3日(日)。昨日、文京シビックホールで東京フィルの「響きの森クラシック・シリーズ」公演を聴きましたプログラムは①ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第5番”皇帝”」、②同「交響曲第7番」の2曲。この組み合わせは、最も人を呼びやすいプログラムと言っても過言ではないでしょう
指揮は世間で”炎のコバケン”と呼ばれる小林研一郎、①のソリストは仲道郁代です
このブログにも書きましたが、1月15日にまったく同じプログラムを外山雄三+読売日響+小川典子の演奏で聴いています 否が応でも聴き比べることになります
舞台中央にセッティングされたピアノの椅子を見て”おやっ?”と思いました。椅子の前の方の脚が短いのです。つまりピアニストが座ると自然と前のめりになるようにセッティングされているのです 仲道郁代のベートーヴェンの”皇帝”に対峙する覚悟を示しているかのようです
仲道郁代がゴールドのドレスに身を包まれて小林研一郎とともに登場します 小林はいつも通り、折れた箇所を黒のテープで巻いた指揮棒で開始の合図をします
冒頭からピアノが華麗に登場します。目の前で演奏する彼女の演奏を観て聴いているうちに、私は先日の小川典子の演奏を思い浮かべていました
小川は終始うつむき加減で余裕がなく、そのせいか音楽が内にこもった感じがして、開放感がありませんでした
それに比べて、目の前で展開する仲道の演奏は堂々としたもので”皇帝”に相応しい輝きに満ちていました
とくに感心したのは第1楽章「アレグロ」です。これまで何回この曲を聴いてきたか分かりませんが、これまで聴こえていなかった左手による旋律がはっきりと聴こえてきたのです 彼女の演奏を聴いて初めて”第1楽章にはこういうメロディーが隠れていたのか”と気づきました
第2楽章のアダージョはあくまでも静かにそして美しく演奏しました そして続けて演奏された第3楽章「ロンド:アレグロ」の何と力強いことか。これが”皇帝”だ!という堂々たる演奏です
小林のタクトが上がり、会場一杯の拍手とブラボーが仲道に押し寄せました 仲道はオケも立たせるよう小林に促しますが、小林はソリストを立てます。それが何度か繰り返されました。仲道という人はステージマナーが素晴らしいと思いました
舞台に呼び戻される際、小林が仲道の肩を抱きながら何やら囁きました。そして強引にピアノの椅子に座らせて、自分は第1ヴァイオリンの席に(半分)座ってしまいました
仲道は「子犬のワルツを弾いてちょうだいって言われたんです
」とタネを明かして、演奏に移りました。軽やかに弾むように演奏し、また会場一杯の賞賛を受けました
正直言ってこれまで仲道郁代というピアニストに対してはあまり良いイメージを持っていませんでした。美人を売りにして人気を得ているけど、演奏はたいしたことないじゃん、と思っていたのです しかし、この日の演奏を境に、彼女に対するイメージは一新しました。彼女は演奏も素晴らしいし、ステージマナーも素晴らしいピアニストです
これからはもっと生で聴きたいと思います
2曲目のベートーヴェン「交響曲第7番」は、ご存知”のだめカンタービレ”のテーマ音楽です 小林は情熱的にタクトを振り、東京フィルから強靭な音楽を引き出していました
とくに第3楽章「プレスト」ではティンパ二に思いきり叩かせベートーヴェンの推進力を見せつけていました
圧倒的なフィナーレで、会場割れんばかりのブラボーと拍手に包まれ、小林はいつものようにオーケストラのメンバーをセクションごとに立たせて賞賛を集めました そして会場の拍手を制して「きょうはありがとうございました。アンコールには”静かな曲”を演奏したいと思います
」とアナウンスして、弦楽セクションによってドヴォルザークの「ユーモレスク」を思い入れたっぷりに演奏しました
この日は何はともあれ、仲道郁代の再発見、再評価の記念すべきコンサートになりました