昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~RE:地獄変~ (八)その大きな通りには

2024-09-25 08:00:17 | 物語り

 その大きな通りには比較的大きな店が多くて、そうそう百貨店もあるのです。
お正月に集まる親戚のおじさんおばさんとともに、お買い物をしたりお食事をしたり、そしていち番の楽しみは屋上での乗り物あそびでした。
バス停のない大通りだということで、いまバス停新設陳情と申しますのですか、この間「署名してくれ」と町内会長さんがまわってこられました。
父にも役員になってくれとお誘いの声がかかってしまいますが、すぐには無理だが近いうちにはと答えていたようです。

 両親ともにお店がありますので、お休みは元旦の日だけでした。
日曜日や旗日なんぞは、とくにお店が忙しく休みにはなりません。
で、必然ひとり遊びばかりでしたが、仕方がありません。
ご近所には同じ年頃の娘もおりませんし。

たまに町内会のお兄さんやお姉さんたちが映画館やら遊園地に連れていってくださいましたが。
正直のところは寂しい思いをしておりました。
ですが両親の頑張りのおかげで、上級の学校にも通えるのでございます。
辛抱せねばバチがあたるというものです。

 その道々、学校での授業のこと、上級生の品定め、もちろん先生方のそれも話題に上ります。
そしてたがいの名前の話になりました。
「小夜子という名前、よろしかったら差し上げましょうか? 
わたくし正直なところ、好きになれませんの。
小夜子という漢字は美しいと思うのですよ。
でもね、ひらがなにしますと、さよこ。
なんとも弱々しく感じられませんこと? いやだわ、わたくし。
それにですよ、カタカナなんぞになりましたら、サヨコ。なんて冷たいんでしょう!」

 貴子さんにはうなずいていただけたのに、一子さんは異をとなえられて首を横にふっていました。
「あたくしは納得できませんわ」と、応じられました。
彼女の口からでたのは
「漢字というものは美しさを求めて作られたものでしょう? 
ひらがな文字は女性特有の文字ですから、弱々しくそしてさらには柔らかくやさしいことばですわ。
カタカナ文字については、西洋ことばを日本ことばにしてしまうのが多いですよね。
西洋ことばは強すぎる傾向が多くありますし、冷たく感じられるのも道理じゃないでしょうか」
そして最後に「兄の受け売りなのですが」と、付け加えられました。

「お兄さまって、帝大に通ってらっしゃるのですよね?」
と貴子さんの声、でもわたくしにはわかっています。
一子さんのお考えです。わたくしの方こそが、ある方の受け売りなのです。
やはり一子さんは、三郎さまのお妹さんですわ。
頭がおよろしいんです。でもそれをひけらかすこともないんです。
学校の試験もあまり高い点数はとられませんし、成績も中の下といったところでしょうか。
どうも目立たれることが苦手のようでして。
まあたしかに器量という面でいえば、たしかに……。
ですので地味というか、劇中でいえば村人その一といった具合でした。

 



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