昭和 58 年頃週刊朝日が連載した有名人の「ひいきの宿」である。103 人 103 宿の 6 番目に掲載された、塩月 弥栄子さん(茶道家)の「ニュー錦水国際ホテル」である。
旅の宿 塩月 弥栄子
新幹線福山駅の改札口を出ると、心なしか塩の香りがする。「塩」と記すといかにも人工的だが、福山駅のそれは心底、口にふくんでしまいたくなる自然そのものなのだ。
福山駅から車で20分。鞆(とも)の浦に着く。瀬戸内のおだやかな海に、ポッカリと浮いているような小島が点々。そのひとつ。仙酔島が私の安らぎの島である。焼玉のエンジンがガンガン音をたてる小船に揺られて5分も乗れば、仙酔島の船着場。ピンと張りつめた三弦の糸のように、正確な間隔でヒタヒタと小波が打ち寄せる浜に立つと、いつしか、私は平安時代を遡り、遣唐使の訪れを待つ乙女の心境になる。これも旅情、シルバーエージのたわ言とお笑いなさらないで。
この仙酔島に縁あって、私の弟子にあたる女性が経営するホテルがある。ニュー錦水国際ホテルといい、見事な造りの茶室もある。
海の幸に恵まれた料理の巧みさ、おいしさは当然といってしまえばそれまでだが、錦水旅館の料理はやはり格別といえるだろう。瀬戸内海に浮かぶ小島、という舞台もさることながら、吟味された材料、ていねいなつくりはやはり心のこもったものだ。
食後、茶室にこもり、思いの流れそのままに一服を楽しむひと時は、これまた格別。
大海の波に漂うごとく、私の心は海へ、空へと溶けこんでゆく。
「現在のニュー錦水国際ホテルは?」と HP を開いてびっくり。(大発展おめでとうございます)