80年近い人生を間もなく閉じようとしている父親が大事に隠し持っていた少年時代の想い出。それは終戦近い昭和20年のころの<人生の中でもっとも楽しく、もっとも美しく、もっとも充足した日々>。家の離れに住むことになった八歳年上の女性との昆虫の会話がいつしか初恋に。母に隠れての逢瀬、そして蝶の羽化を見にいく約束をしていたその朝は広島の8月6日。一瞬のうちに<摂氏100万度の火の球に射抜かれた>街や人びとや暮らし、ふたりの未来も。数ページにわたる凄惨な光景描写はあらためて想像を絶する。間もなくの長崎・広島の原爆の日を前に読んでおいてよかった。
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