昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十一)の三

2013-05-11 12:28:22 | 時事問題

(三)

「な、何をするんだ! そんな、ことはして欲しくない。
失敬な奴だ、まったく。」
言葉とは裏腹に、正三のざらついた気持ちが和み始める。

「ねえ、正坊。
なんでそんなに怒ってはるの? 
お仕事がうまく行かなかったん? 
大丈夫よ、次は良いお仕事ができますって。」

「しょ、正坊とは! 馬鹿にしているのか、僕を。
初対面の君に、なんでそんな風に言われなきゃならんのだ。
女給風情に馬鹿にされるとは、実に気分が悪い。」

眉間にしわを寄せつつ、ひとみの差し出すグラスを手にし口に運んだ。

「な、なんだ、これは。
酒か、こんなものが。
苦いし、泡だらけじゃないか!」

「初めてなん? ビールというお酒ですよ。
おいしいですやん、うち好きやし。」

正三からグラスを奪い取ると、一気に飲み干した。

「お前の、その顔。
ひげが生えてるぞ、あははは!」

ひとみの口周りの白い泡リングに、思わず笑い出した正三だ。


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