9日(日).昨日,文京シビックホールで東京フィル「響きの森クラシックシリーズ」公演を聴きました プログラムはベートーヴェン「交響曲第9番ニ短調”合唱付き”」で,指揮は世間で”炎のコバケン”と呼ばれている小林研一郎,ソプラノは最近売出し中の市原愛,アルトの山下牧子,テノールの大槻孝志,バスの青戸知は新国立オペラでお馴染みの歌手です
合唱は1992年に小澤征爾の要請で設立された東京オペラシンガーズです
コンマス・三浦章宏さんの合図でチューニングが始まります オケの編成は左から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,その後ろにコントラバスというオーソドックスな配置です.指揮者の小林研一郎が,折れた指揮棒に黒いテープを巻いたタクトを持って登場します.よほど思い出深い指揮棒なのかいつも同じタクトを使って楽員とコンタクトを取ります
第1楽章が開始されます.かなりゆったりしたテンポです.母親が子供にゆっくりと何かを言い聞かせるような息の長いテンポです 音符の一音一音を豊かに響かせ聴衆に届けようという意志を感じます
第2楽章のスケルツォもほぼ同じアプローチです.途中,第2ヴァイオリンが美しいメロディーを奏でるところがありますが,ベートーヴェンは第2ヴァイオリンにこんなに美しい音楽を任せたのか,と感動さえ覚えました ゆったりしたテンポの中,管楽器に一部アンサンブルの乱れがあったのはご愛嬌です
第2楽章が終わったところでコバケンはオケにチューニングを要請,その間に,ソリストが入場してコーラスの前にスタンバイします
第3楽章のアダージョは,さらにテンポが落ちて今にも止まりそうでしたが,徐々にテンポアップして安心しました.ベートーヴェンの交響曲の中でも屈指の美しいメロディーです.私は第9ではこの楽章が一番好きです
コバケンは第3楽章から間を空けずに第4楽章に突入しました.バリトンの青戸が今にも噛みつきそうな形相で”友よ,この音楽でない・・・”と歌い始めます ベートーヴェンはこのくらいの迫力で歌ってほしいよな,と思うほど良く声が通っていました
オーケストラの総奏が終わり,チェロとコントラバスによる”喜びの歌”のテーマが始まる直前,コバケンは長めの休止を取ります.一瞬,この曲が終わってしまったのではないかと勘違いするほどの長いポーズです これはコバケン一流の”演出”です.そうすることによって,聴衆に対して,次に出てくる音に集中させ,期待感を持たせようとしているのです
この楽章だけでも何度かそういう場面がありました.
コバケンの”演出”と言えばもう一つあります.コーラスが歌っているときに,指揮をしながら観客の方に振り向き,左手で天井を指差す仕草を見せます これはコーラスに対して,”歌の心を観客に,あるいは遠くにいる見えざる観客に届けよ”とメッセージを伝えているのだと思います
ソリストは市原愛,山下牧子,大槻孝志,青戸知ともに声がよく出ていました また,東京オペラシンガーズは迫力のあるコーラスを聴かせてくれました
東京フィルは三浦コンマスのもと,力強いベートーヴェンを聴かせてくれました
コンサートが終わって,いつものように,80歳を越えてなお元気にコンサート通いを続けておられるAさん,Tさんとホール近くの喫茶店でおしゃべりをして帰ってきました 「次は2月2日ですね.よいお年を!」とAさん.私の場合次は今月中なので,そうだったかな,と思い,後で調べたらこのシリーズの次回は2月2日,ベートーヴェンの第7交響曲とピアノ協奏曲第5番”皇帝”(ピアノ:仲道郁代)でした
Aさん,Tさん,くれぐれもお身体を大切に,よいお年をお迎えください