(五)コークハイ
ドギマギしながらも、
「失礼します」
と女に声を掛けて座る少年だ。
しかし女からは、何の反応もない。
壁に寄りかかりながら、目を閉じている。
眠っているわけではないようだ。
かすかに指が動いている。
「何にします?」
「コークハイ、ください」
「はいよ! コークハイ、ね」
突然、女の目が開いた。
そして、軽蔑のまなざしを少年に向けた。
“コークハイですって! ふん、お子ちゃまね”
少年の耳に、女の声が聞こえたような気がした。
しかし少年は無視する。
差し出されたコークハイを半分ほど飲み込むと、ジンと快い刺激が喉を襲う。
ゆっくりとグラスをカウンターに置くと、耳に入り込んでくるバンド演奏に聞き入る。
そしてそのジャズ演奏に、身を委ねる。
少年の体に染み入ってくる生のジャズに、次第に陶酔していく。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます