16日(日).昨日朝,巣鴨駅に向かって歩いていたところ,地蔵通り商店街入り口付近の道路に民主党の選挙カーが止まっていて,多くの私服・制服の警察官が出ていました 翌日の衆議院議員選挙を控えて野田首相が遊説に来るに違いないと思って、若い警察官を捕まえて「野田首相でも来るんですか?」と訊くと,「そうです.それで警官が駆り出されて多数出ていんです」との答えでした.時間があれば野田首相の演説を聴きたいと思ったのですが、映画に間に合わなくなってしまうので諦めました。これでいい野田
閑話休題
昨日,渋谷のシアター・イメージフォーラムでライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督「マリア・ブラウンの結婚」を観ました 1979年西ドイツ映画(120分)ですが,日本での公開は翌1980年2月です.私がこの映画を観るのは2度目ですが,もし初公開の年に観たとすれば32年ぶりのことになります
映画の冒頭はマリアとヘルマン・ブラウンが登記所で結婚式を挙げるシーンですが,その会場が爆撃されます かろうじて証人のサインをもらい二人は夫婦になります.爆撃音を縫って聴こえるのはベートーヴェンの「交響曲第9番」の第3楽章「アダージョ」です
二人は半日と一夜を共に過ごしただけで,ヘルマンは戦場に向かいます.戦争が終わり,マリアは友人のベティと一緒に夫を探しに駅に行きます.ベティの夫ウィリーは無事帰りますが,ウィリーから「ヘルマンは戦死した」と告げられます
マリアは生きるために家にある貴重品と,部屋を温めるマキや母親のためのアルコールと物々交換をして生活を支えます
その後,バーで知り合った黒人ビルと付き合うようになりますが,突然,生きているはずのないヘルマンが戦場から戻り,家で仲睦まじくしている二人を目撃します.マリアがビール瓶でビルを殴り殺しますが,ヘルマンがその罪をかぶり投獄されます.マリアはいくたびかヘルマンに面会するため刑務所に通います.その間,あるきっかけで実業家に気に入られ,その会社で責任のある仕事を任せられます お金を貯めたマリアは自分の家を買い,刑期を終えて出てきたヘルマンを迎えます
ガスレンジで煙草に火を点けたあと,スイッチを切らず,息を吹きかけて消したことからガスが出しっぱなしになりますが,彼女は気が付きません
もう一度,マリアがタバコに火を点けたところで建物は大爆発します
苦労を重ねてやっと幸せを手に入れたマリアですが,結局は一瞬のうちに命を落とします
32年ぶりにこの映画を観て,何か所か記憶違いがあることが分かりました.私の記憶では,ベートーヴェンの第9のアダージョが流れるのは,マリアが駅で汽車を待つシーンだったと記憶していたのですが,冒頭の爆撃のシーンでした.これは意外でした 私の頭の中では、第9のアダージョはいずれ再会する夫との喜び(第4楽章”歓喜の歌”)を前にしたマリアの希望の音楽として位置づけられていました。それが実は違っていた訳です。したがって、どういう理由でファスビンダー監督が冒頭シーンで第9の”アダージョ”を使ったのか分からなくなりました
もう一つは,記憶違いか編集上の理由なのか分からないのですが,冒頭か,最後のシーンか忘れましたが,歴代の西ドイツの首相の写真が次々と爆発して散っていく場面があったと記憶しているのですが,今回のフィルムではそのようなシーンはありません
この映画では,マリアが実業家2人と食事をするシーンでモーツアルト「ピアノ協奏曲第23番変ホ長調K.488」第2楽楽章”アダージョ”が流れます 初めてこの映画を観たときにも、監督のセンスの良さを感じましたが、この選曲は素晴らしいと思います
今回あらためて観て,初めて気が付いたのはマリアが裏商人と取引をするシーンで微かな音で流れていたR.シュトラウス「バラの騎士」の伯爵夫人とオクタビアンの二重唱と,同様の場面で流れたハイドン「弦楽四重奏曲"皇帝”」第2楽章(映画では”ドイツ国家”と言っていた)の2曲です
このように西ドイツのファスビンダー監督が「マリア・ブラウンの結婚」で使った音楽はハイドン、モーツアルト、ベートーヴェン、R.シュトラウスと、ドイツ・オーストリア系の”正統派クラシック”音楽であることが分かります
この映画はヒロインのマリア・ブラウンを演じたハンナ・シグラなくしてはあり得ない映画です 彼女はこの映画で第29回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞しています
イメージフォーラムでは,初日来場者を対象に,先着50人に「マリア・ブラウンの結婚」非売品ボストカード(ハンナ・シグラ)をプレゼントしてくれました