黒猫 とのべい の冒険

身近な出来事や感じたことを登載してみました。

たった一冊の本

2012年12月12日 09時30分34秒 | ファンタジー

 自分で本を作ってみた。もちろん初めて。インターネットに紹介されていたもっとも簡単だと思われる方式に目が止まった。これなら不器用な自分にもできそうだ。それは背に糊付けするだけの、いかにも簡単そうな製本だ。まず、A4の紙を半分に折ってペーパーナイフで切った。するとA5の大きさになることを初めて知った。ペーパーナイフを使ったのは私の直感的発明だ。カッターの鋭い刃で切った切り口は、糊付けになじまないような気がしたから。
 印刷原稿は、連載中の「憂鬱な子どもたち」で、原稿用紙二百六十枚程度の文章だ。ところが、家にあるプリンターではA5版は手差しでしか印刷できない。暇な時間を見つけ少しずつ作業した結果、十日間ほどかかって、A5版両面で約百五十ページになった。本文印刷が終わって、表紙の紙をどうしようかと思い至った。家にはコピー用紙しかなかったので、少し厚手の見栄えのいい紙がないかと、近所の百円ショップや文房具屋へ行ってみたが、どこにも置いていない。あそこならと考えていた札幌の大丸藤井セントラルへ到達するまで、それから一週間もかかった。行ってみて正解だった。店の地下には、身動きが取れないくらい大量の紙が備えられていた。
 何種類か買ってきた中から、初刷り用にくすんだ紫色の和紙を選んだ。表紙の下に良質のコピー用紙を入れ、ダブルクリップで押さえつけ、背の部分に木工用セメダインをたっぷり塗った。そして薄手の紙にセメダインを塗りつけ、背に被せるように巻いた。そのとたん、背に乗せたセメダインが少ないような気がしたのだが、すでに遅し。次に、表紙用の和紙を、本の厚さ約一センチにプラスすること三センチ、計四センチの幅に切って、背に巻いた薄紙の上に貼り付けた。以上完了。
 と思ったのもつかの間、表紙の次のページに題名と作者名がないことに気がついた。それに裏表紙の前のページには普通、奥書があるものだ。それもない。これでは、いつ誰が書いた何という本かわからないじゃないか。仕方がないので、プリンターで印刷した紙を糊で貼り付けた。
表紙の次ページ「憂鬱な子どもたち ○○××」
奥書「2012年12月8日第1刷発行、著者及び発行者○○××、発行所ユメミテ書房」
 一日経って、ページを恐る恐るめくってみたら、背表紙の裏にぴったりくっついているではないか。紙の多少のシワと糊のはみ出した跡はあるが、我慢できる仕上がりだ。見れば見るほど美しい。あちこちのページに誤植が見つかったので、次に印刷するときは、「第2版」と奥書に付け足すことにしよう。したがって、第1刷はたった一冊しかない稀覯本だ。(2012.12.12了)
コメント
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