15日(日)。13日付朝日夕刊に「イグ・ノーベル賞に日本人 移植後はオペラが効く」という記事が載りました記事を要約すると、
「人々を笑わせ、考えさせる研究や業績に贈る今年の『イグ・ノーベル賞』で日本人研究者が『医学賞』と『化学賞』を受賞した 日本人の受賞は7年連続。医学賞を受賞したのは帝京大医学部の新見正則准教授ら。マウスの腹に別の心臓を移植すると、その心臓は免疫の拒絶反応で8日後には鼓動が止まる。ところが手術後にオペラ『椿姫』を聴かせ続けると、平均26.5日、最長約100日間も心臓が動き続けた 鼓膜を壊すと効果はないため、音楽が脳を介して免疫反応に影響していると考えられる」
「モーツアルトの音楽を流しながら酒を醸造すると味が滑らかになる」とかいう話はよく耳にしますが、オペラ「椿姫」が心臓の働きを促進するという話は初めてです が、ここで疑問なのは、ひとことで『椿姫』と言うけれど、①長いオペラのどの部分(アリア?)なのか、②誰の演奏(歌?)なのか、ということです。一番考えられ易いのは第1幕冒頭の『乾杯の歌』です。シャンパンやワインで乾杯する歌なら健康に良さそうだし、心臓の働きを活発にするような気がします。ハズレだったら『完敗』です・・・・・・・ヴィアータくらいのレベルの低さでしたね
閑話休題
次は同じ13日付朝日夕刊の中村紘子さんのインタビュー記事の話です 「クラシック音楽に未来はありますか?」という質問に、彼女は次のように答えています
「役目を終えてはいないと思いますが、大きな未来があるとは思えないですね 表現形式も楽器も完成しているから、それを上回る魅力を持った音楽がこの先出現するかどうか。いい音楽は演奏家に触感的な感動を与えるんです。キーを通したある種のエクスタシー、その恍惚感が聴衆に伝わる 加えて、天才が生まれる土壌が社会にありません。時間をかけて育まなければならないのに、大衆社会は才能ある人の足を引っ張るか、成熟を待たないまま摩耗させてしまう 一種の大衆迎合をしないと世の中に出られない面もある。クラシックはそもそも、愛好人口が広がる性質の音楽ではなかったと思います むしろ現代の日本はかなり広がっている方ではないでしょうか」
この中で「時間をかけて育まなければならないのに、大衆社会は才能ある人の足を引っ張るか、成熟を待たないまま摩耗させてしまう」と言っているのは、彼女の名著『チャイコフスキー・コンクール』の中でも言及しているアメリカのピアニスト、ヴァン・クライヴァーンのことを念頭に置いていることは間違いないでしょう 「米ソ対立」という世界情勢の中、ソ連で開かれた第1回チャイコフスキー・コンクールで何とアメリカのピアニスト、クライヴァーンが優勝したのですから世界中が大騒ぎになりました その結果、大人気となったクライヴァーンはハードな演奏旅行を組まされ、優勝曲であるチャイコフスキーやラフマニノフなどの限られたピアノ協奏曲だけを演奏するように求められ、結局スポイルされてしまったのです それと同じような傾向が現在でもある、と彼女は言っているのだと思います
も一度、閑話休題
昨日、東銀座の東劇でMETライブビューイング・アンコール、プッチーニ「トゥーランドット」を観ました 東劇に着いて、ロビー奥のマッサージチェアを利用しようとしたのですが姿形が見えません。どうも撤去されたようです。休憩時間のお伴がなくなり寂しい限りです。自席はR10番、センター通路側席です
このライブ映像を観るのはこれで5回目です 何と言ってもフランコ・ゼフィレッリの演出が群を抜いていますヴェルディ「アイーダ」、プッチーニ「ラ・ボエーム」とともにMETにおける彼の3大演出と言っても良いでしょう とにかく絢爛豪華で、”本物”の香りがします。この公演は2009年11月7日に米メトロポリタン歌劇場で上演された公演の録画です
アンドリス・ネルソンスの気合の入った指揮で幕が開きます この迫力でこの公演は半分成功したようなものです。オペラは最初が肝心です
マリア・グレギーナの、冷酷なトゥーランドット姫の役に徹した歌と演技が光ります 現在、彼女を超すトゥーランドット歌手はいないでしょう マリーナ・ポプラフスカヤのリューの歌と演技は観る者の涙を誘います。この当時、彼女はまだMETにデビューして間もない頃でしたが、聴衆の心をすっかり捉えています
一方、男性陣では、カラフ役のマルチェッロ・ジョルダー二が絶好調で、第3幕の有名なアリア「だれも寝てはならぬ」は最高の出来でした また、カラフの父ティムール役のサミュエル・レイミーは豊かな低音で聴衆を魅了しました
先に、この映画を観るのは5回目である旨書きましたが、何度観ても鳥肌が立つほど素晴らしい舞台、演出、歌手陣です。現在望みうる世界最高水準の『トゥーランドット』と言っても過言ではないでしょう