本日、(と言っても、数年前の春のことなのですが)、金曜日、午後の六時ごろ逗子駅で電車を待っていると、黒いスーツの若者が何十名と集まっていて、そしてはしゃいでいるのに出会いました。結婚式の帰りかなと最初は思ったのですが、定番の白いお土産袋を持っていないのです。その代わりに、アテンダント・バッグなどを引っ張っています。「は、はーん、きっと、新人研修よ」と推察をしますが、全体の人数の多さと顔の良さ(!?!?!)に、どこの会社であるかについて、興味を引かれました。
「あなたがたはどこの会社の人なの」と質問をするのは、男の子の方が純真で楽なのですが、女の子のグループも傍にいるのを知っていて、このおばさんが、男の子を選ぶのもあざといと思ったので、美形の女性三人組に話しかけると、特別かわいい目のパッチリした女の子が「あ、うるさくてご迷惑でしたか?」と言うので、そのしつけのよさに驚きました。よい家庭に育ち、大企業に大卒で入社できる幸福な若者たちらしいのです。
で、ますます会社に興味を抱きました。「言ってよいのかしら?」と、三人で躊躇するので、「悪いことは書かないわ」と請合った上で、あるお嬢さんの長い髪をすこし、襟元から外へむけて払うと、なんと、花椿の七宝の線が銀色のバッジに浮かび上がっていました。つまり、資生堂の新人だったのです。
・・・・・・だから、顔が良かったわけです。最先端で美容指導をするわけではないだろう、本社づとめの布陣でも、資生堂は顔の良い若者を取ることに不文律としてなっているのか、それとも、美形である男女のみが、応募段階から集まるのかは分かりませんが、ともかく、さすが、資生堂だと思うほどの、美形の若者の集団でした。・・・・・
それはともかくとして、私が驚いたのは、その日ごろ、
ずっと銀座の資生堂の赤いビルのことを考え続けていたからです。ので、なんと言うシンクロニシティだろうと、感じ入っちゃいました。
実は、資生堂そのものよりも、そのビルの斜め前にある画廊と、そこで、展示をされていた、絵について、考えていたからです。その絵のよさを文章として上手に表現するための、重要な鍵となるものが、赤い資生堂だったのです。
で、私はその合致があまりに嬉しくて、すっと、古いスプリング・コートを脱いだのです。今日は初めて着る組み合わせとして、非常にユニークな色合いのものを着ていたからです。濃い目のオリーブ・グリーンの綿のシャツとパンツの上下に、同じく殺した薄緑色のセーターを組み合わせていました。襟元に薄い黄色の琥珀のネックレス。
この色合わせは、もし、絵画に用いたら美しいはずです。ただ、世の中の今現在の流行色ではありません。でもアーチストとして、色の感覚だけには自信を持っているので、流行も値段も無視して、(つまり、安物を着ているのですが)、圧倒的な自信を持って着こなしています。どこへ向かったかと言うと、単に非常に親しいと感じている歯医者さんに行くだけだったのですけれど・・・・・
相手に見せびらかすためではなく、自分のためだけのおしゃれでも、それが、できるのは、体調がよいときです。おしゃれに気を使う余裕が出るのは、前夜よく寝た日のようです。
お嬢さん方も「きれい、きれい」と言ってくれました。こんな些細なことでも、とても嬉しいのです。高島屋の二階あたりで、ウォールナットの小部屋に入って、何十万円もする洋服を買う生活とはなんと遠いことでしょう。でも色を選ぶだけでも、それだけでもこんなに幸せになれるのです。『そう言えば、おととい徹夜だったせいか、昨日は八時間寝られたからね』と、自らを納得させました。
2006年の四月ごろ。それを2009年、9月に書き直す。
雨宮 舜(川崎 千恵子)
「あなたがたはどこの会社の人なの」と質問をするのは、男の子の方が純真で楽なのですが、女の子のグループも傍にいるのを知っていて、このおばさんが、男の子を選ぶのもあざといと思ったので、美形の女性三人組に話しかけると、特別かわいい目のパッチリした女の子が「あ、うるさくてご迷惑でしたか?」と言うので、そのしつけのよさに驚きました。よい家庭に育ち、大企業に大卒で入社できる幸福な若者たちらしいのです。
で、ますます会社に興味を抱きました。「言ってよいのかしら?」と、三人で躊躇するので、「悪いことは書かないわ」と請合った上で、あるお嬢さんの長い髪をすこし、襟元から外へむけて払うと、なんと、花椿の七宝の線が銀色のバッジに浮かび上がっていました。つまり、資生堂の新人だったのです。
・・・・・・だから、顔が良かったわけです。最先端で美容指導をするわけではないだろう、本社づとめの布陣でも、資生堂は顔の良い若者を取ることに不文律としてなっているのか、それとも、美形である男女のみが、応募段階から集まるのかは分かりませんが、ともかく、さすが、資生堂だと思うほどの、美形の若者の集団でした。・・・・・
それはともかくとして、私が驚いたのは、その日ごろ、
ずっと銀座の資生堂の赤いビルのことを考え続けていたからです。ので、なんと言うシンクロニシティだろうと、感じ入っちゃいました。
実は、資生堂そのものよりも、そのビルの斜め前にある画廊と、そこで、展示をされていた、絵について、考えていたからです。その絵のよさを文章として上手に表現するための、重要な鍵となるものが、赤い資生堂だったのです。
で、私はその合致があまりに嬉しくて、すっと、古いスプリング・コートを脱いだのです。今日は初めて着る組み合わせとして、非常にユニークな色合いのものを着ていたからです。濃い目のオリーブ・グリーンの綿のシャツとパンツの上下に、同じく殺した薄緑色のセーターを組み合わせていました。襟元に薄い黄色の琥珀のネックレス。
この色合わせは、もし、絵画に用いたら美しいはずです。ただ、世の中の今現在の流行色ではありません。でもアーチストとして、色の感覚だけには自信を持っているので、流行も値段も無視して、(つまり、安物を着ているのですが)、圧倒的な自信を持って着こなしています。どこへ向かったかと言うと、単に非常に親しいと感じている歯医者さんに行くだけだったのですけれど・・・・・
相手に見せびらかすためではなく、自分のためだけのおしゃれでも、それが、できるのは、体調がよいときです。おしゃれに気を使う余裕が出るのは、前夜よく寝た日のようです。
お嬢さん方も「きれい、きれい」と言ってくれました。こんな些細なことでも、とても嬉しいのです。高島屋の二階あたりで、ウォールナットの小部屋に入って、何十万円もする洋服を買う生活とはなんと遠いことでしょう。でも色を選ぶだけでも、それだけでもこんなに幸せになれるのです。『そう言えば、おととい徹夜だったせいか、昨日は八時間寝られたからね』と、自らを納得させました。
2006年の四月ごろ。それを2009年、9月に書き直す。
雨宮 舜(川崎 千恵子)