明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(424)東日本大震災・原発大災害から1周年を迎えて

2012年03月11日 23時00分00秒 | 明日に向けて(401)~(500)
守田です。(20120311 23:00)

2012年3月11日の夜がふけつつあります。あの大変な大災害から1年を迎え、この震災と、
原発事故で亡くなられた全てのみなさま、ご遺族のみなさまに、心からの哀悼の意を述
べさせていただくとともに、今なお、苦しい思いをしている方、また原発災害で被害を
うけたみなさまに、お見舞いを申し上げます。

津波のことでも振り返ることが山ほどありますが、あえて原発事故を中心にこの1年間を
振り返ってみた時、日本政府と東京電力が、つねに現に目の前にある危機については明
らかにせず、事態が推移してから何が起こっていたのかを小出しにしてきたことが目に
つきます。

最も深刻だったメルトダウンについても、当初から把握されていたのに、発表は2ヶ月も
経ってから行われました。さらに当初、事故がとめどもなく進行しつつあり、最悪の事態
にいたれば、原発から170キロ圏内を強制避難区域にし、希望者も含めれば250キロ圏内の
避難が必要だという認識が政府内にあったことが、2012年の年頭になって明らかにされま
した。

つい先日は、昨年3月の事故の直後、4号機プールの水が蒸発し、大量の放射能が漏れ出す
寸前にまでなったものの、たまたま原子炉が水で満たされており、そこの水が仕切り板を
破ってプール内に流入したために、最悪の事態がまぬがれたことまでもが発表されました。
もちろん、必死の対処にも大きな意義がありましたが、核心部分は「不幸中の幸い」で最
悪の事態が回避されたのでした。

にもかかわらず、政府も東電も、リアルタイムには「安全」「安全」と同じことを繰り返
し、マスメディアの大半が、それに従いました。私たちの国の住民の多くは、破局的な
危機を前に、何の備えもなく、危機は過ぎ去ったと信じ込まされてしまいました。そうし
て全国的に作られたこの空気の中で、原発事故被災地に多くの人々が、被曝しながらとど
まることにもなってしまいました。

「安全神話」がこの国を覆いっていました。これに災害心理学に言う「正常性バイアス」
が付加されました。正常性バイアスとは、人が危機に瀕した時、危機を認識せず、「事態
は正常に推移していくのだ」という「バイアス=偏見」をかけて危機による動揺を超えて
いこうとする人間的心理をさす言葉です。いわば自分で自分を騙すのです。

そうした状態の中で、政府により「俄かに健康に被害はない」という言葉が連呼され、あ
たかも事故が早急に収束に向かっているかのような喧伝が繰り返されました。「そんなこ
とはない。私たちは今、大変な危機の前にあるのだ」と叫ぶものに対しては、「不安を煽
る悪質なデマだ」といった類の非難が繰り返されました。


そうして1年が経ちました。それでこの国の状態、原発の状態はどうなったのでしょうか。
これまでも述べてきたように、今なお、福島原発は大変な危機の前に立っています。冷温
停止宣言などはあまりのまやかしです。実態としてはとにかく今なお、ぎりぎりの努力で
冷却が続けられている状態です。いや冷却を試みている燃料体の状態すらよくわかってい
ないのです。

さらに懸念されるのが、1500本近い燃料棒が入った4号機のプールです。この建物は、上部
ではなく下部で爆発が起こっている。その上、数千回ともいわれる余震で度々揺らされてい
ます。これが倒壊してしまった場合、大量の燃料棒が外に飛び出し、まったく手の打ちよう
がなくなります。そうなれば他の原子炉も同じこと。結局、昨年3月に試算された最悪のシナ
リオが実現してしまうのです。

しかしこれほどの危機を前にしながら、私たちの国を再び、安全神話が覆っているのです。
多くの人が、大きな余震がきたら、福島第一原発が深刻な危機に陥ることはわかるはずであ
りながら、そんな大規模な余震はこないと思い込もうとしてしまっている。つまり今また
「正常性バイアス」がかかっているのです。その上に政府が乗っかって「安全宣言」を繰り
返しています。

「安全神話」はもうひとつの形もとっています。すでに露出してしまった膨大な放射能を、
「怖くない」といいなすキャンペーンです。このために「放射能は正しく怖がることが必要
だ」などという言葉が繰り返され、「実は放射能はそれほど怖くはないのだ。放射線管理区
域など、特別に厳しく決めていたのであって、実際にはそこに暮らしていても大丈夫なのだ」
といった言説がまかり通り、過去の法律が完全に反故にされてしまっています。

こうした状態を主導しているのも政府ですが、ここでもそれと「正常性バイアス」が結合し
てしまっています。そのため、少し考えれば容易に見えてくるはずの危機が見えなくなって
います。それが事故から1周年を迎えた私たちの国の現状です。だから私たちは二重の危機の
前にある。原発そのものの危機と、安全神話による危機です。


これを打ち破らなくてはいけない。そのために様々な努力が必要ですが、ここで強調したい
のは、本来、私たちの国が大きな力を投入して行わなければならないのは、最悪の事態、そ
れも抽象的な想定ではなくて、4号機が倒壊した場合を考え、その場合にどうするのか、
避難訓練を行うことだということです。これは主に関東・東北を中心としますが、3000万人
という広域の避難が必要なため、西日本や北海道でも受け入れ訓練が必要です。

繰り返しますが、これは起こる可能性がそれなりにあることなのです。首都圏で直下型地震
が高い確率で起こるうると言われていること一つとってもそうです。その地震で、ダメージ
がたまっている4号機が倒壊することもありえます。いや福島第二原発や東海村など、他でも
大事故が発生するかもしれない。それらを射程にいれた訓練が必要なのです。

同時に、各原発サイトでも、今回の事故と同規模の事故を見据えた訓練を行う必要がある。
少なくとも100キロ圏ぐらいの地域での訓練は必須です。とくに福井県の原発銀座から近い
中部、京阪神は、ここでの大規模事故を想定した原発災害訓練が行われる必要があります。
それこそが、昨年の原発大事故から私たちが引き出すべき教訓でなけれなならないはずです。

ところが、津波や地震への対策は検討され、大阪の難波の地下街で津波時の避難訓練がなさ
れたり、東京を襲う直下型地震の可能性が繰り返し指摘されているのに、この広域の原発
訓練だけはまったく話にあがってこない。なぜか。それをすれば原発がどれほど危険なもの
か、あるいは福島原発の今が、どれほど恐ろしい状態かが際立ってしまうからです。

そして、だから一切の訓練をしない・・・というのは、これまでこの国を覆い、今なお、け
しては過去のものになったのではない「安全神話」の正体です。危険性を明らかにしたくな
いために、安全と言い募る。それが事故の前も、事故の後も、今も、行われ続けていること
なのです。


この状態を打ち破るために、みなさんに、避難訓練の実施を呼びかけます。まずは自治体に
要望を出し、少しでも原発災害対策を見直していくことが大切です。実際に滋賀県などで
そうした取り組みが行われつつありますが、さらに市民の側でも独自に災害訓練を行なって
いくことが大事だと思います。

図上訓練でもいい。自分たちの住んでいる周りのどこに原発があるのか。逃げる場合には
どういうルートがあるのか。放射能から身を守るために、どんなものを身につけたらいいの
か。逃げる手段はどうするのか。いざというときに持ち出すものは何か。家族とどこで落ち
合うのか。友人とどう連絡を取るのかなどリアルに想定していくといいと思います。

いや仮にそこまでいかなくても、福島原発の危険な現状をしっかりと認識し、放射線の恐ろ
しさを学習して、防護の観点を身につけることもまた、重要な避難訓練の一環となります。
実際、昨年の事故時も、こういう学習会に参加していた人ほど、早い時期に危険地帯を離れ
ることができたのでした。その意味では放射線に関する学習会自身もまた、避難訓練の一つ
と言えると思います。

災害心理学では、こうした避難訓練こそが、人々を「正常性バイアス」というデッドロック
から救う道だと強調しています。事前に最悪の事態を想定していればこそ、危機に瀕した
ときに、人はそれと向き合い、合理的な退避行動が取れるのです。避難訓練はそのため、つ
まり心理的な混乱をふせぐためにも有効なのです。その意味で僕は、避難訓練こそが安全神
話を打ち砕く道だと思います。

みなさん。ぜひ原発災害訓練に取り組みましょう!それが3月11日から1年経って、私たちが
引き出すべき教訓の中の大きな柱の一つです。そのことを2012年の3月11日の夜に書き記し、
なおかつ、あの津波で亡くなったすべての方に再度哀悼を捧げて文章を閉じます。

事故の教訓から智慧をつかみましょう!かけがえのない、未来世代へと継承していける智慧を!


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明日に向けて(423)東日本大震災一周年追悼メッセージ(内部被曝研より)

2012年03月11日 09時30分00秒 | 明日に向けて(401)~(500)
守田です。(20120311 09:00)

みなさま。東日本大震災発生から1周年にあたり、「市民と科学者の内部被曝問題
研究会」より、メッセージが発信されましたので、ここ転載させていただきます。
なお、現在発売中の『世界』4月号掲載の私のルポに、内部被曝研立ち上げの経緯
について触れてあります。ぜひお手にとってお読みください。

以下転載

********

東日本大震災一周年追悼メッセージ 
2012年3月11日 市民と科学者の内部被曝問題研究会 代表 澤田昭二

東日本大震災の一周年を迎え、あの巨大地震・津波によっていのちを奪われた1万数
千人の御霊とご遺族の皆さまに、心より哀悼の意を表します。

また、東電福島第一原発事故に際し、政府と東電の無為無策によって、原発事故現場
でいのちを奪われた作業員の方々、心血を注いできた農業や酪農の行く手を放射能汚
染によって阻まれていのちを絶った方々、産まれてこられなかった子どもたちとご遺
族の皆さまに、改めて衷心より哀悼の意を表します。

さらに、原発事故による土地や海や食べ物などの放射能汚染に苦しんでおられる地元
福島県をはじめ東北・関東の各都県の方々と全国の皆さまにお見舞い申し上げます。

福島原発事故により浮遊し堆積した放射性物質が放出する放射線による外部被曝の影
響以上に、飲食と呼吸によって継続的に取り込む放射能による内部被曝の影響は、こ
れからも継続し表面化する深刻な問題です。

事故当初より減ったとはいえ、原発事故現場から放射性物質は今なお放出され続けて
おり、福島・茨城両県の環境放射能水準は過去の平常時よりも高い水準を維持し続け
ています。関東と東北を含む広範な地域にも、堆積放射能によるホットスポット的な
高濃度汚染地があり、看過できない状況です。さらに、放射性降下物は水の流れとと
もに徐々に下流に移動するため、下流域の河川や湖沼・港湾ならびに海の放射能汚染
は、これから深刻になることが予想され、農林水産物の安全性が危惧されます。

福島原発が依然として不安定な状態にあるにもかかわらず、政府が「収束宣言」を発表
して幕引きを図ったことや、高線量下に置かれた住民に対する保護責任を果たそうとし
ないことは大問題です。

旧ソ連邦のチェルノブイリ原発事故で被曝したロシア、ウクライナ、ベラルーシでは、
住民の健康保護のために年間被曝線量5ミリシーベルト以上の地域は「移住義務区域」、
1ミリシーベルト以上の地域は「移住権利区域」として、住民の被曝を防護しています。
それに対して、日本では「避難指示解除準備区域」は 年間被曝線量20ミリシーベルト
以下、「居住制限区域」は年間20~50ミリシーベルト、「帰還困難区域」は 現時点で
年間50ミリシーベルト以上」と極めて高い線量を設定しています。このことは、国際
的にみても大問題です。日本の市民がチェルノブイリ原発の周辺の市民よりも放射線
に対する抵抗力が何十倍も高いはずがありません。私たちは、政府に対しては、市民
の健康を守る施策を緊急に実施することを強く求めます。

肥田舜太郎名誉会長の発足挨拶「内部被曝の被害と闘うために」(下記)にあるように、
当会は、市民と科学者が一体となって、内部被曝を含む被曝問題に積極的に取り組み、
子どもたちをはじめとする全国の市民を守るために努力してまいります。     

【市民と科学者の内部被曝問題研究会(略称:内部被曝研) 事務局】
http://www.acsir.org/


内部被曝の被害と闘うために 
「市民と科学者の内部被曝問題研究会」名誉会長 肥田舜太郎

2011年3月11日の福島第一原子力発電所の事故後、5月初め頃から子どもの症状などを訴
える母親からの電話相談が増え、広島、長崎原爆の特に入市被曝者に多く見られて放射
能による初期症状によく似た状況から、私は原発から放出された放射性物質による内部
被曝の症状だろうと直感し、その後の経過に注目してきている。

子どもを持つ母親の放射線被害に対する心配と不安は想像以上に大きく、全国的に広がっ
ている。これに対する政府、東電、関係学者、専門家の姿勢や発表の内容は、ほとんど
が国民の命の危険と生活に対する不安の声に応えるものでなく、原子力発電の持続と増
強を求める業界の声に応えるものと受け取らざるをいない実情である。筆者の経験によ
れば、学習し合い明らかにしなければならない課題は、

① 放射線そのものについて
② 外部被曝、内部被曝の意味
③ 自然放射線に対する人間の持つ免疫能力
④ 人工放射線(核兵器の爆発、原子力発電所で作られる)と人間との関係
⑤ 放射線被曝による被害の治療法はなく、薬も注射も効果はないこと
⑥ 放射線被害に対しては被曝した個人が自分の生命力の力と生活の仕方で病気の発病を
予防し、放射線と闘って生きる以外にないこと
⑦ 放射線の出ている原発からできるだけ遠くへ移住し、また放射線で汚染された食物や
水を飲んだり食べたりしないことといわれるが、それができる人にはよいことだが、でき
ない人はどうするかが極めて大事なことで、この問題にどう応えるのかが、この問題の最
重要課題である。

内部被曝研究会は今でもいろいろな職種の人が集まっていて、医師や弁護士や学者がいれ
ば、肩書きも特殊な技術もない一般職の方々もおられると聞いている。それらの方々が心
と力を合わせて放射線の内部被曝の被害と闘っていく方法や道筋を、話し合い、相談し
合って、少しでも有効な方向を見つけ、発信し、学習し、実践して、今まで人類が経験し
たことのない課題に立ち向かう出発点に立っている。何もかもが未知の新しい道を歩くの
だから、みんな遠慮なく発言し、みんなで考え、一致したことを確実に行っていくことに
なる。

市民と科学者の内部被曝問題研究会編『内部被曝からいのちを守る』(旬報社、2012)よ
り要約抜粋





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