小麦色にやけた小夜子に、富士商会の面々がいちようにおどろいた。
「小夜子さま、大変身ですね」
「すごく健康的で、いちだんと美人に見えますです、はい」
「小夜子さまなら、ミスユニバースに、あ、だめか。ミセスなんだ、もう」
口々に褒めそやす。その一人ひとりに「ありがとう、お世辞でもうれしいわ」と、応える小夜子。武蔵はうんうんと頷いている。
「みんな聞いてくれ。小夜子を、社長づき営業部員とすることに決めた。
かんたんに言えばだ、接待役だな。交渉事はしないけれども、場に同席させる。
どんどん取引先を、会社に引っ張って来い」
「やったあ!」
「うわあ、すてきい!」
「よおし、これでもう! だぜ」
ばんざいをする者、こぶしを突きあげる者、拍手をする者。そして、泣きだす者さえでた。
「おいおい、どうした。泣くことはないだろうが」
「だって、だって……。これでもう、悪口を言われずにすむかと思うと。
嬉しくてうれしくて、なみだが、かってに出ちゃうんです」
「そうか、そうか。女子社員には、苦労をかけるな。
いやがらせの電話がときどき入っているらしいが、もう大丈夫だぞ。
そんな電話はな、みーんな小夜子にまわせ。ガツン! としかってくれるさ」
とつぜんに話をふられた小夜子、事態がのみこめずにキョトンとしている。
「そんなこと、できません! 大丈夫です、もう。今度かかってきたら、言いかえしてやりますから。
くやしかったら会社においでなさい、って。お姫さまに逢いにおいでって、やさしくいってやります。」
「そんなこといって、ほんとに来たらどうするんだよ」
「えっ、えっ、どうしよう、どうしましょう」
掛け合い漫才がはじまり、どっと笑いがおきた。
「こらこら。そんなときは、男どもが撃退しろ。
女性をまもってやれない男なんて、こんりんざい、嫁さんをもらえないぞ!」
武蔵が突っこむと、笑いがさらに大きくなった。
「それなんだけどさ、うちの男どもはみんな、きゃしゃだもんね。
守ってもらえそうにないわ。やっぱりあたしたち女が、一致団結して撃退しましょう。
でも、小夜子さまはだめ。お姫さまは、奥の院にいてもらわなくちゃ」
「ううん、あたしもやるわよ」と、小夜子が前に進みでた。
「お姫さまを矢面に立たせたとあっちゃ、あたしの女のこけんがすたるわ。
あたしが、でんと入り口に仁王立ちして阻止してみせるから」。大女、おおんなとからかわれている女子社員が、仁王立ちをして見せた。
「そうそう、うしろにはあたしたちがいるから。安心して、きっと骨はひろってあげるから」
気勢のあがる総勢六人の女子社員。小夜子を含めて、七人の女侍が誕生した。
「こら、男ども! 情けないぞ! 女性にあんなことを言わせてもいいのか?
おまえら、一生、女の尻にしかれることになるぞ!
しっかりしろ、まったく。よーし。男たちで、トキの声をあげるぞ」
五平の音頭とりで、「えいえい、おー!」と、声がひびいた。
なにごとかと、通行人がのぞき込むほどに、富士商会が燃えあがった。
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