子どもの貧困が問題になるなか、ひとり親世帯、とくに母子世帯の生活の厳しさが増しています。母子世帯への政策は、所得保障重視から就業支援を中心にし、10年以上がたちました。しかし、母子世帯の所得は全世帯の半分を下回り、働いているのに貧困という国際的に見ても例のない状況です。
子どもがいる現役世帯の二〇一二年の相対的貧困率は、大人が二人以上の世帯では12・4%でした。一方、ひとり親世帯は54・6%と生活の困窮が問題になっています。
経済協力開発機構(OECD)のデータ(一〇年)を基に各国を比較すると、就労していないひとり親世帯の相対的貧困率は米国が90・7%、ドイツが54%などと高く、日本は50・4%でOECD平均の58%を下回っています。
しかし、就労しているひとり親世帯の貧困率は、米国が31・1%、ドイツ23・8%、OECD平均も20・9%と、それぞれ大幅に下がっています。就労すれば所得も増えるため、貧困から抜け出すのが自然な流れです。ところが日本は50・9%と逆に上昇しています。日本のひとり親世帯は、働いても貧困という例のない状況です。
母子世帯の母の就業率は80・6%で、米国約74%、英国56%などに比べ、世界的に見ても高くなっています。しかし、一三年の母子世帯の年間の平均所得金額は二百四十三万四千円で、全世帯平均五百三十七万二千円の45%にすぎません。
就労による(稼働)所得は、二百万円を下回り、百七十九万円しかありません。働いても貧困というワーキングプアに当たります。
このため、「生活が大変苦しい」が49・5%と半数を占め、「やや苦しい」を含めると84・7%が生活の困窮を訴えています。
●子育てとの両立厳しく
所得が低い理由は、雇用形態が大きく影響しています。母子世帯調査によると、正社員などの割合は一九九三年に53・2%でしたが、一一年には39・4%にまで減りました。代わってパートなどが増加し、一一年では47・4%と、ほぼ半数はパートで働いていました。
母子世帯の場合、子育てと仕事を両立する必要があります。しかし、子どもを預ける施設がないなどで、なかなかフルタイムで働く職が見つからないことが課題です。また、若年離婚の増加で二十代の母子家庭が増えています。就業経験が少ないため、パートなど非正規で働く割合が高まっています。
母子世帯などの生活安定のために支給される児童扶養手当の受給者数も増加しました。一二年度には百八万人を超え、うち九十八万人が母子世帯です。
●支援策の検証必要
母子家庭をめぐっては、一九六一年創設の児童扶養手当を中心にした経済的支援から、就業による自立を促す政策に変わってきました。
〇二年には母子家庭等自立支援対策大綱を決定し、就業・自立支援へ政策が加速しました。児童扶養手当の受給制限に「正当な求職活動をしない場合」を追加、さらに、所得条件も厳しくしました。受給条件を厳しくする一方で、母子自立支援センターなどでの生活支援や職業訓練を行いました。
支援により就業率が向上したとの実績もあります。しかし、母子世帯は働いても貧困というのが現状です。手当の受給を厳しくし、就業率を上げるという政策だけでは、貧困にあえぐ母子世帯の根本的な解決になりません。これまでの政策の検証が必要です。そのうえで、男女賃金格差、子育て環境、健康問題に対応した総合策が求められています。
制作・亀岡秀人
(東京新聞10月15日)