中古カメラ店様からのご依頼でPEN-FT (B) #2640XX と#2633XXという同時期の生産個体2台のオーバーホールをする予定でしたが、#2640XXの方はシャッタースピードが正確でない。速めになる傾向がありました。そこで、原因を探って行くと・・これですね。テンションシャフトに大きなガタがあります。
シャッターの機構はテンションシャフトに付いているハンマーが反時計回りで回転してガバナーを制御するコントロールレバーを叩きます。しかし、ここでテンションシャフトにガタがあるので、ハンマーがコントロールレバーから早く離れてしまい、結果的に正しいシャッタースピードを維持できないのです。ガタの原因は地板のシャフト孔の拡大です。工場で組み立てられた時に塗布されたモリブデングリスは数年で消滅して、その後は無給油で回転しているわけです。この問題は現存の個体すべてに発生して来る問題です。今回は#2640XXは作業中止とし#2633XXを作業することにします。
26万台としては標準的なヤレ方の個体ですが、低速の1/2と1/1がガバナー停止で切れません。では、分解して行きます。
では本体の分解洗浄から始めて行きますが、この個体は巻き上げレバー裏から湿気が入っていたようで、スプロケットギヤなどが腐食しています。長期に放置されていたのでしょう。
スプロケットギヤの留めネジを外すとスプロケット軸とギヤが錆びて固着して外れません。
軸と軸受けまで錆が進んでいます。スプロケットの回転が重かったのはこのためでした。
シャッターの低速不調は超音波洗浄と注油で改善しました。個体によっては歯車が損傷して低速止まりになっている場合もありますのでラッキーでした。チャージギヤのグリスも交換してあります。
シャッターユニットを本体に組み込みました。シャッターは低速も含めて調子は良好です。
26万台頃ですと保管が良くない個体はハーフミラーに腐食が発生しますね。これは新品と交換します。
メカの組立は完成。過去の修理でファインダーの無限調整を受けていましたが、それがズレていましたので再調整をしておきました。
付属の42mmが良くありません。過去に分解歴がありますが、ヘリコイドグリスが抜けているだけではなく、回転がゴリゴリします。
設計のことは優秀な工学系大学を卒業されたエンジニアの領域で私の門外ですが、恐らく42mmは大口径の絞り羽根を作動させるため、PEN-FT本体側でも能力一杯のレンズだろうと思います。そこに、経時的に本体側の能力の低下とレンズ側のフリクションの増大が合わさって、シャッターは切れてもシャッタースピードか遅くなったり、最悪はフリーズしたりする現象が現れます。ですから42mmのメンテナンスをお受けするのはリスクがあります。特にこの個体のように、ヘリコイドグリスが完全に抜けた状態で使用されていたような個体は他にもいろいろな問題を抱えていることが多いのです。各部を分解洗浄のうえグリスの交換などをして行きます。
外観はかなり使い込まれて磨滅していますが、意外にレンズは持病のレンズ曇りも軽微でコーティングなども良い方です。このアンバランスはなんだろう?
組み上げてみると、懸念した通り絞りを最大にするとシャッタースピードが低下します。絞りユニットも劣化によりフリクションが大きくなっているのです。リンケージなど可動部分を潤滑して何とか良好となりました。しかし、本体は26万台とシャッターのメインスプリングが強化された後のユニットが使われているカメラなので良いのですが、10万台などのメインスプリングが強化される以前の個体の場合は問題が起きる可能性もあります。このレンズは恐らく私が扱った42mm中2番目(1番目は組立不能で手元にある)に状態がよろしくない個体でした。みんな大好きの42mmですが、使用に当たっては、カメラ側のコンデションを含めて組合せに注意をする必要があります。