...書き込んだ男を直撃取材
2/9(日) MBSニュース
ネット通販サイトで、自社製品を売るための「ヤラセ」の高評価レビューがはびこっている“ヤラセレビュー”問題。現状を取材すると、高評価の「上げ」レビューだけでなく、低評価のヤラセ「下げ」レビューも存在することが分かった。
SNSで書き手を募集 「罪悪感はない。ラッキーって感じ」
インターネット通販で問題となっている“ヤラセ”のレビュー。大手通販サイトAmazonなどで、実際には商品を使っていないのに最高評価の星5つや高い評価のコメントが横行している。ヤラセの理由は、出品業者が自社商品の売り上げを増やすためだ。
仕組みはこうだ。中国の出品業者などがSNSで、全額返金する条件で星5つのレビューを書いてくれる人を募集。実際に一旦は購入してもらい、高いレビューと引き換えに商品代金を全額返金する。
実際にヤラセレビューを書いている人は…
「罪悪感は無いですね。ラッキーっていう感じ。セールとかの100%割引版みたいな。」(ヤラセレビューを書いている女性)
一方、業者側も…
「いけないことだとは私達も知っていますが、知っての通り、実は多くの人がやっています。だからうちも。」(ヤラセレビューを募集する中国の業者 ※電話取材に回答)
ヤラセレビューを集める業者、その依頼に応じて書く人、双方が罪悪感無く行っている実態がある。
さらに、ヤラセレビューには、商品の評価を上げる「上げ」レビューだけでなく、故意に評価を下げる「下げ」レビューもあるという。取材班が話を聞いたのは、富山市にある電機メーカー「トモスメイカー」の社長・松田大輔さん。松田さんはヘッドライトなどをAmazonで販売していて、明るさが自慢の夜釣り用ヘッドライトは月に売り上げ300万円のヒット商品だ。しかし、去年7月、こんなレビューが書き込まれた。
【書き込まれたレビュー】
「敷地に使うとき、爆発しまた!ありえないです!弁償を求めるのに無視されました!最悪です!」
ぎこちない日本語で書かれた星1つのレビュー。この書き込みがきっかけで、松田さんは商品の安全性が確認されるまでAmazonでの販売を停止させられた。
そして、約10日後に返品されてきた商品を見てみると…。
「全く使われていない未開封品、未使用品でした。そのまま商品も使えましたし、特に何事もなく。(販売停止の期間が)10日間ですね。まるまる100万円くらい損している計算ですね。」(トモスメイカー 松田大輔さん)
松田さんはこの客にメールを送ったが返信が来ず、住所も分からなかったため、結局、真意を確かめることができなかった。松田さんは偽計業務妨害の疑いで警察に被害相談をしている。
消費者がヤラセレビューを判別するためのツールも登場している。経歴書の添削など転職希望者を支援するサイト「ぶっちゃけ面接官」を運営するユウさんは去年7月、新たにAmazonのレビューの信頼性を診断するサイト『サクラチェッカー』(https://sakura-checker.jp/)を立ち上げた。
「最近ここ1~2年くらいで買った商品がすぐ壊れたとか、レビューに書かれていることと全然違うなと思うようなことがあったので。」(サクラチェッカー開発者 ユウさん)
サクラチェッカーは、レビューの文言や点数の分布、書き込まれた日付の偏りなどを総合的に分析し、その商品にヤラセレビューがある確率(=「サクラ度数」)が分かるという。
例えば、口コミ件数83件、星の平均が4.0のイヤホンを調べてもらうと…
「99%の確率でこの商品にサクラがいるとサクラチェッカーは断定している。怪しい日本語のサクラのレビューが異常に多いと。その『怪しい日本語のサクラレビュー』も見られます。」(サクラチェッカー開発者 ユウさん)
【サクラチェッカーが“怪しい”と判断したレビューより抜粋】
「私が試した他の耳付きヘッドセットとは違って、とても快適で耳に残っています。」
「これは一般的な日本人の方が使う言葉ではないと思います。」(サクラチェッカー開発者 ユウさん)
また、口コミ件数879件、星の平均が4.2点のモバイルバッテリーは…
「こちらはサクラ度が99%と出ていて、サクラチェッカーは星1.67と判断しAmazonよりかなりスコアが低い。レビュー分布を見ると、良い商品だと、星5・星4・星3・星2・星1とちょっとずつレビュー数が少なくなりますけど、この商品は星5の次に星1のレビューが多く、分布としてはやや不自然なところがみられる。」(サクラチェッカー開発者 ユウさん)
サクラチェッカー公開から約半年、これまでに検索された商品のうち2割程度がサクラ度60%以上の商品だという。
「(消費者は)何を信じていいのかが分からなくなる。そういう方が減るように、本当に良い商品が選べるように提供したいなと思って作りました。」(サクラチェッカー開発者 ユウさん)
Amazonでヘッドライトを販売し、去年7月に“下げレビュー”を書き込まれた松田大輔さん。去年11月にもまた、「商品が爆発した」という連絡がAmazonに入り、再び販売停止に追い込まれた。
「全く同じ商品です。完全に狙われている感じですね。こういうのが続くと撤退しようかなと、ここ最近思えてくるようになってきました。」(トモスメイカー 松田大輔さん)
取材班は“爆発の通報”をした人物を割り出すことに成功し、去年12月に横浜市内で直撃した。
(Q本当に爆発しましたか?)
「爆発していません。あの、その件は…。私は“彼”とインターネットで知り合ったのです。」(爆発の通報をした男)
男は台湾出身の20代で、日本語を話すことはできないという。この男はSNSで知り合った中国人の男から、「全額返金するので松田さんのヘッドライトを買わないか?」と持ち掛けられ、返金の条件として次の文章をAmazonへ送るように指示されたという。
【中国人の男から爆発の通報をした男に送られたメッセージ】
「製品に爆発が発生し、あともう少しで私の傍の労働者に怪我を生じさせるところでした。非常に危険であり、貴社におかれましては、商品の安全性について調査をお願いいたします。」
「中国人の男に『この報告をAmazonにしないと返金はしないよ』と脅されました。ごめんなさい、申し訳ないです。」(爆発の通報をした男)
中国人の男が下げレビューを募集
取材班は男に、下げレビューを依頼してきた中国人の男について知っていることを尋ねた。
(Q彼は中国メーカーの担当者ですか?)
「いえ、仲介業者です。彼は色々な中国メーカーと提携しているのです。」(爆発の通報をした男)
台湾出身のこの男によると、中国人の男は商品の出品業者ではなく、レビューを集める仲介業者。複数の中国の出品業者から依頼を受けて、レビュー集めをしていて、この内の1つが松田さんと競合するヘッドライトの出品業者なのだという。確かに男のSNSのアカウントを見ると、別のヘッドライトについて宣伝をしていることが分かる。競合する松田さんの商品を貶めようとしたのだろうか。後日、取材班はこの中国人の男に電話をしてみたが…
「この電話番号は現在使われていません。」(中国語の音声)
時に他者に損害まで及ぼすヤラセレビュー。ネット通販への信頼が失われる前に対策が求められている。
(2月6日放送 MBSテレビ「Newsミント!」内『特集』より)