前回、アイスランドでの通訳事情について少し紹介しました。通訳の使用を義務付けられている医療機関が実際には通訳を手配せず、患者の子供などに通訳をさせている、というニュースがきっかけでした。
ちょっとその続きです。この「通訳」が話題になる度にくっつてくる議論というか主張があるのです。それは「アイスランド語がわからないのは、その移民が勉強しないからではないか。なぜそのような怠け者のために国が通訳費を払わなければならないのか?通訳の助けが欲しければ自分で雇えばいい」という主張です。
これは今に始まった議論ではなく、何度も何度も持たれてきたものです。なぜ何度も繰り返されてきたかというと、この主張が幾ばくかの正当性を含んでいるものの、完全に正しくはない、というところにあると思います。にもかかわらず、この主張の持ち主は自説に落ち度はない、という固い信念に立ってしまっているのです。
そのため異なる見解との間でのやりとりが昇華されず、より高い見解を生み出すことを阻んでしまっているように思われるのです。
私がこの主張に頷けない点はまず、「アイスランドができない移民は勉強する気のない怠け者だ」という粗暴な一般化です。特に母国語に格変化などがないアジア人にとってはアイスランド語はかなり文法的に難解な言語です。
加えて発音でも例えば日本語では存在しない音というものがいくつも存在します。そのためアイスランドの地名や人名をカタカナ表記にするには相当な無理があり、思わず失笑してしまうようなことさえあります。
私自身、二十年以上ここに住んでいますし、アイスランド語の勉強も相当したつもりでいますが、読み書きはともかく会話は非常に苦手です。単数複数、格変化、男性女性中性などによって細かく変化する単語を、しゃべりながら正しく操ることは単純に「無理」です。多分、子供のころから慣れさせないと脳にそのような働きが付かないのではないではないでしょうか?
私の周囲の移民の人たちを見ても(日本人を含めて)、長年住んでいるけどアイスランド語は苦手、という人はかなりいます。では、その人たちが「怠け者」なのかというとそんなことはありません。中には仕事が忙しすぎて勉強する時間がないという人だっています。
歳をとってから移ってきた人や、若くてもシングルマザーで子育てと生活費のための仕事で手一杯という人もいます。要するに人様々なのです。
加えて相当アイスランド語ができる人でも、医療関係の語彙や表現にどれだけ通じているかということは疑問に思われます。日常語とは相当の違いがありますから。
と、こういうことを説明しても、先の主張の持ち主の中には(全員ではないことを望みますが)頑迷に「いや、私の知っている移民はきちんと勉強してアイスランド語をしゃべっている。しゃべれないヤツはその気がないからだ」と譲りません。
(ちなみにそう主張する輩の多くが「私は移民の友達が多勢いるし、彼らの気持ちも良く分かっている」という前書きをいつもぶら下げています)
私が指摘したい点の第二は医療機関が通訳を使う理由ですが、これは患者さんのためというよりは、むしろ医療従事者が正しい情報を患者さんから得るため、そして正しい指示を患者さんに与えるためだということです。
アレルギーに関する質問をして、患者さんが意味が分からずに間違った答えを言ってしまった。結果、その患者さんが命を危うくした。というようなことが起ったとしたら、そのお医者さんだってたまったものではありません。責任を問われてしまいます。
(もうひとつ付け加えると、人はカタコトの言葉を使わねばならない場合、正しい情報を与えるよりは、自分が言えることを言ってしまうという傾向があります)
この点を加味すると「なぜ国が通訳費を負担しなければいけないのか?」という疑問にはある程度答えることができます。もちろん自己負担では通訳が使えないような低所得者が移民には多いという事実もそこに加わります。
というわけで、私は先の「怠け者論」には基本的に反対です。ただ、ちょっとだけ「確かに」と言わざるを得ないのは、「アイスランド語を勉強する気はない」という移民もいるのが事実だからです。
私が知っている移民でそのような態度を取る人の多くはかなり裕福な階層の人たちです。その場合は問題ないでしょう。しかし同じ態度をとりつつも裕福ではない人もいます。あえて国名は出しませんが、コミュニティを作るくらいに同胞が多勢住んでいる移民に属する人が多いようです。
コミュニティに籠っていれば確かにアイスランド語は必要ないかもしれません。困った時には助けてくれる誰かがその中にいるでしょうし。
これはこれからの課題ですね。どのように考えて、どのように対処すべきなのか?現実に即して考えていかねばなりませんが、今の私の立場としては、そのようなパターンが移民一般のパターンにはなってほしくはないですね。アメリカやドイツのような大国ならまだしも、ここはちいちゃな国なのですから。中途半端な垣根は作らずに、仲良く生活したいものです。
応援します、若い力。Meet Iceland
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is
ちょっとその続きです。この「通訳」が話題になる度にくっつてくる議論というか主張があるのです。それは「アイスランド語がわからないのは、その移民が勉強しないからではないか。なぜそのような怠け者のために国が通訳費を払わなければならないのか?通訳の助けが欲しければ自分で雇えばいい」という主張です。
これは今に始まった議論ではなく、何度も何度も持たれてきたものです。なぜ何度も繰り返されてきたかというと、この主張が幾ばくかの正当性を含んでいるものの、完全に正しくはない、というところにあると思います。にもかかわらず、この主張の持ち主は自説に落ち度はない、という固い信念に立ってしまっているのです。
そのため異なる見解との間でのやりとりが昇華されず、より高い見解を生み出すことを阻んでしまっているように思われるのです。
私がこの主張に頷けない点はまず、「アイスランドができない移民は勉強する気のない怠け者だ」という粗暴な一般化です。特に母国語に格変化などがないアジア人にとってはアイスランド語はかなり文法的に難解な言語です。
加えて発音でも例えば日本語では存在しない音というものがいくつも存在します。そのためアイスランドの地名や人名をカタカナ表記にするには相当な無理があり、思わず失笑してしまうようなことさえあります。
私自身、二十年以上ここに住んでいますし、アイスランド語の勉強も相当したつもりでいますが、読み書きはともかく会話は非常に苦手です。単数複数、格変化、男性女性中性などによって細かく変化する単語を、しゃべりながら正しく操ることは単純に「無理」です。多分、子供のころから慣れさせないと脳にそのような働きが付かないのではないではないでしょうか?
私の周囲の移民の人たちを見ても(日本人を含めて)、長年住んでいるけどアイスランド語は苦手、という人はかなりいます。では、その人たちが「怠け者」なのかというとそんなことはありません。中には仕事が忙しすぎて勉強する時間がないという人だっています。
歳をとってから移ってきた人や、若くてもシングルマザーで子育てと生活費のための仕事で手一杯という人もいます。要するに人様々なのです。
加えて相当アイスランド語ができる人でも、医療関係の語彙や表現にどれだけ通じているかということは疑問に思われます。日常語とは相当の違いがありますから。
と、こういうことを説明しても、先の主張の持ち主の中には(全員ではないことを望みますが)頑迷に「いや、私の知っている移民はきちんと勉強してアイスランド語をしゃべっている。しゃべれないヤツはその気がないからだ」と譲りません。
(ちなみにそう主張する輩の多くが「私は移民の友達が多勢いるし、彼らの気持ちも良く分かっている」という前書きをいつもぶら下げています)
私が指摘したい点の第二は医療機関が通訳を使う理由ですが、これは患者さんのためというよりは、むしろ医療従事者が正しい情報を患者さんから得るため、そして正しい指示を患者さんに与えるためだということです。
アレルギーに関する質問をして、患者さんが意味が分からずに間違った答えを言ってしまった。結果、その患者さんが命を危うくした。というようなことが起ったとしたら、そのお医者さんだってたまったものではありません。責任を問われてしまいます。
(もうひとつ付け加えると、人はカタコトの言葉を使わねばならない場合、正しい情報を与えるよりは、自分が言えることを言ってしまうという傾向があります)
この点を加味すると「なぜ国が通訳費を負担しなければいけないのか?」という疑問にはある程度答えることができます。もちろん自己負担では通訳が使えないような低所得者が移民には多いという事実もそこに加わります。
というわけで、私は先の「怠け者論」には基本的に反対です。ただ、ちょっとだけ「確かに」と言わざるを得ないのは、「アイスランド語を勉強する気はない」という移民もいるのが事実だからです。
私が知っている移民でそのような態度を取る人の多くはかなり裕福な階層の人たちです。その場合は問題ないでしょう。しかし同じ態度をとりつつも裕福ではない人もいます。あえて国名は出しませんが、コミュニティを作るくらいに同胞が多勢住んでいる移民に属する人が多いようです。
コミュニティに籠っていれば確かにアイスランド語は必要ないかもしれません。困った時には助けてくれる誰かがその中にいるでしょうし。
これはこれからの課題ですね。どのように考えて、どのように対処すべきなのか?現実に即して考えていかねばなりませんが、今の私の立場としては、そのようなパターンが移民一般のパターンにはなってほしくはないですね。アメリカやドイツのような大国ならまだしも、ここはちいちゃな国なのですから。中途半端な垣根は作らずに、仲良く生活したいものです。
応援します、若い力。Meet Iceland
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