(一)
フルバンドで演奏されるインストゥルメンタル。
グレンミラー風の演奏が流れると、一気に店内が盛り上がる。
女給たちに促されて、客がダンスに興じ始めた。
五三会の面々もそれぞれのパートナー相手に、ダンスに興じる。
今夜の主賓である杉田も、薫のリードよろしく踊っている。
軽快なスィングジャズに乗って、皆が幸せ一杯の表情を見せた。
そんな中、ひとり正三だけは、良心の呵責に苛まれている。
「なんてことをしてしまったんだ、僕は。
こんな所に、ひとり小夜子さんを放り出していたのか。
国家プロジェクト遂行のためとはいえ、か弱い婦女子を。」
「どうしたの? お坊ちゃん。
一人でぶつぶつ」言ってないでさ…」
と、正三を持て余し気味の女給だ。
“あーぁ、今日は厄日だわ。
約束してた馴染み客は来ないし、上客だと思った男は軟弱者だし。
こんなの、どうしたらいいって言うのよ。
薫さん、何とかしてよね。”
ちらりちらりと正三に視線を送る薫、技量不足が恨めしい。
“千景さんったら、なにやってんの!
塞ぎ込んでる男なんて、簡単でしょうに。
あぁもう、じれったい!”
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