(三)
「な、何をするんだ! そんな、ことはして欲しくない。
失敬な奴だ、まったく。」
言葉とは裏腹に、正三のざらついた気持ちが和み始める。
「ねえ、正坊。
なんでそんなに怒ってはるの?
お仕事がうまく行かなかったん?
大丈夫よ、次は良いお仕事ができますって。」
「しょ、正坊とは! 馬鹿にしているのか、僕を。
初対面の君に、なんでそんな風に言われなきゃならんのだ。
女給風情に馬鹿にされるとは、実に気分が悪い。」
眉間にしわを寄せつつ、ひとみの差し出すグラスを手にし口に運んだ。
「な、なんだ、これは。
酒か、こんなものが。
苦いし、泡だらけじゃないか!」
「初めてなん? ビールというお酒ですよ。
おいしいですやん、うち好きやし。」
正三からグラスを奪い取ると、一気に飲み干した。
「お前の、その顔。
ひげが生えてるぞ、あははは!」
ひとみの口周りの白い泡リングに、思わず笑い出した正三だ。
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