「今夜の耀子さんは、おかしいですよ」
彼の首に巻き付いてる腕をほどきながら、耀子の目を見つめた。
しかし妖艶さを漂わせているその目は、容赦なく彼を責め立てた。
「女にだって、性欲はあるのよ。
のぶこのおかげで、体の火照りが止まらないの。
ミタちゃん、お・ね・が・い。鎮めさせて」
言うが早いか、耀子は体を入れ替えて馬乗りになった。
そして彼の指を口に含んだ。
艶めかしく動く舌先が、彼の指先を弄び . . . 本文を読む
短い文面だった。
耀子らしいと言えば、これ程如実に性格を現していることはない。
サッパリとした性格で、即断即決をモットーとしていた。
善悪二元論を唱えて、単純明快な生き様をしている耀子だった。
〝何だろう、今頃。大会出場の件は、話がついてるのに。まさか、出場しろなんて〟
訝しく思いつつも、電話ボックスから緊急連絡用にと教えられた番号に電話をかけてみた。
「は~い。ただいま、留守にしています。メ . . . 本文を読む
たけしお兄ちゃんへ。
お元気のことと思います。
気になることがあり、お手紙を出します。おばさんのことで、悪い噂が立っています。たけしお兄ち
ゃんがそちらに戻られた翌月から、毎月男の方がおばさんを訪ねてみえます。 . . . 本文を読む
(百九十一)
彼は、ひと言も発することなく聞き入った。彼の母親にも通じる苦労に、言葉が出なかった。牧子は、彼の手をしっかりと握りしめて、話を続けた。
母の復讐心というのは、そんな苦労のせいじゃないの。お祖父さんの、毎晩の愚痴なの」
『おまえのせいで、息子は死んだんだ!』
『おまえが来てから、婆さんの気苦労が始まった。それが高じて死んだ!』
「それが、毎晩のように続いたの。殴られたことも、あっ . . . 本文を読む
「今の母は、夜叉なの。復讐心の固まりなの。そのことに母は、傷ついているのよ。父は、一年の大半を出稼ぎで留守にしていたの。そのことは、母も覚悟していたらしいわ。どこの家でもそうだったから。そんなことじゃ、ないの。 . . . 本文を読む
Tシャツにホットパンツ姿の牧子が、居た。
額に汗を浮かべた牧子が、居た。
満面に笑みを浮かべた牧子が、そこに居た。
しかし何かしら違和感を感じさせる牧子が、居た。
「どうして、どうして、連絡くれなかったの!」
彼は、激しく詰め寄った。
「ごめんね。急だったから、連絡できなかったの。とに角入って、ねっ」
と、牧子は彼の手を取った。
と同時に、牧子の目からどっと涙が溢れ出た。
そして彼を抱き寄せる . . . 本文を読む
真理子よりの、短い文だった。流れるような字体で、初めて見る真理子の文字だった。
「あの時に入れてくれたのか。だけど、何だって手紙なんか。まるで、永遠(とわ)の別れみたいな書き方をして」
彼は気にも留めずに、郵便受けの中に戻した。 . . . 本文を読む