グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学

2023年10月15日 12時50分41秒 | 社会・文化・政治・経済

グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学 (インターナショナル新書)

行きつく先は破壊的な事態が生じるハードランディング! これから我々が標榜するのは、人と地球を救う経済学だ。

大型で猛烈な台風が次々と日本を襲う最大の理由は地球温暖化で海面温度が上昇しているから。

温暖化は待ったなしだ。 国連サミットのS D G s(持続可能な開発目標)のゴールは格差をなくし地球を守ることだが、世界はこの理念とは真逆の方向に進んでいる。 そこに新型コロナウイルスのパンデミックが追い打ちをかけ、グローバル資本主義の限界が露呈した。

これから世界を救うのはガンディーの経済学だ。それは環境問題に加え、貧困や格差もなくす「隣人を助ける」原理である。

【本文より抜粋】 インド建国の父であるガンディーは、自由貿易や近代工業化に反対したことで知られている。

しかし、それは決して鎖国主義ではなかった。 ガンディーも、自国で生産できないものについては、輸入すべきだと言っているし、自国の産業が新しい生産技術を採り入れることに反対したわけでもない。

ガンディーは貧困や格差をなくすために、消費や投資を通じて、「近くの人を助ける」ことから取り組もうと言ったのだ。

近所の人が作った農産物を食べ、近所の人が作った服を着て、近所の人が建てた家に住む。そうすれば、その地域に雇用が生まれ、地域経済が回りだす。それは、利他主義を考えるときの明確な基準だ。

【目次より抜粋】

1章 壊れ続ける地球

2章 壊れ続ける庶民の暮らし

3章 原因は資本主義

4章 ハードランディングは避けられない

5章 人と地球を救うガンディーの経済学 6章 新しいライフスタイル 7章 MMTとベーシックインカム

 

【著者略歴】 森永卓郎(もりなが たくろう)経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。

1957年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。

日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。 執筆のほか、テレビやラジオ、講演などでも活躍。

著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『なぜ日本だけが成長できないのか』『消費税は下げられる!』(ともに角川新書)など多数。

 

「信託理論」

富裕者の財産は神から「信託」されたものであり、預かった富は社会や公共のために適切な形で戻すべきだ。

つまり、企業の社会的責任に通じるものだ。

企業は、地域社会や地球環境に責任を持ち、将来の世代に対する責任を深く考えなけばならない。

長期的に見れば、そうした理念を効果的に実施している企業の方が、そうでない企業よりも利益を上げている。

ガンジーは、非暴力のい精神で人々を結び、植民地支配に立ち向かった。

そして、身分や階層に関係なく、全ての人々が向上してゆく平等な社会を目指した。

 

VINE VOICE

Reviewed in Japan on August 7, 2020

 
 著者は経済アナリスト。
 本書は、現代日本の抱えている経済問題を、「資本主義の崩壊」という近未来予測から見通し、どのようにすれば解決できるかアイデアを開陳したもの。
 原発再稼働とクリーンエネルギー、ギグエコノミー、75歳まで働きつづけるという国策など、いま目の前にある問題が幅広く取り上げられ、それらの先に見えてくる絶望的な未来が示されている。
 このまま資本主義に任せていたら、まちがいなく破滅するという強い確信が説得的に語られ、暗澹たる気分になる。しかし、「ガンディーの経済学」やベーシックインカムなどの対応策を採用すれば、なんとかなるかもしれない、とも思わされた。ガンディーの経済学とは聞き慣れないが、言われてみれば、なるほどと納得する。
 
 
  • ガンディーの経済学――倫理の復権を目指して

ガンディーの経済学――倫理の復権を目指して 

 

 本書は、ガンディーの思想を主として経済学の観点から解き明かそうとしているものであるが、権利と義務、産業化、平等論、教育など多岐にわたるテーマが取り上げられている。
 ガンディーの考え方は、イギリスの植民地支配、貧困、宗教的因習的な不平等からインドを救うことを第一義とし、その強い意志に基づいていたことが本書からよく理解できる。
机上の思想家、学者ではなく、インドの大衆の指導者として、その考え方はある程度の一貫性を保ちながら、柔軟であり、非常に実践的である。

 ここで書かれているガンディーのものごとの考え方は現代のビジネスや社会に当てはめてみても、非常に役に立つものが多い。例えば、国家や組織ではなく、個人に焦点をあてた考えかたはモチベーション3.0の発想につながると思うし、その教育思想は、多くの優秀な人材を輩出している現インドの実学を優先した教育制度の基礎となっていると考えられる。ジェンダーの議論においても、男女が同じ能力であれば、女性を優先して登用すべしの考え方は70年後の現在において積極的に採用されているものと同じである。理想の絵姿(ビジョン)を描く一方で、現実を見据えた戦術を見事に使い分けるという、人々を一方向に向かわせるためのチェンジ・マネジメントの実践的な手段を経験的に身に着けていたことも読み取れる。
 当時の難しいインドの社会事情がありながら(あるいは、そのような社会事情があったからこそ)、社会主義、資本主義の限界を既に見据えた卓越した考え方も示している。例えば、第六章の受託者制度理論は現代の会社経営のあり方にも、福祉国家としてのあり方にも、(議論はあるにしても)示唆に富む考え方を提示している。

 原著は1996年刊行であり、その2年後にアマルティア・セン(参考:
 不平等の再検討―潜在能力と自由 )がノーベル賞をもらう時代の中で書かれている。
現在、マイケル・サンデルの「正義」の本が話題になっているが、経済学と倫理に関する現在の議論の中でも、一読する価値のある本であると思う(このトレンドにのって約15年前の原著のこの和訳本がいま出版された気がするが)。

 一言、難を言えば、本書は学者の書いた本を学者の方々が翻訳をしており、私のような一般読者には非常に読みづらい文章である(特に第一章は学者の悪訳の典型のような気がする)。そのあたり、本を出す側ももう少し一考してほしいと思う。
 
 

ガンディーというと、非暴力による独立運動を行った政治家という程度の知識しか持ち合わせていない。
本書は、そのガンディーの経済思想について詳細に分析した著作である。

特に欲望と幸福についての記述は参考になる。「際限のないモノへの欲求は、人間を幸福にはしない。『知足』こそが幸福である。」とし、物質的な欲求の制限を主張している。
一方で、貧しい者への施しや貧国への財政的援助などは、人や国家が怠惰であり続ける原因として、否定的な見解を示している。
また、権利と義務の概念は、「人は単に権利のみを追い求めてはいけない、自らの義務を果たすときに権利はあなたのものとなる。」と主張し、ケネディの有名な演説を思い起こさせる。
さらに、労働を置き換えてしまい大衆の貧困を増長するとしてある種の「機械」には嫌悪感を示している。

ガンディーに一貫しているのは、欲望に任せて必要以上のモノを際限なく求めたりせずに、働くことこそが大切であるという考え方であり、分配ばかりを多く求める今の時代には新鮮に感じる。

当時の時代とインドという国を背景にした思想だけに、理解しにくい部分もあるが、混迷を深める現代にも一筋の光を与えてくれる。

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1 コメント

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マルテンサイト千年ものづくり (サムライグローバル鉄の道)
2024-08-06 14:35:31
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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