レイキャビク西街ひとり日誌 (Blog from Iceland)

北の小さな島国アイスランドはレイキャビクの西街からの、男独りブログです。

したい? キャンプではないテント生活

2017-05-28 05:00:00 | 日記
どこの社会にも火急の事案、というかすみやかな解決を望まれる問題は存在するだろうと思います。ここ、アイスランドにもそういった「待ってはいられない」問題はいくつも存在します。その中のひとつは間違いなく「住居不足」、それも「賃貸住居」の不足です。

まず先週の木曜日にDV紙のネット版に掲載されたニュースをご紹介します。アレックスという青年が、住む家がなくて公園のテントで暮らしている、というのです。

正確な年齢の記載がないのですが、写真で見るとアレックスさんは二十歳代と思われます。彼は障害者認定を受けているそうで、仕事はできない状態のようです。

障害のひとつは相当な程度のADHD(注意欠如多動性障害)と言うことで、彼自身の言葉では「(自分の生活の)いろいろある問題の中で、最悪なのは自分で自分のお金の管理がきちんとできないこと」ちなみに記者の話ではアルコールやドラッグの問題はまったくないとのこと。

テント暮らしに至った顛末はこういうことのようです。

アレックスさんは障害者給付として月額17万クローネの手当てを受けています。これまではバス、キッチン共用の10平方米の部屋を、月70000クローネで借りて生活していました。

ところがある日、大家さんが「『AirBnB』で貸すことにしたから、五日以内に出て行ってくれ」と通達されてしまいました。AirBnBとは、世界的に広まっている、一般家庭の部屋などを、ツーリストなどがネットで予約して借りることができる、あのシステムですね。

きちんとした賃貸契約があれば、立ち退きには三ヶ月の猶予があるはずなのですが、「部屋貸し」の場合はまずブラックで賃貸されます。そうなると法の保護は薄っぺらくなってしまいます。

部屋を「追い出された」アレックスさんは、まずは壊れた自動車の中で夜露をしのいだそうです。その自動車が修理のために移動させられてしまい、仕方なくロイガルダールルという公園地域にあるキャンプ地域に移りました。

ここはテントを張ることが許可されている場所です。でも無料ではありません。一晩2000クローネを払わなくてはならず、それだと月にして70000クローネ近く、つまりは今まで屋根、トイレ、バス、キッチン付きの環境で支払っていたのとほぼ同額を取られることになります。

加えて、夜はまだ寒くなることがありますし、もとよりキャンパーとして準備していない人が過ごすには、かなりしんどいものがあると思われます。DV紙の記者が訪問した際には、クッキー菓子を「食事」として食べていたそうです。

「始めは母が金銭援助もしてくれたんだけど、裕福ではないし、それもこれ以上は無理だと思います。それに母は反対側の東海岸に住んでいて、簡単に行ったり来たりもできないし...」とアレックスさん。




レイキャビク ロイガダールル地区のキャンプ場
Myndin er ur Tjalda.is


別の新聞社のFrettabladid紙の記事によると、Oryrkjabandalagオルイルキャ·バンダラーグという障害者協会にある住宅支援基金のウェイティングリストには、377件が登録されており、順番を待っています。この数は一年前の50%増しになるのだそうです。

私は仕事が難民の人たちに関わっていますので、その人たちのために賃貸アパート、あるいは賃貸部屋探しを手伝うこともよくあります。(情報を集めて知らせてあげるだけですが。それ以上サポートしようとすると、それだけで他に何もできなくなってしまうからです)

で、実際に部屋探しは難しいのです。なぜなら元々の物件が少ないからです。難民の人たちや、滞在許可を受けた人たちにいつも言うことなのですが、部屋探しが難しいのは難民の人たちにとってだけではなく、アイスランド人にとっても同じ状況なのです。

ただし、外国人、イスラム教徒、障害者の人たちには「より困難」であろうことは疑いありません。住宅の「賃貸」は偏見が甚だしく現れる分野のひとつだと言っていいと考えます。

名前で外国人だとわかると「もう貸してしまった」と返ってくるのは定番ですが、中にはあからさまに「外国人には貸さない」と尊大に喋る奴もいます。そのうちなんとかしてやりたいと思っていますが。

さて、DV紙の追跡記事では、先に触れたAirBnBに参加する人(提供する側)が増えてきたことが、賃貸住居、賃貸部屋の不足事情に大きく関わっているとのこと。

このAirBnBは、こちらではツーリストが著しく増加してきたここ四、五年で広がってきたもので、昨年はアイスランド国内の1600箇所の住居がこのシステムのリストに載っていました。

当初は、きちんと監督する法律もなかったため、相当数の闇営業と脱税が存在すると疑われていました。ようやく昨年夏に、営業期間やその他の目安となる法律が制定されています。

AirBnBだけではないのですが、ツーリズムブームのおかげで、今まで賃貸住宅、賃貸部屋として使われていた物件が、ホテルやゲストハウスに改装されてしまいました。それが賃貸物件不足の大原因なのです。

というわけで、深刻な賃貸住宅不足なのですが、一部の人の言うことでは「空いている家屋はいっぱいあるんだ。ただ、またしても超金持ち層が買い占めていたり、銀行が差し押さえてしまっているだよ」

「またしても」と言うのは、経済危機前のバブル時期に同じような状況が指摘されていたからです。本当だとしたら、とんでもない話しです。ジャーナリズムがプロ根性を見せて追求してくれることを願います。同時にアレックスさんが早く普通の家屋に移れることを願います。

それから、AirBnBで小金を稼ぐために賃貸人を放り出すようなことも「とんでもない話し」の仲間に入れておくべきでしょうね。


応援します、若い力。Meet Iceland


藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com

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2 コメント

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Unknown (kuwasan)
2017-05-30 09:17:37
 こんにちは。2020東京オリンピック前の東京でも心配な状況です。政府や一部自治体は「民泊特区だ」と浮かれていますし、旅館法まで変えられました。そして一方では「怪しい謀議を防ぐ」ための法整備⁈も進められようとしています。キャンパーでないキャンプ、他人事じゃありませんね。
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ブログ当事者 (Toshiki Toma)
2017-05-30 20:42:06
Kuwasan、コメントをありがとうございます。

東京オリンピックは宿不足が懸念されているとかで、民泊をPRしているとは、テレビ等で聞いています。
住居の使い方は意外とそれそれの「文化」に影響されているので、トラブルの連発にならなければいいけど、と感じています。
まあ、「トラブルから学べ」ということもできるのでしょうが...
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