18日(月)。昨日、サントリーホールで仲道郁代の「オール・モーツアルト・プログラム」コンサートを聴きました プログラムはピアノ独奏で①キラキラ星変奏曲ハ長調K.265、②ピアノ・ソナタ第11番イ長調”トルコ行進曲付K.331”、仲道の弾き振りで③ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467、④同第20番ニ短調K.466です
自席は1階20列29番と、かなり後方の右サイドです。会場は9割方埋まっているでしょうか 拍手に迎えられて仲道郁代が上がゴールド、下が白のドレスで登場、マイクを持ってあいさつします
「今日はお越しいただきありがとうございます。いつもと違って、ご覧のようにピアノに蓋がありません。蓋がないなんて、ミもフタもない話ですが(会場)。蓋を外さないと、指揮をしながらピアノを弾くのにオーケストラの人たちが見えないのです。いつもは蓋が反響板になって前に音が出ていくのですが、今日は上に向かって出ていきます。最初はピアノ・ソロの曲なので蓋をしたまま演奏しても良いのですが、協奏曲になったときに皆さまが戸惑うといけないので、最初から外して演奏します」
”ミもフタもない話”のシャレには思わず笑っちゃいましたが、ユーモアは人気ピアニストの条件でもあるのでしょうね もっとも、蓋のないピアノは”ミもフタもない”のではなく、フタはないけれど(ドレミの)ミはあります。ピアノですから
そして、曲の解説をしてから「きらきら星変奏曲ハ長調K.265」を軽やかに演奏しました 次いで2曲目の「ピアノ・ソナタ第11番イ長調K.331」について次のように解説し演奏に移りました
「モーツアルトの曲は日本では明治時代に入ってきて、現代まで同じ演奏解釈が受け継がれてきましたが、モーツアルトの時代に今のような弾き方をしていたとは限りません その後、モーツアルトの時代の演奏が研究されました。今日はその研究に則って弾きます。第3楽章のトルコ行進曲の部分はいつもと違うと思います。お聴き下さい」
なるほどトルコ行進曲のリズムがいつもと違います。ちょっとひっかかるというか、音符が多いような気がします
次に演奏するピアノ協奏曲の弾き振りについて解説します
「指揮をしながらピアノを弾く、弾き振りは、もっとおばあちゃんになって、”巨匠”と言われるようになってからチャレンジしたいと思っていたのですが(会場)、思わぬことから実現することになりました。皆さんに背中を向ける形で指揮をしながらピアノを弾きます。モーツアルトの協奏曲は2011年末にゲルハルト・ボッセ先生と神戸市室内合奏団と共演する予定だったのですが、先生が体調を崩され、その後死去されたことから急きょ私が弾き振りすることになりました そのようなきっかけを作ってくださったボッセ先生に捧げるつもりで演奏したいと思います」
オーケスラのメンバーが登場しスタンバイします。ピアノを中央にして、左に第1ヴァイオリン、チェロ、右にヴィオラ、第2ヴァイオリンが向かい合う対向配置をとります コンマスは女性です。そして仲道郁代の再登場です。弾き振りをするためでしょう、髪の毛を後ろで軽く束ねています
ピアノ協奏曲第21番が始まります。仲道の右手に注目が集まります。ン?あれは何だ 指揮棒というより箸のように短い棒です。仲道が指揮棒を振ると、箸で納豆をかき混ぜているような・・・・・・弾き振りのための苦肉の策なのでしょう
仲道は時にピアノに集中し、時に右手でピアノを弾きながら左手で指揮をし、時に立ちあがって両手で各楽器に合図を送ります 指揮をするときは身振り手振りを大きくしてオーバー・アクションを取ります見ていて、ちょっとせわしない感じがしなくもないのですが、懸命にモーツアルトに対峙する姿は美しくあり頼もしくもあります
オケの神戸市室内合奏団は個々人の演奏レベルが相当高いと思います 管楽器もいいし、弦楽器のアンサンブルも美しく響きます。次のピアノ協奏曲第20番でも、仲道の弾き振りのスタイルは変わらず、懸命に単調のモーツアルトに対峙していました デモーニッシュな演奏まではいま一歩だったと思いますが、それでもモーツアルトの魅力が十分に伝わってくる素晴らしい演奏でした
会場溢れんばかりの拍手とブラボーに、楽器セクションごとに立たせて賞賛し、首席と握手をして、舞台の前後左右の声援に応えました そして、聴衆との再会を祈ってエルガーの「愛のあいさつ」を愛情を込めて弾きました
とても気持ちの良い楽しいコンサートでした クラシック・コンサートというと、演奏者が黙って出てきて演奏して、終わるとニコニコして、はいさようならという硬いイメージがありますが(実際その通りなのですが)、演奏前に演奏する曲や演奏する気持ちを聴衆に語りかけることによって、少しでも距離を縮めようとする努力はもっとあっても良いのかも知れません
ロビーには主催者側だけでなく芸能人からの花束がいくつか飾られていて、彼女の交友関係の広さを物語っていました また当日配られたチラシ類を見るとファン・クラブがしっかりしていて、企画力もあり、動員力もあることが伺えます そういうバックボーンのあるピアニストは決して多くないでしょう。もちろん本人の努力あっての人気だとは思いますが、幸せなピアニストです。これからも、きっとクラシック・ピアノ界のセンターを歩んで行く人だと思います。中道行くよ