資料を読んでも、これはあまりにもひどい、国が責任
をとりなさいという判決を出したのです。実はその裁判の京都訴訟を行った
のが、中村さんと同じ弁護士事務所のお仲間たちなのですね。中村さんもそ
こでよくお話を聞かれているのですけれども、この方たちは、世界中の法律
家の中で、最もよく内部被曝の恐ろしさを知っている弁護士さんたちだと思
います。
これほどの被曝状態の中で、私たちはどのように生きていったら良いのか。
私は肥田舜太郎さんという94歳で、生涯で6000人の被爆者を診てこられた被
曝医師の方にインタビューしたのですけれども、その先生がおっしゃったの
は、一つは放射能の元を断たなければだめだということです。原発を止める
ことです。
もう一つ、腹を決め、開き直り、覚悟を決めて、その上で免疫力を最大に上
げて、病の発症と闘うんだ、前向きに対決するしかないよと、笑いながら
おっしゃいました。僕もそう思います。もう出てきてしまった放射能とは前
向きに対決していくことが大事だと思うのですが、そのためにはやはり行政
の力が本当に今、重要です。
それがどちらを向いているか。放射能に対して厳しい目を持っているか、そ
うではないのか。このことによって、私たちの生活や未来は左右されてしま
います。やはり個人、個人の力で市場で安全なものを買うことには限界があ
ります。疲れてもしまいます。
だから放射線に対して厳しい視点を持っている方にトップに立っていただく
必要があります。私はこれは京都市だけの問題ではないと思います。今、京
都市から脱原発の明確な声をあげることは、全国的にも位置があると思いま
す。全国の人々、子ども、赤ちゃんを救うために、そういう声を上げること
が大事だと思います。
同時に僕が中村さんのことを、この人は凄いのだと思うもう一つの理由があ
ります。一番最初に僕は、性奴隷の被害と向かい合っているおばあさんたち
のことを話しましたけれども、今、日本社会を誰が一番動かしているか、誰
が揺り動かしているのかというと、僕は小さなお子さんを抱えたお母さんた
ち、この会場にいるみなさんたちだと思うのです。
とくにその一番先頭にいるのは誰かと言うと、お子さんを抱えて勇気を持っ
て飛び出して、避難してきた方たちだと思うのですね。そうした女性たちの
声を中心にそれに共感した女性の声が高まっています。実は今日のこの集会
も、朝の10時からですよね。僕はこの10時からの講演会によく呼ばれるので
す。今までの人生でありませんでした。
今まで一番、政治に関わりにくかった方たちがどんどん出てきているのです
よね。それが今、日本の社会を変えつつあると僕は思うのです。そのときに
われわれ男性には、このことが理解できるかどうか、大変、問われているの
ですね。そう考えたとき、中村さんという方は、ご結婚されたときから、完
璧に、家事育児労働を分担して行ってこられたのです。
僕は完璧とはとてもいかないので、男性として彼の方が、ステージが上だな
と思っています。お母さんたちが切実に子どもを守りたいと思っている気持
ち、それが今の社会の中で一番尊く強いのだということを、しっかりと理解
してくれる方が先頭に立ってくれれば、われわれ日本の男性も、女性の頑張
りにもっと応えて、前に進んでいけるのではないかと思っています。
その意味で、中村さんと一緒に京都を変えて、そこから日本社会全体にアピ
ールをしていきたいと思います。そのために僕もできる限り努力をして、
みなさんと一緒に歩んでいきたいと思います。