明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(439)人と喧嘩しがちなのも、放射線被曝の影響かもしれない・・・

2012年03月28日 17時30分00秒 | 明日に向けて(401)~(500)
守田です。(20120328 17:30)

毎日新聞に「原発事故後に精神科入院、被ばく恐怖「影響」24% 」と
いう記事がでました。原発事故による「心理的ストレス」の問題をいかに
捉えるのか考察していたときだったので、注目したのですが、記事内容が
不鮮明というか、問題の所在がぼやけたものになっています。福島県立大
学のデータに依拠しているのですが、同大の捉え方の限界なのか、取材し
た記者の限界なのか、要領を得ず、また結論も非常によくない記事です。

それでも紹介しようと思ったのは、「原発事故後に、福島県内の精神科に
入院・再入院した患者のうち、放射線被ばくの恐怖が関連した可能性のあ
る人は24・4%と全体の4分の1に達した」という点を紹介しておきた
かったからです。

まず押さえておくべきことは、こうした放射能の恐怖によるストレスもま
た、原発事故の明確な被害の一環であり、東電によって賠償されるべきも
のであるということです。これに対して、山下俊一氏などが、「放射能を
怖がりすぎるからよくないのだ」と、何かあたかも自己責任であるかのよ
うな言辞を繰り返しているのですが、これは被害者を加害者にしたてあげ
る悪質な論理です。

このロジックは、チェルノブイリ事故に際しても、その前のスリーマイル
島事故に際しても用いられたものでした。実際に身体にあらわれている
健康被害をすべてストレスのせいにしてしまい、放射性被害を隠してしま
うものです。山下俊一氏が副学長を務める福島県立医大の調査であるため
に、そうした結論が導出される可能性が懸念されます。


同時に気になるのは記事に「チェルノブイリ原発事故でも放射線が精神面
に与える影響が報告されているが、10年程度たってからの調査だった」
と書かれている点です。「放射線が精神面に与える影響」・・・そのこと
と、放射線を恐るストレスとは別物であることを、記事を書いた記者さん
は理解して書いたのでしょうか。理解しないで、つまりこの違いを差異化
できずに書いているのではないか。

なぜこの点が重要なのかというと、ここで精神疾患と放射線の関係が大き
く別れるからです。通常、問題として指摘されるのは、放射線を恐怖する
ことによるストレスです。先にも述べたように、これとて怖がる当事者が
悪いなどということは断じてなく、放射能漏れ事故が巻き起こした重大な
損害、ないし傷害行為です。

しかしより重要なのは、恐怖によって精神がダメージを受けるだけでなく、
放射線の影響そのものによって、精神がダメージを受けている面があるの
ではないかという点で、僕も、データ的裏付けはないものの、こうした
影響、ないし傷害はありうると考えています。

実はこの点は、僕が「発見」したことではありません。福島市内を訪問し
たとき、あるところでお会いした精神科医の方から聞いた知見です。僕は
この方に「精神科医の立場から、福島の方たちの、精神状態について、
どのような考えているか。精神科の立場から、放射線障害を感じることが
あるか」と質問したのですが、あるという答えがかえってきたのです。

この方の説明によれば、脳の中の記憶などを司る「海馬」という部分が、
細胞分裂が活発であるため、放射線障害を受けやすいところであり、ここ
への放射線によるダメージが、人々の意識の硬直化などにつながっている
可能性があるというのです。この方によれば、放射線が海馬にダメージを
与えること自身は、すでに英語圏で有意なデータに基づく論文が発表され
ているとのことです。(当該論文を僕はみつけていませんが・・・)


もう少し詳しく見ていくと、海馬は新しい記憶の獲得能力や学習能力を
司っている場で、ここが損傷を受けると、古い記憶は保持されていても新
しく認識したことの記憶能力が低下します。アルツハイマー病による記憶
の低下でも、海馬の損傷が伴っていることが確認されています。ここの
損傷が認知症につながってるわけです。

前述の精神科医の方が強調したのは、新しい記憶の中には、新しい発想の
枠組みも入るのだといい点で、それが記憶・学習できないということは、
発想の枠組みを変えにくくなることを意味し、思考の柔軟性が失われれて
いくことにつながるというのです。

ちなみに海馬はまさに精神的ストレスそのものによってもダメージを受け
やすい場所で、それが重なると、うつ病が発症しやすくなることも知られ
ています。その意味で、確かに精神的ストレスによって海馬の損傷や萎縮
がおきやすく、それが免疫力の低下につながり、病気が発生するメカニズ
ムがあるのですが、しかし反対に、放射線によっても海馬はダメージを
受けやすいのです。その場合、「精神的ストレス」が、放射線を直接の契
機によって起こっていることも考えられるわけです。

「今、福島の中では、放射線からいかに身を守るのかをめぐって、大きな
意見対立があり、硬直した相互応酬がみられる場合もあるのですが、私は
確かにそうした硬直性が、ストレスによって生み出されている面もあるも
のの、他方で放射線が海馬にダメージを与えることによって生まれている
面もあると思うのです」。そうこの方が語られてたとき、思わず唸ってし
まいました。


そんなとき、ある友人の話を思い出しました。結婚をし、子どもができて、
今まで住んでいたマンションでは手狭になって、新築の広いマンションに
引っ越した。新居で新しい希望の生活がはじまったはずなのに、その後、
子どもがむずかり続け、お連れ合いが不機嫌になって、夫婦喧嘩が絶えな
くなってしまった。

何度も話し合っても、厳しい状態を抜け出す糸口が見つけられなかったの
ですが、あるとき周りから、「原因はシックハウス症候群なのでは」と言
われた。新築の家屋に使われている化学物質が犯人だというのです。友人
も、確かに新居に入居した時、何かの薬品の匂いのようなものを感じたこ
とを思い出しました。それでもう一度、引っ越したのですが、そうしたら
子どもがすやすや寝るようになり、お連れ合いの機嫌もよくなって問題が
解決した。そのときになって、自分自身が、いつも不機嫌だったことに気
がついた・・・というのです。

この場合、精神的ストレスの引き金になっているのは、化学物質です。こ
れと放射線の害とはメカニズムが違いますが、しかしある意味では似たよ
うなことが起こっている可能性があるのではないか。人々の対立が、全て
ではないにせよ、放射線障害そのもののとしてあらわれているのではない
かということです。


こうした知見を踏まえたうえで、再度、記事の結語部分に返ると、そこに
大きな過ちがあることが見えてきます。とくに記事が「同大神経精神医学
講座の丹羽真一教授は「事故の影響は大きいという印象だ。除染も他人よ
り自分でしたほうが安心できる。住民参加で放射線被ばくの不安を軽減す
る取り組みも(精神的負担を減らすために)重要だ」と話している。」と
結ばれている点です。

何が限界なのか。第一に、除染活動はそれそのものが被曝労働です。なにせ
放射線の高いところにいって、放射性物質を除去する活動をするわけですか
ら、ガンマ線による外部被曝は絶対に避けられない。その上、放射性物質を
扱ったことのない素人が作業に加われば、放射性物質によって、自らを汚染
させてしまい、付着した放射性物質を吸い込んで、内部被曝を受けてしまう
ことも避けられないのです。その意味で除染活動は、脳のストレスを深める
側に物理的に作用する可能性を強くもっており、素人が参加するのは避ける
べきものです。

第二に、「除染は他人よりも自分でしはほうが安心できる」ということ自身
が、まったく根拠がないし、現実を知らないものが言うことです。なぜなら
実際には、自分でしてみると、除染の難しさがわかり、なかなか放射線量が
下がらない現実に突き当たるからです。その点でも、この説明は現状とあま
りに食い違っています。むしろ「精神的ストレス低減にもなるから、除染に
参加しよう」との、現実を無視したプロパガンダにすぎないとすらいえます。

残念なことに、記事を書いた記者さんは、こうした非常に問題の多いコメント
を無批判的に載せて記事を締めてしまっているのですが、再度、確認すべきは、
精神的ストレスの原因は東電の事故にあり、東電はその損害への償いを行うべ
きだということと、放射線そのものが、脳の海馬を傷つけ、記憶低下や新しい
思考の枠組みの形成の困難をもたらし、思考の柔軟性を奪い、結果的に人と
ぶつかりやすい精神状態を生み出している可能性があるということです。

私たちはこうしたことを頭に入れて、互いに接する必要がありそうです。いう
なれば、他者に対して譲歩の気持ちを強め、一歩、優しくなることが、放射線
防護をすすめる上で大切ではないかということです。僕自身、こうした点に
基づいて自らを省みながら、歩んでいきたいと思います。

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東日本大震災:原発事故後に精神科入院、被ばく恐怖「影響」24% 
福島県立医大、県内の患者調査
毎日新聞 2012年3月26日 東京朝刊

東京電力福島第1原発の事故後に福島県内の精神科に入院・再入院した患者の
うち、放射線被ばくの恐怖が関連した可能性のある人は24・4%と全体の
4分の1に達したことが福島県立医大の調査で分かった。外来も事故関連と
みられる新患は3割を占めた。原発事故が精神疾患へ及ぼす影響を示す事故
直後のデータは世界的にもなく、同大は大規模原発事故や長期の避難生活な
どが心にどんな負担となっているのか患者の追跡調査をしていく。【鈴木泰広】

入院調査は同大神経精神医学講座の和田明助教らが、30病院に3月12日か
らの2カ月間のアンケートをし、27病院から回答を得た。

事故による転院などを除いた入院・再入院患者610人(男49%、女51%)
のうち、被ばくへの恐れが関連あると診断されたのは12・1%の74人、
関連があるかもしれないとされた人は12・3%の75人だった。関連がある
患者の割合は原発に近い相双・いわき地域が23~27%と高かった。

関連があるとされた74人中震災前に精神科の受診歴がない人は9人いた。
74人は事故後1カ月以内の入院・再入院が大半。年齢別では40~50代が
ほぼ半数を占めた。自宅の被災や、避難所生活をしていた割合が全体傾向より
高く、大勢が集まる避難所のストレスに被ばくの不安が重なったケースも
みられた。

一方、外来調査は三浦至助教らが77病院・クリニックに3月12日からの
3カ月間(各週1日を抽出)を聞き、57施設が回答した。うつ病や不安障害
などの新患410人を調べたところ、事故関連と診断されたのは19%の78人、
関連があるかもしれないと診断されたのは13・4%の55人だった。
計133人のうち、うつ病が最多で47人、急性ストレス障害・心的外傷後
ストレス障害、適応障害がそれぞれ38人。半数近くが避難生活のストレスを
抱え、4割が放射線の自分への影響、3割が子供など家族への影響の恐怖を
訴えた。

チェルノブイリ原発事故でも放射線が精神面に与える影響が報告されているが、
10年程度たってからの調査だった。同大神経精神医学講座の丹羽真一教授は
「事故の影響は大きいという印象だ。除染も他人より自分でしたほうが安心で
きる。住民参加で放射線被ばくの不安を軽減する取り組みも(精神的負担を減ら
すために)重要だ」と話している。
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20120326ddm001040073000c.html



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