大阪松竹座「壽初春大歌舞伎」夜の部 「通し狂言 金門五三桐」 発端 玄海ヶ島の場から、三幕目 第三場 加茂川堤の場まで (七場面)並木五瓶 作 市川猿翁 脚本・演出
夫曰く、昼の部は通好みで地味だから、夜だけ行く、と。
私が思うに、「河庄」などは大変面白みのある楽しむことができる演目。
今回昼の部を見ないなんて、もったいないことをする夫と、半ば呆れ返る。
昼の部はさておき、夜の部は愛之助さん演じる並木五瓶 作の「通し狂言 金門五三桐」
この通し狂言というのがミソ。
なかなか見ることができず、また、所蔵する東京創元新社の歌舞伎全集にも、「金門五三桐」など、わけていくつかの場をバラバラとしか載せられてない。
今回は通し狂言で
発 端 玄海ヶ島の場
序 幕 島原揚屋の場
二幕目第一場 此村大炊之助館の場
第二場 同 奥庭の場
三幕目第一場 南禅寺山門の場
第二場 大仏餅屋の場
第三場 加茂川堤の場
と楽しむことができ、話もうまくつがった。
愛之助さんは私が知る限り松竹座の「伊勢音頭恋寝刃」を界に、舞台の前に出られず、絶えず周りの役者さんを気にされて演技を引いておられたように感じる。
大変力のあり役者さんであるのに、もったいないと感じていた。
ところが今回の石川五右衛門役では、愛之助さんの力を充分に発揮され、顔見世よりも素晴らしい力の入れようであった。
また一部、仁左衛門化粧で美しく、堪能させられた。
今回の愛之助さんは松竹座の「伊勢音頭恋寝刃」の時のように力強く、かっこよく、またアップテンポで舞台の前に前にと出ておられた。
なので、舞台で大きく見え、もう一度行きたいと思わせるようなかっこよさであった。
夜の部は私たちは一般に言うドブ席の後方席に座っていた。
ところが、「三代猿之助四十八撰の内通し狂言 金門五三桐 石川五右衛門 片岡愛之助宙乗り相勤め申し候」は大変多く花道を使う芝居であり、ある意味、見応えのある位置で鑑賞できた。
花道を長く鑑賞でき、舞台全体も眺めることができ、こういった場所も面白いなと初めて時感じた。
また、花道を使われるたびに、ジャラジャラジャラ ジャラジャラジャラ…と毎度、入り幕(?)の音が大きく聞こえる。
今まで選んだことのない席ではあったが、こういった席の醍醐味を感じることもできたのは嬉しいことである。
今回の松竹座の壽新春歌舞伎は昼の部も夜の部も堪能した。
昨年の十月の昼夜松竹座(右團次さんなど)と同様、満足の行く舞台の数々で、行ってよかったと感じる納得のいく歌舞伎であった。
三代猿之助四十八撰の内通し狂言 金門五三桐(きんもんごさんのきり)
石川五右衛門 片岡愛之助宙乗り相勤め申し候
愛之助/扇雀/亀鶴/壱太郎/虎之介/笑也/猿弥/吉弥/彌十郎/鴈治郎
[夜の部]
並木五瓶 作
市川猿翁 脚本・演出
石川耕士 補綴・演出
三代猿之助四十八撰の内
通し狂言 金門五三桐(きんもんごさんのきり)
石川五右衛門……片岡 愛之助
此村大炊之助……片岡 愛之助
白鷹の精…………中村 扇雀
岸田民部…………中村 亀鶴
傾城花橘…………中村 壱太郎
お通姫……………中村 壱太郎
瀬川采女…………中村 虎之介
呉竹………………市川 笑三郎
真柴久秋…………市川 笑也
真柴久次…………市川 猿弥
薗生の前…………上村 吉弥
お幸………………上村 吉弥
早川高景…………坂東 彌十郎
真柴久吉…………中村 鴈治郎
片岡愛之助宙乗り相勤め申し候
夜の部は大阪松竹座で初上演の『金門五三桐』
昭和42(1967)年に、市川猿翁が「第二回春秋会」が復活上演し、三代猿之助四十八撰の一つに数えられる、『金門五三桐』。現在は『楼門五三桐』として「山門」のひと幕だけ上演することが多い演目を、大阪松竹座で通し上演するのは、今回が初めてです。
早川高景を演じる彌十郎が、お正月ならではの口上を述べ、いよいよ物語が始まります。愛之助の此村大炊之助が、実は宋蘇卿であると明かし、扇雀の白鷹の精と踊る場面では、遺言をしたためようとする宋蘇卿の動きと、白鷹の精による小気味よい踊りがテンポよく繰り広げられます。
愛之助のもうひと役は、石川五右衛門。大詰の葛籠抜けの宙乗りでは、「葛籠背負ったがおかしいか」とお待ちかねのせりふに、客席からは「松嶋屋!」と声がかかり、歓声と拍手が沸き起こりました。さらに、捕手との大立廻りでは、花道から客席2階に梯子をかけ、2階のお客様の目の前に愛之助の勤める五右衛門が登場し、迫力満点。最後は鴈治郎の真柴久吉に向かって、いつの日かの決戦を誓い、華々しい打ち出しとなりました。