資料に目を落としながら、怪訝な表情を見せた。
「うん? 北海道はどうした? 青森までしかないぞ。
まさか青函連絡船だから止めたなんていうんじゃないだろうに。
どうせなら、全国総ナメと行こうや」
「分かりました、すぐにも調べます。
ところで社長、なんで東北はだめだったんで?
手が回らなかったと言えばそうなんですが、らしくないと思ってたんですが」
「いや、どうということはないんだ。ただ何となくでは、納得できんだろうな」
「らしくないです、まったく社長らしくない。まさか方角が悪いなんて言いませんよね」
「東北出身なんだよ、俺は。良い思い出がなくってな。
あやうく間引きされかかったんだよ。母親の乳の出が悪くて、虚弱体質に育っちまってな。
ひょろひょろだったよ。いま風に言えば、聞くも涙語るも涙さ。お涙チョーダイものよ」
「そりゃあ、ご苦労なさったんですねえ」
「こらっ! 殊勝なことを言いやがって。本心からそう思っているのか?
だとしたら、五平。お前とも、本日ただいま、今日限りだぞ」
「へへへ……、すみませんです」
「まったく、お前だって似たようなものだろうが。
日本全国そこかしこで聞ける話だろうに。
『俺はなんて不運なんだ』なんて考える奴は、だめだ。
世間さまを恨む奴に、ロクな奴はいない」
「まったくその通りで。お情けにすがって生きる奴は、死んだ方がましですよ」
「そこまで言ってやるなよ。どうしようもない事情ってのもあるんだ、世の中には。
ただまあ、そういうお方には、静かにしててもらうさ」
「ところで、今夜はどうしますか? 繰り出しますか、久しぶりに。
電話が入ってましたよ、梅子姐さんから。新婚旅行の土産を待ってるから、帰ったらお出でと」
「いや、しばらくは欠勤だ。すかんぴんなんだぜ、いまの俺は。
おとなしくしてるさ、お家で。小夜子が居ない、寂しいお家でな」
「らしくもない、らしくもない。
それじゃあたしがお相手して、一杯やりますか? 女っ気なしの酒盛りでもしますか?」
「いいなあ、そいつも。開店当時を思い出しながらやるか?」
「それより、間引き話を聞きたいですよ」
「ああ? 酒の肴にしようってか?」
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