昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ご め ん ね…… 問屋街(七)

2023-06-04 08:00:00 | 物語り

「かりにも社長令嬢だぞ。それに年上なんだから、そんな口の利き方はやめろ」
 先輩社員にしかられるが、そうなると反こつ心がムラムラと湧いてくるのだ。
立場が上の人間にたいしては猛然と反発心がわいてくる。
というよりは、ニヒリズムに心酔している――自分に酔っているのかもしれない。
あの友人の影響であることは、中学時代のじぶんといまの己をくらべれば一目瞭然だ。
おどおどと人の顔色ばかりをうかがっていたぼくだったが、歯にきぬ着せない言動でクラス内で浮いた存在となったものの、その実みなから一目置かれる存在の彼のかげにかくれているぼくだった。
それがいまでは、その友人が乗りうつったかのごとき振る舞いをしている。

「それでさ、そのデートには、あたしも付いていくから。
静子ちゃんには麗子さんがついて、あなたにはあたしが付いてあげる。
来週の日曜日ということで、場所は岐阜城よ。歴史をお勉強しましょ」
 一方的に取り仕切られて終わった。中学時代にもどったような錯覚におそわれた。
そして「幼なじみなのよ、麗子さんとは」と、聞きもしないことも教えられた。

 そもそものことが、貴子の世話焼きからのことだった。
つい先日に彼氏とのあいだに別れ話がおき、むしゃくしゃする気持ちが収まらず、この悪だくみを思いついたらしい。
「なんですって。お休みには、おひるまで白河夜舟なの? 
そんなじゃ、目玉がくさるわよ。少しははやおきしなさい。
そうだ! 彼女がいれば、いいのよ。どうせ、いないでしょ。
そうね…どんな女の子がいいかしらね。いいわ、待ってなさい。
あたしが見つけてあげるから」

 余計なお世話だとばかりにかみついた。
「そういう自分はどうなんだよ。ぼくよりそっちが先だろうが。
見つけてあげるなんていっといて、まさかぼくに『あたしなんか、どう?』なんて言うんじゃないだろうな。
年上はイヤだからね」
「なに言ってるの。『年上の女房は、金のわらじを履いてでもさがせ』なんていわれてるのよ。
それに、このナイスボディよ。いいよる男なんか、星の数ほどいるんだから。
お見合いの話がね、先日もきたの。でもね、あたしは安売りしないの。玉の輿にのるんだからね」

 こんな丁々発止のやりとりが楽しくてたまらない。
そして周囲のあわてふためく様が、どうにも小気味よく感じるのだ。
「どうしてぼくなんだ?」と問いかけても、ぼくの出身が福岡だと知って興味をおぼえたといい、「ひみつの多い女性のほうが魅力的じゃない」と、まるで相手にしてくれなかった。



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