永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1248)

2013年04月25日 | Weblog
2013. 4/25    1248

五十三帖 【手習(てならひ)の巻】 その40

「翌朝は、さすがに人の許さぬことなれば、変りたらむさま見えむもいとはづかしく、髪のすその、にはかにおほどれたるやうに、しどけなくさへ削がれたるを、むつかしきことども言はで、つくろはむ人もがな、と、何ごとにつけてもつつましくて、暗うしなしておはす」
――翌朝は、さすがに人の許さぬことをしましたので、浮舟は気が咎め、また変り果てたわが姿を人に見られるのも恥かしく、髪のすそが急にしどけなく肩のあたりにひろがり、その上、不揃いに削がれていますのを、面倒な小言など言わずにこの髪を梳いてくれる人がいてくれたなら、と思いますものの、何ごとにも気後れがして、お部屋をわざと暗くしておいでになります――

「思ふことを人に言ひ続けむ言の葉は、もとよりだにはかばかしからぬ身を、まいてなつかしうことわるべき人さへなければ、ただ硯に向かひて、思ひあまる折は、手習ひをのみ、たけきことにて書きつけ給ふ」
――心の内を細々と人にお話しするようなことは、もともとはっきりとは言い出せない性格ですのに、ましてここでは、甘えて相談できる人さえおりません。そのような時には、ただ硯に向かってすさび書きばかりを、ひたすらつづけていらっしゃるのでした――

「『なきものに身をも人をも思ひつつ棄ててし世をぞさらに棄てつる、今はかくて限りつるぞかし』と書きても、なほみづからいとあはれと見給ふ」
――(歌)「自分をも人をも無い者として、一度捨てた命を、今また出家して、再び捨ててしまいました。今ではこうして一切が終わってしまったのだ」と、書いては見たものの、やはり断ちけれない思いが胸にこみ上げてきて、しみじみと筆の後を眺めているのでした――

「『かぎりぞと思ひなりにし世の中をかへすがへすもそむきぬるかな』」
――(歌)「これが最後と、あの時一旦決意したこの世なのに、いよいよ尼になってまた捨てたことになってしましました」

「おなじ筋のことを、とかく書きすさび居給へるに、中将の御文あり。ものさわがしうあきれたる心地しあへる程にて、かかることなむ、と言ひてけり」
――同じようなことをあれこれと書きすさんでいらっしゃることろへ、中将からのお文がとどきました。浮舟のご出家のことで、皆がただただ呆れているところでしたが、とにかく事の次第を中将にお知らせします――


では4/27に。