明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(417)SPEEDIは使えぬ。直ちに避難するようなルールにしておくべき(班目委員長談)

2012年03月02日 15時00分00秒 | 明日に向けて(401)~(500)
守田です。(20120302 15:00)

このところ、原子力安全委員会の班目委員長が何かと物議をかもしています。ストレステ
ストに対して「安全性を高めるための資料として、(停止中の原発を対象とした)1次評
価では不十分」とも指摘し、1日の国会では自民党の梶山弘志議員に辞任を迫られたりして
います。

これまでの班目委員長の発言を見ていると、多くの場合、自己正当化が目的となっている
ものが多く、本当の意味での反省をしているとは思えないのですが、ただこの方はわりと
イノセントで、自己を正当化するときに、かなり重要なことをポロポロともらす傾向があ
ります。

事故対処の早い段階で、安全委員会は前線から退けられていきましたが、その要因の一つ
が、度々、重要情報を班目委員長がもらしてしまうことに対して、首相官邸の内部に入っ
たアメリカが、危機管理の観点から、情報の一元化と徹底管理をはかり、なんでも話して
しまいがちな班目委員長を遠ざけていったように見受けられるところがあります。その意
味で班目氏の発言には重要な情報が見え隠れしているといっていいと思います。

では今回の一連の過程ではどうか。やはり幾つかの非常に重要な発言が飛び出してきてい
ます。その一つが「SPEEDIは使えない」発言です。これは国会の事故調査委員会の
席上で、2月16日に行われたものです。

SPEEDIは政府の事故対策マニュアルにあるものです。これを活用して避難を有効に
進めようというものですが、今回は電源が喪失したために有効に使えなかったのだという
ことが政府がSPEEDI情報を開示しなかったいいわけになっています。しかしそれは
ウソではないか。SPEEDI情報は隠されたのではないか。責任は安全委にあるのでは
ないかということが繰り返し指摘されてきてもいるわけです。

これに対し、自己正当化を図ろうとする班目委員長は、次のように述べたのでした。
「SPEEDIの予測結果に頼った避難計画にしていること自体が問題で、直ちに避難す
るようなルールにしておくべきだった」・・・。

どういうことか。班目委員長によると、SPEEDIは計算に時間がかかりすぎるので
もともと使えないのだというのです。つまりきちんと使えなかった安全委員会に責任が
あるのではなく、もともとこんな使えないものに依拠していたのが間違いだった。災害時
には「直ちに避難するようなルールにしておくべきだった・・・」というのです。

非常に無責任な言い方なのですが、しかし、存外これは真実なのではないか?

実際にそうだとすると、防災計画全体が大きな瑕疵を持っていることが浮かび上がります。
ある意味でSPEEDIは、政府が避難を司る切り札でもあるからです。政府こそが、放
射能漏れを把握しているのだから、政府の指示を待ちなさいということが言えるからです。
SPEEDIは、原発災害避難を官僚的統制していく上での重要な装置なのです。

ところがそれが実際にはもともと使いものにならなかったという。となると政府は原発事
故の際、どのように逃げることが最も合理的か、判断するすべなど実は持ってないのだと
いうことが明らかになります。だとすれば政府の判断など待っていたらただ無駄に時を浪
費することになってしまいます。緊急時の時間の浪費は生死を分ける問題です。

ではどうすればいいのか。班目委員長はストレートにこう述べています。「直ちに避難す
るようなルールにしておくべきだった」・・・。まさしくその通りなのではないか。

もちろんここには、直ちに公開すれば有効であったかもしれないかったSPEEDIデータ
の未公開問題のごまかしがある可能性があり、実際のところはどうだったのか、きちんと
検証していく必要がありますが、しかしそれでも安全委員会の委員長の発言ですから
これはかなり重みがあります。

しかも肝心なことは、まだこうした原子力防災体制の、何一つもあらためられていないこ
とです。今も昨年3月11日と変わらないマニュアルのもので、実質上何の効果も発揮できな
かった防災体制が組まれたままなのです。ということは現状でも、膨大な放射能漏れが起
こったときに、政府はそれを把握する手段など持っていないということです。そのこと一つ
とってみても、すべての原発の再稼働が認められないことは明らかです。なぜって放射能
漏れをきちんと把握する切り札が偽物で、役にたたないことが明らかにされたのですから。

ここから引き出しておくべき結論は次の点です。もし私たちが再度、原発災害に直面した
ときには「直ちに避難する」ことが必要だということです。政府の判断など待っていては
ダメです。なぜって安全委員長が、判断なんかもともとできない体制だったのだ、すぐに
逃げなければだめだといっているからです。そしてそうであるならば、政府が放射能の
流れる動向を何もつかむことなどできないことを前提とした避難訓練を、自己レベル、家
族や友人を交えたレベル、あるいは地域レベルで行なっていく必要があります。

おりしもこのところ、首都圏をここ数年の間に、直下型地震が起こるのではないかというこ
とが囁かれています。再度、大津波が起きた場合の対処もあちこちで検討されています。に
もかかわらず、ポッカリと原発災害への備えの見直しだけが空白になっています。なぜか。
この問題をきちんと検討するだけで、原発再稼働の道が完全に閉ざされてしまうからです。
いやそれだけではなく。「冷温停止宣言」がまったくの虚構で、私たちが今なお、重大な
危機の前に立っていることがはっきりしてしまうからです。

そうであるならば、私たち市民の側から、原発災害対策を考え、組み上げていく必要があり
ます。それぞれの地域で行政をも巻き込んで、原発災害への備えを作り出していきましょう。
班目委員長の発言から私たちが引き出すべき結論はここにあります。


***************

東日本大震災:福島第1原発事故 班目氏、SPEEDI「避難に使えぬ」--国会事故調
毎日新聞 2012年2月16日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20120216ddm002040092000c.html

◇「計算に1時間」
東京電力福島第1原発事故に関する国会の事故調査委員会(委員長、黒川清・元日本学術
会議会長)は15日、東京都内で第4回委員会を開いた。会合には原子力安全委員会の
班目(まだらめ)春樹委員長と経済産業省原子力安全・保安院の寺坂信昭前院長が出席。
班目氏はSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測システム)に関し、「計算には1時間
必要で、風向きが変わる場合がある。SPEEDIが生きていたらうまく避難できていた
というのが誤解だ」と述べ、住民避難に生かすのは困難だったとの見解を示した。また、
原発に関する国の安全指針について「瑕疵(かし)があった」と陳謝した。

政府のマニュアルでは事故の場合、保安院が緊急時対策支援システム(ERSS)を起動
して放射性物質の放出源情報を把握。SPEEDIで放射性物質がどこに拡散するか予測
することになっている。しかし、今回の事故では、地震による原発の外部電源喪失により、
ERSSからのデータ送付ができなくなって拡散予測はできず、避難区域設定への活用も
できなかった。

班目氏は「SPEEDIの予測結果に頼った避難計画にしていること自体が問題で、直ち
に避難するようなルールにしておくべきだった」と述べた。

安全委によると、仮にERSSからデータが届いていたとしても、今回の事故では水素爆
発や炉心溶融などシステムの想定外の出来事が起きていたため、正確な計算ができず間違っ
た予測結果になっていたという。

また、班目氏はこれまでの国の安全指針について「津波について十分な記載がなく、長時間
の全交流電源喪失も『考えなくてよい』とするなど明らかに不十分な点があった。おわび申
し上げる」と謝罪。その要因について「諸外国では検討しているのに、我が国ではそこまで
やらなくてもいいという言い訳ばかりに時間をかけ、意思決定がしにくい状況にあったこと
が問題の根底にある」と指摘した。

一方、寺坂氏は事故に関する政府の議事録が作られていなかった問題について、「事故当初
に対応できていなかったのは申し訳ない。公文書管理法上も問題がある」と陳謝した。
【岡田英、比嘉洋】


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