ご近所の家の庭に蜜柑が盛大に生っている。
温州みかんは滅多になく、夏みかん類が多いが、それでも、ここが千葉県北西部で千葉県の中では最も気温が低い地であることを忘れ、まるで静岡県か和歌山県であるかのように錯覚してしまう。
30年前週刊朝日に連載された“季に寄せる一月「蜜柑」山口青邨と「夏草」の人々”をみると、本場の蜜柑はこんなものではないことが分かる。
二階なりや三階なりや蜜柑黄に 青邨
表紙に日蜜柑の谷に目覚めたり 古館曹人
蜜柑たわわ有田の谷を浅くして 秋山花笠
みな尻を日に向け蜜柑犇(ひしめ)ける 土井正司
ふるさとの海の香(かを)りにみかん山 岩井久美恵
私の句は昭和11年の作、50年も前のこと。「師走も半ば過ぎ夏草同人数人と伊豆湯河原に遊ぶ」という前書きがある。私の宿は山の斜面に建っていて前通りは3階建てだが、部屋に入ると裏窓はすぐ山肌、木や草が生えている。2階であるか3階であるかわからない、山は蜜柑畑、黄色に色づいた実が累々。寒い国に生まれ育ったものには蜜柑山なんて珍しいし嬉しい。それにこの地形的面白さ。
曹人君の句も蜜柑山。朝眼がさめるともう日が射しこんで昨夜読んだ雑誌の表紙にあたっている。蜜柑山の谷の南側は明るく輝いている。
花笠君の作、有田蜜柑の産地。ここも谷、蜜柑は枝もたわむほど累々とみのっている。木が茂り実がいっぱい、谷も浅くなるほどだ。谷を浅くするが句を面白くしている。
正司君の作、蜜柑がいくつもかたまって尻を日に向けている、蜜柑の尻、子どものお尻のようで不潔の感じがない。愛すべき子どもっぽさ。
久美恵さんの作、作者の故郷は真鶴、海の香、蜜柑の香。(青邨)