今なにしてる         (トミーのリペイント別館)

カメラ修理などについてご紹介します。
富塚孝一
(お問合せ)tomytmzk@titan.ocn.ne.jp
 

PEN-Dの彫刻文字の巻

2023年03月13日 16時30分00秒 | ブログ

PEN-D #2022XX(1964年2月製)ですけど、初期の生産機についてはトップカバーの彫刻文字が「OLYMPUS」で、それ以後は「OLYMPUS-PEN」になっているのはご存じですね。当初はファインダー部の寸法が大きいのでPENを省略したが、やはり入れた方が良いとなって以後の生産機からは入れるようになったかどうかは知りません。

雑誌の紹介記事でも初期型が採用されていました。だからと言って、特にプレミアムのようなことは無いんですけどね。

 

オーバーホールをしますが、現状の状態としては巻き上げが完了しない。シャッターが作動しない。などですね。

 

過去に分解されていてシャッターも簡易的に分解されています。ケース内に油が回っていますね。これがシャッター羽根に付着したものです。

 

ストロボ用ターミナルの接片が半田剥がれで繋がっていませんでした。また、リード線がほぐれて芯線が露出してショートしています。右のスプリングにクリック用のスチールボールがあるはずですが付いていません。

 

新しいリード線で作り直しておきます。

 

 

トップカバー内面に本来はいらないモルトが貼られています。いらないから・・

 

リード線をハウジングに組み込みました。では、洗浄した地板に組み立てて行きます。

 

すみません。午前中は都内の病院に行っていましたので進捗が遅いです。巻き上げが完了しない原因ですが、この個体の場合はの巻上カムの摩耗とのシャッターユニットと連結するセットバネの劣化で引くと早めに伸びてしまい巻き上げが完了しないためでした。D系はS系と違い1/500がありますから巻き上げが重い傾向にあるので、当然、各部の摩耗も早いわけです。

「修理の手引き」にも巻上カムの説明がありますが、いろいろと対策をしたようです。

 

本体にシャッターユニットを組み込んで、ストロボの発光をテストしてからシボ革を貼るのですが、どうして余計なところまで剥がすのでしょうね。シボ革を剥がすと生地が少しづつ縮んで行くので前カバーが分離出来る最小範囲までで良いのです。

結果的に巻上カムはカムに接するレバー(セットバネ付き)とセットで左のD3のものと交換しました。Dの頃のカムはプレスで打ち抜いただけのカムを熱処理したもので、カム山面がかなり荒れています。D3の頃になると研磨をされていて滑らかな面になっており、この加工で巻上げのフィーリングもスムーズになるのです。メーカーもDの巻上げフィーリングの悪さを承知していて改良しているということ。

シャッタースピードのクリック用スチールボールを追加してカム盤を取り付けます。

 

他の方の修理された個体を見ると、シャッターダイヤルを回すと絞りダイヤルが供回りしてしまう個体を見ることがあります。これは絞りダイヤルのダンパーが利いていないためで、撮影の操作上セットした絞りが動いてしまうのは困るのです。細かなことですが、こんなところも神経を使って組んでいます。

ファインダーの清掃をして本体に取付けトップカバーを閉めます。

 

 

化粧リングを取付けて本体は完成。あとは裏蓋を仕上げます。

 

 

巻き上げテストをしていると、稀にミスが発生しました。そこで再びセットバネを交換しました。巻上カムとセットバネは寸法の違う調整部品が有って、今回は自由長の短いタイプで程度の良いものを使いました。これらの部品は一見同じに見えても、よく比較すると規格が変更されていることが分かります。巻上げの調整範囲は非常に狭く、使用による摩耗が発生すると部品を交換しなければ調整が取れない場合があります。

重量も重い、巻上げも重いで正しく「男のカメラ」です。巻上げ関係の部品が摩耗で修理に時間が掛かりました。

 

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ひどいのあるよローライ35の巻

2023年03月10日 09時55分39秒 | ブログ

たまたまでしょうけど、最近送られてくるローライ35の程度がひどいものが多くなったような気がします。中古店の店長様も「仕入れは賭けだ」とおっしゃっておりました。特に露出計が故障しているものが多いです。メーターのコイル断線は修復できませんからね。このジャーマニーは、巻上げも出来ない。シャッターも下りない。完全な固着状態です。

強制的にシャッターを切ってみます。ロックは外れるが正常に作動していない。

 

 

トップカバーを開けてみると・・1976年に海外で修理を受けているようです。一見何でもないように見えますが、電池の液漏れを起こしたようで、左下、絞りからのリンケージが完全に固着錆びついて動きません。右のレリーズ部分も固着。メーターの追伸針用ギヤも固着。そもそもこのメーターは後期のもので交換されています。そのメーターもコイルの断線で使えません。ふぅ・・

スローガバナーをコントロールするリンケージが全く動きません。

 

 

トップカバー横の留めネジが折れてネジ孔に入ったままです。しかも、姑息にもネジ頭がゴム系接着剤で貼られていたのです。

 

はメーターユニットを留めるネジですが、そこにリード線が半田付けされています。なんでこんなところからアースを取るの? しかも赤リード線は抵抗に繋がっている。ショートしちゃうじゃん。意味分からない・・どっちにしてもこのメーターユニットは使えませんが。

メーターカバーを外してみます。の部分が錆びついていて追伸針を動かす板ギヤが固着しています。メーター自体も電池の液漏れによるガスの影響でダウンしています。このように電池の液漏れを起こすと、内部のメカが激しく腐食したり電気部品をダメにするので、電池の入れ忘れには充分注意しましょうね。

この個体も過去に電池の液漏れを起こして電池室の接点を修復されています。で、沈胴のロック爪が動きません。これはトップカバーの連動レバーが液漏れのガスによって可動部分が腐食して動かなくなっているのでした。

 

その修復された電池室の接点。しかし、再び腐食していて導通がありません。

 

 

しかし、上手く接点を修復していますね。これは参考になります。薄いリン青銅板をループ条に巻いて終端を半田付けしてありました。海外のリペアマンはこのように直すのかぁ・・

 

でも、私は手間は掛かってもオリジナルと同じ形で修復をしておきます。こんなのが続くのでローライ35も疲れます。

 

この個体は#3064XXXだからジャーマニー初期型になるのでしょうけど、巻上げレバーがプラプラになっています。この状態の原因は決まっていて・・

 

チャージギヤの歯が対角2か所欠損しています。電池室に入っていた古い電池がUK製でしたので、力の余っているイギリス人の仕業でしょう。今回はストックが辛うじてありましたが、このギヤは破損している個体が多いですので、どなたか3Dプリンターで製作してくださいませんかね? 大量に発注します。一部のオークションなどで簡易的に3Dプリンターで製作したものが出品されているのは承知していますが、精度と強度が保証出来るレベルの部品が欲しいのです。

本体に裏蓋をセットすると・・なにかしっかりと嵌らない感じでグラついています。カウンター板の中央はCリングが嵌っていて本体側の突起と合致することによって本体と裏蓋の一体性を確保するようになっているので、孔は空いているわけですが、何やら挟まっていますね。

表から見ると・・あぁ、この個体はトップカバー背面の化粧ネジが欠落していたのですが、なんと三脚孔に嵌り込んでいます。これは故意にねじ込まなければ起きない状況です。しかし、ネジ孔の奥は完全ネジではないので、入ったわ最後取り出すことが出来ません。あ~ぁ、どうすんの? このようにいろんな人が考えられないことをしてくれるので疲れます。

私は、どんな小さなな部品でも、ちゃんとしているものを壊すことは大嫌いですが、今回は仕方がありません。リューターで削りネジ孔から取り出しました。裏蓋を閉めてみるとロックキーがゆるゆるです。完全に閉まらない状態に合わせてロック爪などを調整されていたからです。しかし、なぜネジを嵌め込んだのでしょうね。孔が抜けているので光線漏れが起きると思って対策をしたのでしょうかね。

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全く不動のクセナー付きローライ35の巻

2023年03月07日 20時00分00秒 | ブログ

では、ローライ35に戻りますね。クセナー40mm付きのシンガポール製ローライ35です。希少な個体なので直さなければならないのですが全く動きません。まず、巻上げレバーのクラッチが掛からずレバーがプラプラして巻けません。最近、使用中のデジカメのピント性能が落ちたようでピンボケですが、電池室の接点が腐食しています。この腐食具合は内部に色々な劣化を及ぼしているはずです。

まず、メーターが動きません。回路が腐食していますので修復します。巻上げレバーがプラプラになる故障は、ピンセット先の黒い樹脂部品のクラッチがスムーズに上下作動をしていないからです。

 

これは稀にある不具合ですが、シャフトが電池液漏れのガスによって腐食し、表面が荒れて樹脂部品がスムーズに動かなくなっているのです。シャフトは交換出来ませんので、研磨によって荒れを修復します。

 

シャフトを修正してクラッチがスムーズに動くようになりました。過去の分解でスプール軸とチャージギヤとのタイミングが大きく狂わされていましたので修正をしてあります。

 

露出メーターの回路を修復して光源の増減にメーターが振れています。クラッチを修理しました。ファインダーを分解清掃してスローガバナーのメンテナンスをしてあります。

 

沈胴の動きが気になるので沈胴チューブを外してフェルトを調整します。沈胴レールの取付ネジの緩みがありましたので増し締めしてあります。

 

ピンセット先の遮光紙の組み込み位置が間違っていました。過去に分解されているということ。

 

feet機ですね。北米で分解されたものかな? 

 

 

なんでこんなにヘリコイドグリスを詰めるのだろう。相手側にも大量に塗布されています。いくら詰めてもネジ部のグリスしか利かないのに・・

 

電池の液漏れを起こした個体のレンズはトラブルになっていることが多いです。通常の汚れではない曇り方ですね。各面に汚れはありますが主に後玉です。

 

これで良いでしょ。幸い拭き上げできれいになりました。

 

 

トップカバー裏も液漏れの影響を受けて真鍮面が腐食しています。問題は、レリーズに嵌っているピン(スライダー)が全く固着で動きません。このままですとレリーズが使えず、無理をすると私のようにレリーズを1本壊すことになります。表面から叩き出して抜き、洗浄とグリス塗布で組み立てます。(その前にカバーの洗浄と腐食部分に黒塗料で補修)

最近、主にジャーマニーの個体でカウンターの固着(戻らない)が目につきますので点検します。巻き戻しダイヤルは回転が重いので分離清掃と白化した樹脂を黒に戻しておきました。

 

仕上がって見れば良い個体です。電池の液漏れは災難でした。

 

 

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PEN-FTの泣き所の巻

2023年03月03日 12時30分00秒 | ブログ

中古カメラ店様からのご依頼でPEN-FT (B) #2640XX と#2633XXという同時期の生産個体2台のオーバーホールをする予定でしたが、#2640XXの方はシャッタースピードが正確でない。速めになる傾向がありました。そこで、原因を探って行くと・・これですね。テンションシャフトに大きなガタがあります。

シャッターの機構はテンションシャフトに付いているハンマーが反時計回りで回転してガバナーを制御するコントロールレバーを叩きます。しかし、ここでテンションシャフトにガタがあるので、ハンマーがコントロールレバーから早く離れてしまい、結果的に正しいシャッタースピードを維持できないのです。ガタの原因は地板のシャフト孔の拡大です。工場で組み立てられた時に塗布されたモリブデングリスは数年で消滅して、その後は無給油で回転しているわけです。この問題は現存の個体すべてに発生して来る問題です。今回は#2640XXは作業中止とし#2633XXを作業することにします。

26万台としては標準的なヤレ方の個体ですが、低速の1/2と1/1がガバナー停止で切れません。では、分解して行きます。

 

では本体の分解洗浄から始めて行きますが、この個体は巻き上げレバー裏から湿気が入っていたようで、スプロケットギヤなどが腐食しています。長期に放置されていたのでしょう。

 

スプロケットギヤの留めネジを外すとスプロケット軸とギヤが錆びて固着して外れません。

 

軸と軸受けまで錆が進んでいます。スプロケットの回転が重かったのはこのためでした。

 

シャッターの低速不調は超音波洗浄と注油で改善しました。個体によっては歯車が損傷して低速止まりになっている場合もありますのでラッキーでした。チャージギヤのグリスも交換してあります。

 

シャッターユニットを本体に組み込みました。シャッターは低速も含めて調子は良好です。

 

26万台頃ですと保管が良くない個体はハーフミラーに腐食が発生しますね。これは新品と交換します。

 

メカの組立は完成。過去の修理でファインダーの無限調整を受けていましたが、それがズレていましたので再調整をしておきました。

 

付属の42mmが良くありません。過去に分解歴がありますが、ヘリコイドグリスが抜けているだけではなく、回転がゴリゴリします。

 

設計のことは優秀な工学系大学を卒業されたエンジニアの領域で私の門外ですが、恐らく42mmは大口径の絞り羽根を作動させるため、PEN-FT本体側でも能力一杯のレンズだろうと思います。そこに、経時的に本体側の能力の低下とレンズ側のフリクションの増大が合わさって、シャッターは切れてもシャッタースピードか遅くなったり、最悪はフリーズしたりする現象が現れます。ですから42mmのメンテナンスをお受けするのはリスクがあります。特にこの個体のように、ヘリコイドグリスが完全に抜けた状態で使用されていたような個体は他にもいろいろな問題を抱えていることが多いのです。各部を分解洗浄のうえグリスの交換などをして行きます。

外観はかなり使い込まれて磨滅していますが、意外にレンズは持病のレンズ曇りも軽微でコーティングなども良い方です。このアンバランスはなんだろう?

 

組み上げてみると、懸念した通り絞りを最大にするとシャッタースピードが低下します。絞りユニットも劣化によりフリクションが大きくなっているのです。リンケージなど可動部分を潤滑して何とか良好となりました。しかし、本体は26万台とシャッターのメインスプリングが強化された後のユニットが使われているカメラなので良いのですが、10万台などのメインスプリングが強化される以前の個体の場合は問題が起きる可能性もあります。このレンズは恐らく私が扱った42mm中2番目(1番目は組立不能で手元にある)に状態がよろしくない個体でした。みんな大好きの42mmですが、使用に当たっては、カメラ側のコンデションを含めて組合せに注意をする必要があります。

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未分解? PEN-Fの巻

2023年03月01日 21時30分00秒 | ブログ

れいなPEN-F #2739XXです。ミラーアップ状態で来ましたが、応急復帰が出来ません。

 

キズも殆んどないきれいなFですので未分解機かと思いましたが、トップカバー内の光学系をやり直しています。前板等シャッターには手を付けていません。

 

強制的にミラーを戻すと・・あら、リターンミラーが剥離していますね。これがフリーズの原因かは分かりませんが。Fの初期まではリターンミラー押さえがネジ留めされていましたが、中期より押さえが省略されたので発生するようになった不具合です。当初からミラー剥がれが懸念されていたのでしょうかね。接着は完全硬化に時間がかかるので、作業の最初にミラーホルダーを分離して再接着をしておきます。(接着不完全の場合はシャッターを切ると簡単に剥離します)

では、本体を洗浄して組み立てて行きます。

 

 

やはり、あまり使用されていない状態の良いユニットです。スローガバナーもしっかりとしています。洗浄後にギヤ軸にグリスを塗布しておきます。

 

完成したユニットを本体に取り付けます。

 

 

シャッターを切ってみます。非常に調子が良い。

 

 

ブレーキリングを留めるリングナットは緩み止めのため対角2か所にポンチを打ってありますが、この個体の場合、ポンチが強すぎてナットの変形が大きくナットが緩みません。工場から出たら二度と分解出来ないサービス泣かせの組立。

ブレーキは最悪の状態でもないので今回は分解しません。とすると書くことも無いのですが・・後期の個体ですのでプリズムは基本的に良好で黒点は1つかな、コーティングは完全です。しかし、Fのピント面のマット側下部(組立時)に油が滲んでいるようです。これを清掃しておきます。

部品のメッキ状態やプリズム、全反射ミラーの劣化は殆ど無く、保管状態は最高ですが、なぜか接眼プリズムのコーティングだけは両面清掃で無くなっていました。

 

今回、交換予定でした全反射ミラーも再使用となりました。トップカバーを締めます。

 

底部もメッキの状態は良くきれいです。

 

 

付属の38mmとFメーターも良好のため作業は実施せずに完成とします。1966年3月製造。

 

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