(写真は、土舞台顕彰能/第28回 篝能の 葉書の写真部分です。)
『鉄輪』 (かなわ)
土舞台顕彰能/第28回 篝能
『江口』
『酢薑』(すはじかみ)・・・狂言
『鉄輪』(かなわ) ・・・能楽
桜井市民会館大ホール 入場無料
奈良の桜井で行われた 土舞台顕彰能に行く。
桜井は、芸能の発祥地ともいわれている。
駅を降りると、それを記した大きなモニュメントがそびえたっている。
『鉄輪』のシテは、洛北の貴船神社に丑刻詣をする女。
女は 下京の 自分を捨てて 後妻を迎えた夫を呪詛しようと思い、貴船に通う。
頭には、鉄輪の三つの足に 松明(たいまつ)を灯す。
女は立ち上がると、女の様子は一変して、鬼となる。
顔色は変わり、髪は逆立ち、黒雲、雨、風、雷鳴の中を走り帰る。
夫は、このところ悪夢に悩まされる。
安倍晴明をたずね、占ってもらう。
晴明は男をみるなり、女の深い恨であり、今夜限りの命だという。
男は驚いて、女との顛末を話し、安倍晴明に転じかえの祈祷を頼む。
安倍清明は夫婦の形代を置き、神仏などをおいて 祈る。
やがてあたりに妖気が漂い、稲妻、雷鳴の中に女の生霊が現れる。
金と白の鬼(蛇)の衣。
女は笠を投げ捨てる。
面から見える表情は、凄まじい形相。
女の生霊は、夫に愛の末の恨みを放ち、後妻の髪をつかみ打ちすえ、夫の命を取ろうとする。
この髪を打ちすえる場面は、とても迫力を感じた。
そして・・・
「魍魎鬼神は 穢らはし(けがらわし)や。出でよ出でよ」
と追い立てられ、消え失せる。
この能の後場の面は『生成』 或いは『橋姫』。
いまだ鬼になりきらない、鬼への過程の顔とのこと。
今回の面も素敵なもので、見ていて、わくわくした。
この能の出典は、平家物語の『剣巻』だという。
たまたま、桜井行きの電車の中で読んでいて 出てきた 『日本異界絵巻』(宮田登 等 三人の共筆)のP.72から75の 『宇治の橋姫』 (小松和彦氏・書く)
奇遇とはこういったことをいうのか・・・
能楽の『鉄輪』のモデルにもなった橋姫は、丑の刻参りのもとだという・・・
身の毛もよだつ恐ろしさを感じる曲だったのも、納得がいく。
詳しく言うならば 鉄輪とは、昔 火鉢の中に置いた五徳鉄(輪に三本の足を付けたもの)。
この鉄輪を逆さまにしてその足にロウソクを結びつけ、火をつけたそれを頭に乗せ、髪を振り乱し、白化粧、濃い朱の裂けた口。
口には櫛をくわえ、胸には鏡を提げ、丑の刻に貴船神社に参り杉の大木に添えた藁人形に五寸釘を打ち込み呪う…
これが今に伝わる丑の刻参りの姿という。
この原型の『宇治の橋姫』伝説。
少し浦島太郎を思わせるが、橋姫は悪阻(つわり)に苦しみ、夫に
「七尋のワカメを海で獲ってきて。」と頼む。
海に出かけた夫は、美しい龍神に囚われてしまう。
橋姫は憎い龍神を呪う。
貴船に参詣し
「私を鬼に変身させてほしい、そして憎い龍神を呪いたい」
と祈願すると、貴船の神は
「髪を松やにで固め角を作り、火を灯し、鉄輪を被って、三本の松明を持ち、宇治川に二十二日間浸りなさい」
と告げる。
そのお告げの通り 一心不乱に宇治川に浸った橋姫は鬼似なれたといわれている。
能楽の『鉄輪』は、この橋姫伝説から舞われるようになった。
能楽では、藁人形を五寸釘で打ち場面はない。
下京区の鍛冶屋町というと、去年 土舞台顕彰能で舞われた 『小鍛冶』も鍛治屋町と縁の深い話だった・・・
京生まれの京育ちの私にとっては、京都の話は、身近に感じる。
『日本異界絵巻』の 『宇治の橋姫』によると、呪い殺すことに失敗した橋姫は、後に 本当の鬼と化し、多くの人々を殺し続けたという。
女の嫉妬心、恨みは根深く怖い。
しかし、この橋姫ばかりを悪者呼ばわりするのも、釈然としない。
赤子をはらんだ女が、信じる夫に裏切られ、つらく切ない悲しみを感じる。
複雑な気持ちで舞台を見つめていた・・・
(最後になりましたが、私は 能楽鑑賞初心者です。間違った内容があるかと思います。もしお気づきの点がございますようでしたら、お手数ではございますが、お教えくださいましたら嬉しいです。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。)