ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「白衛軍」

2024-12-28 22:12:24 | 芝居
12月5日新国立劇場中劇場で、ブルガーコフ作「白衛軍」を見た(演出:上村聡史)。




1918年、ウクライナの首都キーウ。前年、ロシア帝政が崩壊。ソヴィエト政権が誕生するが、
キーウではウクライナ人民共和国の樹立を宣言。ロシア帝国軍(白衛軍)を中心とした新政府軍が
誕生する。しかし内乱が続き、キーウの街には緊張が走っていた。やがて、白衛軍側のトゥルビン家の
人々の運命は歴史の大きなうねりにのみ込まれてゆくのだった・・・(チラシより)。

舞台奥に上流階級らしい家庭の居間。暖かい色調の照明とゆったりしたソファやテーブルなどの家具。
一人の兵隊が中央から奥に歩くに従って、一段高くなった奥にあった家庭がせり出して来る。
これがトゥルビン家。
次男ニコライ(村井良大)がギターを弾きながら歌い出す。
テーブルについていた兄アレクセイ大佐(大場泰正)が「うるさいよ」。
ニコライ「えーっ?」と驚き、隣の部屋(たぶんキッチン)に向かって「姉さん!・・どう?」
姉エレーナ(前田亜希)「下手!」
ニコライ「昨日はいいって言ってくれたのに」
エレーナは夫タリベルク大佐(小林大介)の帰りを待っている。
仲間のヴィクトル大尉(石橋徹郎)がこの家にたどり着く。何時間も雪の中を歩いて来たので足が凍傷にかかっている。
皆、急いで彼の体を温め、足の傷を手当てする。
そこに兄弟のいとこラリオン(池岡亮介)がやって来て、明るく親しげに挨拶するが、皆、きょとんとしている。
行き違いがあったらしく、彼の母親が出した電報が、まだ届いていなかった。
彼が母親の手紙を読んで聞かせたので、やっと事情がわかり、皆、彼を歓迎する。

客のレオニード(上山竜治)がエレーナに迫る。
彼はゲトマン軍に属しており、以前彼が歌っている時に、エレーナの方から彼の口にキスしたことがあるという。
この日も、彼女は拒絶し続けるが、結局はキスに応える。
男たちの乾杯につき合わされて酔っぱらっていたラリオンが、それを見て驚く。

ゲトマン軍の部屋。レオニードが入ると、従僕フョードル(大鷹明良)が一人いる。
そこにゲトマン(采澤靖起)が来て「これからウクライナ語で話せ」とレオニードに命じる。
レオニードが困っていると、仕方なく「ロシア語でいい」。
部屋には電話と野戦電話があり、しきりにあちこちにかける。
ドイツ軍の将軍と中尉が来てドイツ語で挨拶する。
レオニード「何語で話しましょうか」
ロシア語で話すことになる。
ドイツ軍の将軍が「ドイツ軍はウクライナから全軍撤退した」と衝撃の発言をする。
昨夜は共にパーティを楽しんだのに、とゲトマンたちは愕然となる。
民衆がペトリューラ軍に加わり、20万を超える軍勢となったために、撤退することになったという。
ここも陥落は時間の問題だから、とドイツ人たちはゲトマンに、一緒にドイツに来るように言う。
周到に計画していたらしく、ゲトマンが承諾するや、即ピストルを撃ち、部屋の外にいる兵士に向かって「ドイツ軍の将軍が、誤って頭を負傷した。担架を運べ」。
さらにゲトマンをドイツ軍の制服に素早く着替えさせ、彼の頭を包帯でぐるぐる巻きにする。
かくしてゲトマンは、まんまとドイツ軍の将軍に化けて担架に乗せられ、ドイツ軍に守られて一人逃れる。
置いて行かれたレオニードは呆然とするが、ゲトマンが脱ぎ捨てた服から金目のものを頂戴する。
次にトゥルビン家に電話して状況を話し、フェードルと別れの握手をし、自分も部屋を出る。

ペトリューラ軍の陣地。
足が凍傷にかかった男が捕らえられて来る。逃亡?コサック兵。軍医が死んだのでどうしたらいいかわからず、病院を出て隠れていた、と言う。
大隊長(小林大介)は、本当に凍傷かどうか確かめさせ、「では病院に連れて行け」と命じた後、後ろから銃殺する。
「あんな奴が行っても面倒だ」と。
次に、ユダヤ人か共産党員だと疑われた男が連れて来られる。
彼はただの靴屋だった。
商売道具の靴を一杯入れたカバンを持っているので、皆、爆弾でも入っているのかとおびえる。
ただの靴屋だとわかると「そのカバンを置いて行け」と言われ、「困ります」と泣きつくが、追い出される。
そこに、ゲトマン軍が撤退したという知らせが入る。
勝利だ!よし、もっと広い家に移るぞ!と皆、勇んで出て行く。

<休憩>

学校。跳び箱やロッカーが並んでいる。
アレクセイ大佐に手紙が届く。
彼はそれを読むなり、隠せる場所を学監(大鷹明良)に尋ね、ロッカーに入れて彼に鍵をかけさせる。
そして部下たちを呼び、「白衛軍は解散」と告げる。
突然のことに、皆、信じられない。
大佐がおかしくなったと思い、命令に背き、逆に彼を捕えようとする者たちさえいる。
大佐はそんな彼らを辛抱強く説得しようとする。
その間も、時折激しい爆撃が続くので、ようやく部下たちも差し迫った危険を感じて立ち退く。
大佐はさっきの手紙や書類を燃やすため、今度はロッカーを開けようとするが、当然開かない(客席から笑い)。
鍵を預けた学監は、どこかへ行ってしまった。
彼は力任せにロッカーの扉をこじ開け、中の手紙と書類を取り出して、火にくべる。
だが彼は、なぜか一枚一枚確認しながら火に投じていく。
一度に全部燃やして早く逃げればいいのに、と見ている方は、ヤキモキしてしまう。
弟ニコライ(士官候補生)が来る。その時また激しい爆撃が・・・。

トゥルビン家。エレーナとラリオンがクリスマスツリーを片づけている。
ラリオンがエレーナに告白すると、エレーナ「付き合ってる人がいるの」。
がっくり来たラリオンは、彼女に頼まれて酒を買いに行く。
当の男・レオニードがやって来る。
エレーナ「あなたは嘘が多い」。それに・・・と不安を述べ、「変わって欲しい」と言う。
レオニード「オーディションに受かったんだ」。
ヴィクトルとアレクサンドルも来る。
ヴィクトルはゲトマンが逃げたことを聞いていて、その時の状況をレオニードに尋ねる。
レオニードは、ゲトマンと感動的な別れをしたと、ウソを並べ立てる。
純金の煙草入れを放り投げ、別れる時にゲトマンがくれたんだと自慢する。
実はそれは、ゲトマンが脱ぎ捨てた服のポケットからちゃっかり取ったものだった。
皆、アレクセイとニコライ兄弟の安否を心配する。
そこにニコライが帰って来る。
頭に大怪我をしている。皆、彼を床に寝かせて介抱し、アレクセイの安否を尋ねる。
だがニコライは苦しそうにするのみ。・・・
エレーナ「死んだんでしょ。わかってた。ニコライの顔を見てわかった」
ニコライは苦しげに声を振り絞って言う、「兄アレクセイは、死にました!」

学校。床に沢山の遺体が並べられている。ろうそくも沢山。
学監が遺体の上に百合の花を一本ずつのせてゆく。

トゥルビン家。
エレーナは兄の死を嘆き悲しむ。「どうして兄だけが死んだの?!」
アレクサンドルがピストルを頭に当てて「私のせいだ」
皆、止めようとする。
エレーナもさすがに「もう誰にも死んで欲しくない」と言う。
結局ヴィクトルがピストルを奪い取る。(このシーンが長い)

エレーナの夫タリベルク大佐の足音がする。
皆、ピストルを出して構える。
タリベルクは相変わらず堂々としている。
「仕事の途中だが、エレーナに会うために密かに戻った」と偉そうに言う。
皆、「送って行く」と言い、(この時、タリベルクは少しビビる)タリベルクの後に続いて男全員が外に出るや銃声が!
そして皆、さっぱりした顔で戻って来て、口々にエレーナにプロポーズ!!
今まで静かだったアレクサンドルまで男たち3人全員が。
だがエレーナは「私、レオニードと結婚します」
3人はがっくりするが、すぐに気を取り直して歌い出し、酒を酌み交わす。
その時また外で爆撃のような音がする。
「あれは祝砲だ。ペトリューラ軍の勝利を祝ってるんだ」とヴィクトル。
ニコライが頭に包帯を巻いた姿でよろよろと入って来る。
祝砲が聞こえるたびにおびえる。暗転。

~~~~~~~ ~~~~~~~ 

この作品は1925年に小説として発表され、翌年、作家自身が戯曲化して上演した由。
1918年、革命直後のウクライナで起きた内乱と、ロシア、ドイツとの関わりが非常に興味深い。
だが芝居としては、いささか長過ぎるし、場面によっては冗長なところもあるのが残念だ。
紅一点のエレーナをめぐって男たちが争うのはいいとして、皆で彼女の夫を殺して、直後にプロポーズ合戦というのがびっくり。
まるで漫画だ。
役者では、皆に慕われるアレクセイ大佐役の大場泰正が、こんな役にぴったり。
ラリオン役の池岡亮介も好演。
総じてキャスティングがよかった。






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