公開日:2016年7月25日 11時00分
更新日:2019年6月18日 10時28分
公益財団法人長寿科学振興財団
高齢者に発生しやすいフレイルは、適切に予防すれば日頃の生活にサポートが必要な要介護状態に進まずにすむ可能性があります。そのため、フレイルの予防にはフレイルのメカニズム(フレイルサイクル)を良く理解し、正しい介入方法を行う必要があります。今回はフレイルサイクルやフレイルへの介入方法についてわかりやすくまとめます。
フレイルを予防することの意味
フレイルを予防することの意味は、2つあります。1つはフレイルに陥らないようにすること、もう1つはフレイルが進行するのを防ぐことです。対応方法はどちらも似ているので、フレイルの予防としてまとめて説明します。
フレイルサイクルとは
フレイルの基準を提唱したFriedらは、フレイルサイクル1)についても提示しています。図は、論文を元にわかりやすいように簡略化しています。
図:フレイルサイクル 1)より改変
フレイルサイクルにあるサルコペニアとは、筋肉量が減少し、歩行速度が低下しているような状態を指します。フレイルの状態の中でも、筋肉に注目した概念です。
サルコペニアには、加齢によるサルコペニアと病気に伴って起きるサルコペニアがあります。サルコペニアを出発点としてフレイルサイクルを説明すると、まず加齢や病気で筋肉量が低下しサルコペニアを起こすと身体の機能が低下します。具体的には足の筋肉量低下により歩行速度が落ちたり、疲れやすくなるため全体の活動量が減少します。全体の活動量が減少すると、エネルギー消費量が減り、必要とするエネルギー量も減少します。わかりやすくいうと、動かないとお腹が空かないので食欲もなくなります。
加齢による食事量の低下に加えて、食欲低下もあると慢性的に栄養不足の状態になります。慢性的な低栄養の状態は、サルコペニアをさらに進行させ、筋力低下が進むという悪循環へ陥ります。この悪循環を適切な介入によって断ち切らないと、フレイルサイクルを繰り返し要介護状態になる可能性が高くなります。
では、フレイルサイクルを断ち切る、またはフレイルサイクルのスピードを遅くするための介入方法はどのようなものがあるか次に説明します。
フレイルへの介入方法
フレイルの介入方法には、持病のコントロール、運動療法、栄養療法、感染症の予防などが挙げられます。
1.持病のコントロール
糖尿病や高血圧、腎臓病、心臓病、呼吸器疾患、整形外科的疾患などの慢性疾患がある場合には、まず持病のコントロールをすることが必要です。フレイルの筋力低下には、この後に説明する運動療法が有効ですが、持病のコントロールがされていないと高齢の方は体を動かすという気持ちになれないこともあります。また、持病の治療がうまくいっていないとフレイルを悪化させてしまう可能性もあります。
2.運動療法と栄養療法
高齢者に対し適切な運動療法を行うと、サルコペニア、筋力低下に対しては、高齢者であっても運動療法によって筋力が維持される、ということが一部研究で報告されています2)。運動療法は個人に合ったものから始めることが大切です。ベッドの上で足の運動を行うことから始まり、椅子に座ったり立ち上がったりを繰り返したり、歩行距離を徐々に延ばしていくように運動強度を調整します。筋力が低下している状態で、いきなり立ち上がったり、無理に歩行しようとすると転倒や骨折を起こす危険があります。
また運動療法は栄養療法とセットで行う必要があります。低栄養状態で運動を行っても筋肉がつかないどころか、低栄養状態を助長してしまいます。筋肉をつけるために必要な良質なタンパク質を摂れるような食事指導をします。
3.感染症の予防
高齢者の場合は、免疫力が低下していることが多いためインフルエンザや肺炎にかかりやすいといわれています。インフルエンザや肺炎をきっかけに、重症化して入院、そして寝たきりになってしまうこともあります。日頃から適度な運動やバランスのよい食事などにより感染症に強い体作りをするだけでなく、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを接種しておくのもフレイルを予防する1つの方法といえます。