レイキャビク西街ひとり日誌 (Blog from Iceland)

北の小さな島国アイスランドはレイキャビクの西街からの、男独りブログです。

「ニーブアー」の思いがけない行き先

2014-02-20 05:00:00 | 日記
1990年代の始めに、増えつつあった移民の人たちを呼ぶための「美しい言葉」を造ろう、という善意から生まれたのが「ニーブアー」Nybuar(複数形)でした。直の意味は「新居住者」。この言葉は90年代から2000年の始めにかけてかなり広範に用いられ、流行語の感がありました。

1993年から1997年頃は、私が今の仕事の準備期間のようにしていた時期なのですが、この時期は私はPrestur nybua(ニーブアの牧師)とう冠を被せられていましたし、数年してからの2000年にも人気歌手のBubbiが新作CDのタイトルを「Nybuinn」(単数定形)として出しています。

ところが時が進むに連れ、このニーブアーという言葉は変な方向へ逸れていってしまいます。その徴候はすでに90年代の半ばから現れ始めていました。私は今の移民牧師の職に1996年の末に正式に就きました。

新しいポジションだったので、正式な職名を与えなければならなかったのですが、私はそれまでのPrestur nybuaという呼称が嫌だったので、Prestur innflytjendaという職名にしました。Presturは「牧師/神父」ですが、Innflytjendaというのはごく普通の意味での「移民」Innflytjandiを意味します。

Innflytjandiは「輸入品」も意味するので「品物みたい」という声もありましたが、一番価値観を含まない中立な言葉に思われたのです。

さて、それでは「ニーブアー」の何が問題になってきたのかといいますと...

90年代の終わりの頃のある日、電話がかかってきました。
「ハロー」
「トシキ?あなたはニーブアの牧師で、彼らに知り合いが多いでしょ?」
「ええ、まあ」
「こちらはアイスフィルムなのだけど、コマーシャルの撮影にニーブアが何人か必要なの。紹介してもらえない?」
「どんなニーブアが必要なんですか?」
「ニーブアだから、アジア系とかアフリカの人」
「なうほど...」
というようなこと(コマーシャルだけではなかったですが)何回かありました。

つまりですね、ニーブアーは移民ではなくていわゆる「有色人種」、いや「人種」なるものは存在しませんから「肌の色が非白人である人」を指す言葉として使われ始めてしまったのです。

この使い方がある程度強まってくると、もう何十年も住んでいてアイスランドの市民権も取っている人たちでとても「新居住者」はないアジアやアフリカ出身者も全て「ニーブアー」のくくりになってしまいました。

とにかく町で非白人を見かければ「ニーブアー」になってしまったわけです。
その反面、正真正銘の「新居住者」でもイギリスやドイツ出身の白人の場合は誰も「ニーブアー」とは見てくれなかったわけです。見かけではアイスランド人と区別がつかないですからね。

この変化に連れて「ニーブアー」という言葉の当初の善意は消えて、一種の蔑称のように使う向きもでてきました。そこで90年代の末期から、マルチカルチュラル活動に取組んでいる人たちが音頭を取って「ニーブアー」という言葉の使用を止めることを呼びかけました。実は私自身、ずいぶんこのことはアピールしました。

このことに興味がある人で、かつアイスランド語に挑戦してみようという方はこちら

一番抵抗したのは学校関係者で「私たちはニーブアーという言葉の使い方に、そのような有色人種だけをくくるようなニュアンスがあるとは考えない」と反論してきました。

それはそうでしょう。学校では教師は生徒の情報をきちんと把握していますから、誰がどこから来ているか分かっているのですから。でもそれは学校内だけで通用することで、一歩外へ出れば事情は全く違います。

学校の先生方には悪かったですが、この「ニーブアー」は2000年の前半から消えていきました。

その代わり?に用いられるようになったのが、ちょっと長いのですがFolk af erlendum uppruna「フォウルク・アブ・エルレンドゥム・ウップルーナ」という言葉です。直訳は「国外のオリジンを持つ人」ということで、要するに「外国出身者」です。

今では会議などで何か正式に移民のことを呼ばなければならない時には、大概この言葉が使われています。

最後におまけです。「ニーブアー」の賛否がよく議論されていた頃、「ニーブアー」反対派?が面白い造語を造りました。アイスランド人は自分たちのことを「シーブアー」(今だに住んでいる者、の意)と呼んだり、一時期外国暮らしをしたことがある人たちは「スヌーアブアー」(出戻り居住者、の意)と称したり、と。これはなかなかのユーモア。(*^^*)


応援します、若い力。Meet Iceland


藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
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コメント
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