20日(金)。昨夕、初台の新国立劇場でモーツアルトの歌劇「ドン・ジョバンニ」を観ました キャストは、ドンジョバンニ=マリウシュ・クヴィエチェン、騎士長=妻屋秀和、レポレッロ=平野和、ドンナ・アンナ=アガ・ミコライ、ドン・オッタ―ヴィオ=ダニール・シュトーダ、ドンナ・エルヴィーラ=二コル・キャベル、マゼット=久保和範、ツェルリーナ=九嶋香奈枝ほか。演奏はエンリコ・マッツォ―ラ指揮東京フィル、演出はグリシャ・アサガロフです
ドン・ジョバンニを歌うマウリシュ・クヴィエチェンはポーランド生まれのバリトンで、昨年10月に米メトロポリタン歌劇場で同じタイトルロールを歌って絶賛されました。私はMETオペラ・ライブビューイングで観ましたが、歌といい演技といい素晴らしいのひと言でした。それが、生で聴けるということで楽しみにしていました
スペイン生まれのマッツォーラのタクトが振り下ろされ、序曲が始まります 冒頭のフォルテの和音を聴いて、この公演の成功を確信しました。モーツアルトのオペラは序曲を聴くとその全体の善し悪しが判断できます。すごい集中力です 東京フィルが指揮者の意図に忠実に反応しています。これを聴いて、ドイツの名指揮者フルトヴェングラーのデモ―二シュ(悪魔的)な演奏を思い出しました
モーツアルトのオペラで好きなのはどれか?と問われたとき、若いときは断然「フィガロの結婚」が一番で、次が「魔笛」、3番目がやっと「ドン・ジョバンニ」という順番でした 今は「ドン・ジョバンニ」が一番です。とくに序曲から導入部にかけて、つまりレポレッロの不平の歌から、逃げるドン・ジョバンニと彼を追うドンナ・アンナとの激しいやり取り、駈け付けた騎士長とドン・ジョバンニとの決闘に至るまでのノンストップ音楽を聴くと、わくわくどきどきします モーツアルトは何と素晴らしい音楽を書いたのか
クヴィエチェンを初めて生で観て聴いて、さすがは”現代最高のドン・ジョバンニ歌手”と言われているだけあるなと思いました。タイトルロールに求められるパワフルでセクシーですべての女性にやさしい人間像を見事に演じ、歌い上げていました とくに第1幕で一気呵成に歌う「シャンパンの歌」は圧巻でした
レポレッロ役の平野和(やすし)はグラーツ歌劇場とウィーン・フォルクスオーパーの専属歌手契約をしているバスで、その歌唱力は日本人離れしています。「カタログの歌」は見事でした。声量もあるし身のこなしも素晴らしい歌手です
ドンナ・アンナ役のアガ・ミコライはポーランド生まれのソプラノですが、よく通る美しい声で聴衆を魅了しました
ドンナ・エルヴィーラ役の二コル・キャベルはカリフォルニア生まれのソプラノで、第2幕で歌う独唱曲「なんというひどいことを」は揺れる女心を切々と表現していました
ドン・オッタ―ヴィオ役のダニール・シュト―ダはロシア生まれのテノールですが、声の質はこの役に合っていると思うものの、声量に物足りなさを感じました
ツェルりーナ役の九嶋香奈枝は新国立オペラではお馴染みのソプラノですが、コケティッシュな役柄を演じ美しい歌声を聴かせてくれました
騎士長役の妻屋秀和はミスター新国立劇場と言ってもいいほど、お馴染みのバスです。何を歌わせてもソツがありません。今回も重みのある騎士長の大役を十分に果たしました
最後に、素晴らしい歌手陣を支えたマッツォ―ラ指揮東京フィルの演奏は素晴らしかった、と再度強調しておきたいと思います よく歌手を支え、ときに自ら”歌って”モーツアルトの世界を表現していました
昭和27年10月29日歌舞伎座で「フィガロの結婚」が上演されていますねぇ。このときも女人禁制は破られたのでしょうか?