2020年5月14日
プレスリリース

IGESでは、環境と持続可能性を確保するという観点から、COVID-19に関連する重要な問題を特定しました。その結果、COVID-19の世界的大流行(パンデミック)が多くの環境問題と密接に関連し、さらに将来の持続可能な社会の構築に関わる課題であるという認識のもと、この問題に積極的に取り組んでまいります。

現状への対応と将来に向けた復興を効果的なものとするためには、人為的な環境へのストレスというウイルス感染の遠因とグローバルな移動という感染の拡大促進要因と併せて、このパンデミックの多岐にわたる諸側面を考慮する必要があります。さらに、この危機からの復興プロセスは、持続可能な社会に向けた変革的(トランスフォーマティブ)な変化を実現するための重要な契機としてとらえる必要があります。今すぐに必要な対策もありますが、中にはより長い期間にわたって重要になるものもあります。本基本方針では、どのような環境・持続可能性の課題がこの危機と関連しているのか、そしてその解決策にはどのようなものがあるのかを、「短期」、「中期」、および「長期」に分類して明確にしました。

IGESはこの方針のもと、回復力があり(レジリエントで)持続可能な世界を創造することに貢献し、将来における感染症のパンデミックリスクの最小化に貢献することを目的に、国内外の関係機関と協力し、COVID-19の影響に関する研究を開始しました。本研究と各取り組みを通じて、健康な人々と健全な地球に向けた変革を推進してまいります。


基本方針全文
https://www.iges.or.jp/jp/pub/covid19-j/ja


【新型コロナウイルス(COVID-19)が環境・持続可能性に及ぼす影響―IGES基本方針― 抜粋】

<基本原則>

  • COVID-19の危機は、人間と野生生物の間の有害な相互作用と、現代のグローバリゼーションの特徴の一つでもある国境を越えた人とモノの移動の組み合わせによって引き起こされた。前者はCOVID-19ウイルスの動物からヒトへの伝染を可能にし、後者はそれがパンデミックとして世界中に拡大する原因となった。
  • COVID-19は、特に高齢者や基礎疾患を持つ人々により大きな影響を与えている。また貧しい人々や社会から疎外された人々は、より深刻な感染に苦しむ可能性が高くなっており、このパンデミックは社会経済的な不平等を増大させていることが想定される。
  • COVID-19はこの規模の非常事態を管理する体制が整っていない医療システムを崩壊させ、同様の政治システムを弱体化させ始めている。この影響は2008年の金融危機より大きなものとなり、社会の安定と国家の能力に加わる圧力はますます深刻なものとなってきている。したがって、現状への対応と将来に向けた復興を効果的なものとするためには、人為的な環境へのストレスというウイルス感染の遠因とグローバルな移動という感染の拡大促進要因と併せて、このパンデミックの多岐にわたる諸側面を考慮する必要がある。
  • 将来、COVID-19のようなパンデミックが発生する可能性はさらに高まり、影響はさらに深刻になる可能性がある。
     

<短期的対策:喫緊の課題への対応>

  • 医療系廃棄物への対応
    医療現場においては、使い捨てマスクや手袋、その他の医療器具の利用が拡大し、それに伴う医療系廃棄物の急速な増大に直面している。IGESは関係する国連その他のパートナー機関と連携して、幾つかのアジア途上国において、急増する医療系廃棄物の適切な処理に向けてどのような問題と解決策があるかについて分析を開始する。
  • 大気汚染による悪影響への対応
    深刻に汚染された地域では、呼吸器系の疾患に罹患している住民の比率が高く、COVID-19感染時には重篤な疾患や早期死亡のリスクが高くなる可能性が高い。一方でロックダウンや外出禁止措置により、多くの都市における大気汚染は大幅に改善された。特にアジアの大都市における交通セクターを重要な研究分野であると考え、自動車によらない交通手段(特に自転車と徒歩)や就労環境の変更の促進、新たな公共交通機関、電気自動車、排出規制を解決策の候補として検討する。
  • 持続可能なワークスタイル・ライフスタイルの実施
    テレワークなどライフスタイルの変化が、ネットゼロカーボン社会を目指した取り組みの一つとして促進され主流化していくことが望ましい。IGESは、2019年2月に「1.5℃ライフスタイル ― 脱炭素型の暮らしを実現する選択肢」を公表したが現在は発展途上国も含め調査対象国を拡大し、第2期の調査研究に入っている。この調査研究の中で、COVID-19がライフスタイルに及ぼす影響をどのようにカバーできるか検討を開始し、さらにパートナー機関と連携してCOVID-19を考慮したライフスタイル変化促進の可能性を検討する。

<中期的対策:COVID-19後のグリーンな経済復興策>

  • グリーンリカバリーの促進
    将来、同様の危機によりよく対応できる社会の構築、すなわち「より良い復興」につなげる「地球規模」でのグリーン・ニューディールの実施が必要とされている。IGESは、日本の緊急経済対策に、RE100の実現に向けた施策などの環境政策がどの程度盛り込まれているかなどを分析していく。また、諸外国のパートナーと協働し、各国の経済再生策がどの様にグリーンリカバリーに取り組んでいくのか、モニターし評価していく。

<長期的対策:レジリエントで持続可能な社会の構築>

  • 持続可能な統合的アプローチの推進
    多様な社会・経済・環境目標に向けた統合的な取り組みを通じて、地域レベルでの全体的で持続可能な発展を目指す「地域循環共生圏」 の推進は、長期的には賢明な方法である。IGESは地域循環共生圏の概念の適用事例研究を、いくつかのパートナー機関と協働してアジアの2つの地域で開始する。また、パンデミック発生時の都市と農村の相互依存関係のパターンを理解することを目的に、資源の流れ、経済復興、集団的回復力に焦点を当てた研究も検討する。
  • 途上国における健全な都市環境対策
    パンデミックの都市的な側面と根本的な原因は、通勤や買い物などの活動が比較的混雑した空間で行われていることや、持続不可能な生産と消費のパターンによる環境問題、環境汚染による住民の既往症の悪化など、複数ある。さらに都市では、医療用使い捨て用品の急増や、袋や容器など使い捨てのプラスチックの利用の増加、ロックダウンによる通常の廃棄物管理システムの混乱などが起こる可能性がある。IGESは国際的なパートナーとの連携のもと、都市におけるパンデミック管理に取り組む可能性について、東南アジアのいくつかの自治体との間で議論を開始した。
  • 気候適応プログラムにおける対応
    気候変動により生態系は大きく変化しており、異なる生息地に棲む異なる種が相互に交流する区域を拡大し、病原体への感染リスクを高める可能性があるため、感染症リスクは気候変動がもたらす重要な影響のひとつと考える必要がある。これを踏まえ、今後アジアでの展開が予定されている気候変動適応のためのプラットフォームにおいて、感染症リスクを重点課題のひとつに含めることを検討する。また、COVID-19の発展途上国におけるレジリエンスへの影響に関する研究を検討する。
  • グローバルリスクへの対応
    今回のようなグローバル化したリスクは、地球規模でのサプライチェーンの攪乱や観光業の崩壊など、社会経済的に大きな影響を及ぼすことが改めて証明された。サプライチェーンをより持続可能でレジリエントなものにするためには、国際的にも国内的にも政策と対策が必要である。また、持続可能な観光産業を世界的に推進するための政策や慣行を大幅に強化すべきである。IGESでは、国内外のパートナー機関と連携して、グローバル化したリスクに効果的に対処するためのグローバル・ガバナンスの向上に関する研究を検討する。

【このプレスリリースに関するお問い合わせ】
公益財団法人 地球環境戦略研究機関 (IGES)   https://www.iges.or.jp/
広報担当: 庄(しょう) Tel: 046-855-3845 Email: iges_pr@iges.or.jp