昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百六十三)

2022-07-26 08:00:16 | 物語り

 資料に目を落としながら、怪訝な表情を見せた。
「うん? 北海道はどうした? 青森までしかないぞ。
まさか青函連絡船だから止めたなんていうんじゃないだろうに。
どうせなら、全国総ナメと行こうや」
「分かりました、すぐにも調べます。
ところで社長、なんで東北はだめだったんで? 
手が回らなかったと言えばそうなんですが、らしくないと思ってたんですが」

「いや、どうということはないんだ。ただ何となくでは、納得できんだろうな」
「らしくないです、まったく社長らしくない。まさか方角が悪いなんて言いませんよね」
「東北出身なんだよ、俺は。良い思い出がなくってな。
あやうく間引きされかかったんだよ。母親の乳の出が悪くて、虚弱体質に育っちまってな。
ひょろひょろだったよ。いま風に言えば、聞くも涙語るも涙さ。お涙チョーダイものよ」
「そりゃあ、ご苦労なさったんですねえ」
「こらっ! 殊勝なことを言いやがって。本心からそう思っているのか? 
だとしたら、五平。お前とも、本日ただいま、今日限りだぞ」
「へへへ……、すみませんです」

「まったく、お前だって似たようなものだろうが。
日本全国そこかしこで聞ける話だろうに。
『俺はなんて不運なんだ』なんて考える奴は、だめだ。
世間さまを恨む奴に、ロクな奴はいない」
「まったくその通りで。お情けにすがって生きる奴は、死んだ方がましですよ」
「そこまで言ってやるなよ。どうしようもない事情ってのもあるんだ、世の中には。
ただまあ、そういうお方には、静かにしててもらうさ」

「ところで、今夜はどうしますか? 繰り出しますか、久しぶりに。
電話が入ってましたよ、梅子姐さんから。新婚旅行の土産を待ってるから、帰ったらお出でと」
「いや、しばらくは欠勤だ。すかんぴんなんだぜ、いまの俺は。
おとなしくしてるさ、お家で。小夜子が居ない、寂しいお家でな」
「らしくもない、らしくもない。
それじゃあたしがお相手して、一杯やりますか? 女っ気なしの酒盛りでもしますか?」
「いいなあ、そいつも。開店当時を思い出しながらやるか?」
「それより、間引き話を聞きたいですよ」
「ああ? 酒の肴にしようってか?」



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