これは、一見すると、個人的な問題であり、かつ、心理学オンリーの問題に見えるでしょう。が、#4で、軽くですが、突然に政治へ入っていきます。つまり、パソコンを使ったいじめの話へ入るからです。つまり10年も前からパソコンを使ったいじめが始まっていた可能性を感じるからです。
今、私がグーブログ『銀座のうぐいすから』で、書いているものが、重要で面白いことは、読者数などから、確信を得ることができます。そこに集中したいのですが、ここに新たな課題が出現しました。それは、窮鳥として、懐へ入ってきたA子夫人を救わなければいけないということです。彼女は政治的な発信者ではないのに、大きな被害を受けています。しかも、彼女とリアルに出会ってわかったことは、この手の被害者は、少なくないということです。
何か、大きな黒いクラウドが、この日本の空を覆っていることを感じます。で、それに対する戦いですが、こちらには、お金も組織もありません。ただ、ひたすら個人としての、自分を強化することしか防衛策は無いのです。で、以下の小説を、A子夫人へささげます。で、これを書くのはとても大変だったので、政治的課題が、すっぽり抜けてしまっていますが、でも、
これもまた、広義の意味では、政治的課題を果たすことと同義でもありますから。急遽、そちらへ舵を切りなおします。・・・・・彼女は私とは何の関係もない段階から、パソコンが外部の力によって破壊させられ始め、特に、クライアントのデータが破壊をされるので、社会保険労務士の仕事を止めなくてはならなくなり、悲嘆にくれていたところ、私のブログへ出会い、被害者が自分だけではないころを知り、やっと生きる気力が出たとおっしゃっています。
で、彼女を救うための小説を書き始めます。バルザックみたいに、冷徹な小説を書きます。なお、こちらの小説の方のモデルになった女性は、「千恵子ちゃん、私のことを小説に書いて」・・・・と、頼んでくれていました。が、今まで取り組まなかったのは、彼女の希望が、悲劇のヒロインとして、自分を美しく表現してもらうことだったと推定していて、そういう小説なら書けないと、判断をしていたからです。ここでは、相当にリアルに人間心理をうがっていきます。途中、パソコンを悪しく利用される場面が出てきますが、それは、今につながる問題となっています。
桜の花のつぼみ(小説)-1
百合子は、クラスで、一番きれいな子は、桜子ちゃんだと思っていた。真っ白な肌。品の良いお雛様みたいな顔の造作。だが、不思議なことにあまりよくお勉強ができなかった。で、自分が加わっている地域で、一番お勉強のできる子達で形成するグループには彼女は入っていなかった。そのグループは、船長夫人が経営する一種の受験用塾で、3組から、それぞれ、トップの女子が三人ほど、男子が、1人か、2人、入っていたが、母親どうしのライヴァル心もあるのか、招かれていない優秀な女の子は何人か、ほかにもいたけれど。
桜子ちゃんは、その塾の2分と離れてないところに住んでいたのだから、本当は招かれないといけなかった。後から参入してきた船長夫人と、戦前からの住民(桜子ちゃんの母)の間に対立でもあるのだろうか?
しかし、これらの謎は、50年後に一気に解ける。
その50年後だが、世間一般の例に漏れず、百合子たちは同窓会を開始した。クラスのうち半数が集まる盛会だった。そして、子供時代に親の力によって先生にもっともかわいがられていた男の子も女の子も、すでに死んでいるのが、不思議なことではあった。
百合子は、桜子ちゃんの変化に半分、満足をして、半分は不満だった。彼女はある有名企業の社長夫人として収まっていて、外見は何不自由が無いように見えた。会話も明るく活発になっていた。が、子供のころの美景振りが、思いがけずも、発達しておらず、平凡な人になっていると見えた。
そのころ、百合子は、修行のために、ひとり暮らしをしていて、それは一応のところ、みんなの興味を引いたが、やがて、当然のことであろうと、誰も話題にしなくなった。小学校のころから突出して大人っぽく、突出して、学業優秀だったのは、誰もが認めてくれており、『普通の奥さんには納まっていられないんだろうね』ぐらいなところで終わりだった。
しかし、百合子の一人暮らしは、電話を活用するという意味では最高の環境だった。実は電話を盗聴している、又、パソコンも常にハッキングをしている闇の大組織があるなどとは、夢にも思っていなかったので、夜や、昼、5日に一度ぐらい、友達に電話をかけては、深い深い心理学的な問題を語り合っていたものである。
が、ある日、桜子ちゃんから、「ねえ、百合子ちゃん、何を着ていったらいいか、相談に乗って」と切迫した電話がかかってきた。それが、地獄の門が開いた瞬間だったのだ。桜子ちゃんは、実は煉獄の業火に焼かれている最中だったのだ。それは、他人にはまったく見えない部分だったのだけれど。
桜の花のつぼみ(小説)ー2
「どこに着ていくの?」と問う百合子に、「クラブなの」と桜子は答える。「う?」と、絶句する。「主人がね、来週の火曜日に同伴をするの。そこに、來いというの。で、何を着て行ったらよいかしら?」と、説明が追いかけてくる。百合子は、昔見たテレビ番組内で、同伴というのを見たことはある。クラブに勤めている女性にとって、お客と一緒に夕方店に登場するのは、プラスアルファの金銭をもらえるのだった。だから、夕方になると、彼女たちは電話を掛け捲る。銀座で、正装のまま道を歩きながら電話を掛け捲っている姿も何度も見かけた。それを思い出しながら、「やはり、奥様らしいスーツがいいでしょう。高島屋で、20万円ぐらいのスーツを買って、ちゃんとしたところの奥様であるという自信と誇りを見せて」と答えた。この時点では、桜子ががんじがらめにはまってしまっている修羅の実装を知らなかったので、こう答えた。
百合子は、大勢の人から、すこぶる頭が良いとは言われている。が、それは熟慮に次ぐ熟慮を重ねるからでって、瞬間的な把握は鈍い方だ。だから、電話が終わっても、15分間ぐらいは、事態が良く飲み込めなかった。が、15分過ぎに、やっと、正しい事情が飲み込めた。彼女の夫は、その愛人とぐるになっていて、彼女をからかい、苦しめようとしているのだ。正札付きの悪だった。夫かそれとも愛人か、どちらがその悪巧みのアイデア元かはわからないものの、桜子は、嵐に揺れる湖上の落ち葉といった風情だった。で、あわてて電話をこちらから、かける。
「あなたね。そんなところへ出かけちゃあダメよ。絶対に出かけちゃあダメ」という。しかし、桜子は、納得をしない。「百合子ちゃん、うちの主人ってね。こういうこといっぱいあるのよ。もてるの。慶応ボーイの典型だし。今までも、あやしいケースはいっぱいあったの。でも、今度だけは、本気みたいなの。で、心配でたまらないの」「わかった。で、その女性はどういう人?」「元OLらしい」 百合子は内心で、お嬢様育ちで、経験が足りない桜子は、太刀打ちできない女性であろうと、感じ、くりかえし「あっちゃあ、ダメよ」と言い聞かせた。
しかし、桜子は、自制が利かなかったらしい。結局は出かけていったみたいだ。しばらくの間、連絡が無かった。百合子は、「結果はどうだった」などというような電話をかけるタイプではない。
で、季節は経巡って、又、同窓会の季節がやってきた。
百合子たちの卒業した小学校は、日吉にあるのだが先生を敬って,先生の地元である町田で、行う。一次会は、先生同席だから、何も崩れない。さて、二次会へ流れる。そこでも、別に崩れるわけではない。ただ、人生のあれこれを、語るだけだ。
だが、その中で、男の子の中で、輝くような出世頭の、昭君が、いる。そのこが、「桜子ちゃん、僕のところへおいでよ」といったのだ。百合子はドキッとして、桜子を見つめた。昭君の方は当時は独身で、結婚の資格がある。親は軍人で、本人は上智出身のクリスチャン。最初の奥様はドイツ人だったが、死亡。そして、現在の、彼は、社長でもある。ぴったりの組み合わせだ。桜子が、苦境を電話で、すでに愚痴っているのだろうか。だから、こういう提案が彼から出た? いや、それは無いであろう。となると、昭君の勘とは鋭すぎる。
でも、彼に桜子の苦行がわかるとすれば、それは、彼がいかほど、桜子を愛しているかの証明でもある。又、愛しているから、桜子の顔に出ている苦境を察せられるのであろう。そうだ。一節前にもいったように、桜子は、もっと美人になっているはずだった。それが平板な顔になっている。それだけでも、勘のいい人間には、何かが変だとわかるのだ。
桜の花のつぼみ(小説)-3
さて、バルザックのような小説を書くと前文で宣言している。どこにその特徴が出て來るかといえば、百合子は主人公、桜子を美化しない。小説としては、わかりにくくなり、感動を生まなくなるが、桜子が犯した過ち、・・・・・頑迷さと、ば・か・さから、脱却をできなかったこと・・・・・についても、触れるつもりだから。それは、新しい窮鳥、A子夫人にも、正しく学んでほしいからだ。自分の苦境を救うのは、自分である。しかし、もっともきつい戦いを、自分に課さないといけない。つまり、自分を変える必要があるのだ。
自分をどう変えるか? に、当たって、他人の忠告を受け入れるのは、必要だ。しかし、受け入れたつもりになって、実際には何も受け入れておらず、そのまま追い詰められきって、自殺をしてしまったのが、桜子だ。そうなったら、子供に大きな傷をのこす。幸いにして御主人の実力のおかげで、腹膜炎をこじらせたという表向きの建前は通り、実際に入院後なくなっている。
ただし、無論のこと、彼女は包丁で、腹掻っ捌いたのだ。
しかし、異常なことであるから、友人には入院も知らされず、葬式も行われず、ただ、ただ、パソコンうちの年賀欠礼として、一行、妻、桜子(享年59歳)がなくなったので、云々、かんぬんとあった。・・・・・・どうも、そのはがきは、百合子一人のために、御主人が作った模様である。
それが、来ただけでも、良かった。出ないと、真相が何もつかめず、結局、助言者としての、自分に自信を失った百合子は、今のように、A子夫人を助けようなどとは、思うことも無かったであろうから。
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さて、こんな理屈ばかり並べていたのでは、小説としては面白みがない。やはり、具体的な事実で、肉付けをしておこう。
最初の「同伴に来い」とだんなから命令されたという驚天動地の話だけれど、もしあれが、それより前の、夫婦喧嘩の挙句の言葉であったらどうだろう。実はだんなを良く知る人が、「そんなに悪い人間じゃあないんですよ。いわゆる、もてるは、もてるタイプだけれどね」と言っていた。そして、桜子が、百合子たちの前に見せる姿とは別に、逆上した姿をだんなに見せていたと仮定する。『あわせてよ。その女に合わせてよ』と怒鳴ったと仮定してみよう。すると、売り言葉に買い言葉となって『じゃあ、火曜日に、同伴するから、お前来いよ。かおり(関内にある古いレストラン)に』となったのかもしれない。
そうなると、だんなと愛人と妻が三人で会食をするというあの驚天動地の申し出でも、桜子には、断れるはずも無く、又、断るつもりもない申し出でとなる。
そして、かわいそうなことには、こういうだんなだから、釣った魚にはえさはやらないの典型で、妻には十分なお金を渡していなかったりしていて、彼女は高島屋で20万円のスーツを買うお金など持っていなかったのかもしれない。
無論、人間には素地の美しさというものがある。が、それを、十分に持っているはずの彼女は、どうしてか、嫉妬の闇に足を取られ、自分の本来の良さを発揮しえていないのだった。社長夫人であるのに、それほど、高価なものを着てはいなかった。同じグループ内に、塾の経営で、大成功をしている女性があって、彼女こそ、大高級ブランド・・・・・それこそ、一着が、すべて、20万円以上のものを・・・・・・着ているのだけれど、桜子はそうではなかった。
衣装に自信が無く、立場の上でも、自信がない彼女が、どんな思いでレストランに出かけたのだろう。
実際には、御主人が、家に午後4時ごろ電話をかけてきて、『今日は止めたよ』とでも、言ったのかもしれない。ともかく、その件は今となっては闇の中である。そして、百合子は、その後、延々と、桜子に付き合うことになっていく。そして、父親が、東大出で、終戦後、不倫をしてしまった話などを聞いていくことにも、なる。そこに、彼女が頭が悪くなってしまった秘密が隠されていた。
ちっとも言うことを聞いてくれない彼女に、内心でいらいらしながらも、忍耐強く、繰り返し、繰り返し、同じ助言をしながら付き合う。
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桜の花のつぼみ(小説)-4
ある日、夜9時過ぎに桜子から電話があった。「ねえ、主人、外泊しているのよ。また、あの女のところだと思うけれど、百合子ちゃん。話さない」と。こういうときに、逗子のアトリエ一人暮らしは便利だった。もし、鎌倉の自宅へいたら、真夜中に電話をかけあう。とくに、長電話など許されるはずがなかった。百合子の夫は、地方のサラリーマン家庭の出で、普通のサラリーの中で、四人の男の子を全部大学へやったので、極端に切り詰める方であり、電話でながはなし等するのは、とんでもないという主義なのだ。
百合子は、「ああ、いいわよ」という。百合子の方も、そろそろ、本腰を入れて、彼女を納得をさせないといけないと考えていた。つまり、すでに、何回か言ってきていたが、「家政婦に徹しなさい」ということだ。『本当の妻の座をうばわれたくないという、その気持ちを捨てなさい』という方向で、芯から彼女に、納得をしてもらう必要があった。
この時点までに、相当な長話は電話で、交換をされており、百合子もほぼ正確に状況がつかめていた。桜子は何の落ち度もない奥さんではあったが、ただ、それだけの人物でもあった。唯一の利点は、子供がいること。それ以外は、特に頭の良さでは、愛人に負けていた。愛人は、男がほしがるもの・・・・・安心感、安らぎ、意欲更新、・・・・・そういうものを与えることのできる女性で、ご主人は彼女と新しいパートナーシップを開始したがっていた。が、親せきづきあいや、社交の場もあること、もろもろを総合して、ご主人は、対面上は、離婚をせず、妻を家政婦の位置に置いておこうとしていた。が、なんともこずるいことに、セックスは、桜子との間にもあるのだそうだ。
そして、桜子が、判断ミスによって、血まよい加減に責め立てるものだから、相当に嫌気もさしてきていて、ノイローゼにして、入院させようと企んでいた。だから、桜子が、方針をここで、変えない限り、まるで、敷かれたレールに乗っているかのごとく、精神病院へまっしぐらとなるであろう。自分を守るためには、早急に方針を変えないといけない。
特に夫婦共有のパソコンの中に、不思議な新しいファイルが浮かんでいて、それは、アルファベット上では、ご主人と、愛人の組み合わせであるそうだ。
この部分は後日、別のタイトルを立てて論じます。というのも、当時の私は彼女の言葉をそのままに受けていて、御主人がやっていると思っていました。が、10年後の今は、違う可能性も感じています。つまり、闇の組織がやっていた可能性です。で、元に戻れば、
『自分が、ここでは、いったん負けなさい』ということを、彼女に、納得をさせないといけないのだけれど、それが、また、大難事であった。というのも、桜子が、自分の言うことを聞いてくれないのは、対等だからだろうと思って、専門家にかかるのを勧めたことがある。で、彼女はテレビに出ている某有名人を頼ってカウンセリングを受けたそうである。一時間、一万円を取られて、言われたことは、たた、「あなたは、今、夜叉になっておられます」だけだったそうだ。彼女はぷんぷんに怒っており、「ねえ、百合子ちゃん、百合子ちゃんの方が絶対に優しい。百合子ちゃんが頼りよ。だから、よろしくね」と言われていた。
が、百合子は内心で、このあたりから、ぞっとし始めてもいたのである。もし、百合子が上のような言葉を、カウンセラーから受けていたとしたら、絶対に、それを他人には言わない。だって、それは大きな恥だから。だが、桜子は、平気でそれを、百合子に告げる。それは、「そんなバカげた嘘を言うのよ。その人」という批判の気持ちしか彼女にはないからだ。相変わらずあるご主人と愛人への他罰的な感情だ。どうして、こういう風になってしまったのかという自己反省的な、気持ちがない。
本当は、この時点で、百合子は大きく興ざめして、気持ちが離れていた。で、賢くふるまうつもりなら、電話が来るたびに、『あ、今てんぷらを揚げているの』とか言
って逃げ出し、自然に縁を切るという手がある。しかし、結局最後まで、相手との会話を切らない百合子だった。とくに、この日の、延々4時間に及ぶ電話は、二人の交流のハイライトだったであろう。
そして、百合子は、その長電話の中で、はじめて、桜子が、東大卒の父と名門出身の母を持っていること。そして、それほどいい遺伝子をもちながら、どうしてか、頭が悪い、その、本当の理由を知ることとなる。そして、そこについては深い同情を禁じ得なくなるのだった。・・・5へ
桜の花のつぼみ(小説)・・・5
百合子は、ご主人は、すでに愛人にマンションを買って与えていると推察していた。それは、今、桜子が住んでいるものより広く、新しいインテリアのもので、ご主人は毎日、そこに寄っているとも、推察していた。つまり、キッチンの流し台が桜子の家では、ステンレスであり、愛人の家では、大理石であるような違いがあるはずだ。しかし、桜子は、そんなことは夢にも想像をしていないみたいだった。それが哀れで仕方がなくて、離婚をした方がいいのにと、思っていた。特に、同窓会の二次会で、昭君が、ぽろっと、「桜子ちゃん、僕のところに来たらいいのに」と発言をしたのを聞いてしまってからは、今がチャンスだと思うようになっていた。
そういえばと、はるか遠くを思い出す。昭君は例のご優秀グループに招かれていなかった。お母さんが、美人すぎる・・・・・また、軍人だった夫の給料が急に無くなった
ために、食堂をやっていたからだろう。それは、昭君にとって、幼い胸を痛める屈辱的な出来事だったはずだ。だけど、そのご両親の遺伝子で、昭君は、子供のころから凄味のある美少年だった。東千代の介に切れ味を加えたような美形。で、お雛様みたいな美形の桜子とは、ちょうど対をなす、クラス一の美形同士だったのだ。現代でいうタレント的な美形ではない。祖先が、高い階級なんでしょうね」ということを示す美形。
で、昭君と結びつくことを想定しないでも、離婚を主張したら、家だけは確実に彼女のものになるだろう。生活費だが、あのご主人は出さない可能性はある。だけど、人間、精神がしっかりしていたらあとは何とかなるものだ。当座はお子さんに帰ってきてもらって、そこから生活費を出してもらう。
あまりにも堂々巡りをして、何の進歩もない、桜子の代わりに、さっさとそこまでシュミレーションを立てた。そのうえで、「ねえ、離婚する気はない?」と聞いてみる。
すると、「百合子ちゃん、私、離婚はしないわ』という。『ああ、やはり、また同じだ』と、思ってがっかりした百合子は、しばらく無言となる。
すると、桜子が、「わたくしの両親、離婚をしているの。だから、私は絶対に離婚はしないわ」という。百合子はびっくりする。なんと、桜子は、そんなに新しい女性の子供だったのか? じゃあ、反面教師として、こんなに古いタイプの女になっちゃったの?
急に疑問がいっぱい湧いてくる。
戦後すぐに、女性の解放が言われ、ロマン・ローランの『魅せられたる魂』や、ボーヴォワールの『第二の性』は、女性たちのバイブルになっていた。
百合子は苦笑しながら、「なんだ。そんなに勇ましいお母さんの子供なのに、どうしてそんなに、ふにゃふにゃ、めそめそしているのよ」と言ってみる。すると、しばらくの間、桜子は無言。そして、そのあとで「百合子ちゃん、何か、誤解をしていない。私の母って、離婚をした後で、セミの抜け殻みたいになっちゃったの。絶対に離婚をしない方がよかったのに、離婚をしますと、自分から、宣言しちゃったので、とても不幸になってしまった人なのよ。自分から、切りだしたから、家も財産も何ももらえなくて、そのあとで、親せきのお世話になるしかなかったの。日吉はね。あれ、私の家ではないのよ。親戚の家なの。私は、あの母を見ているから、絶対に、離婚はしないわ」と、言った。
百合子は、しばらくの間、何も言えなかった。桜子の、単なる聞き分けのないわがままに見えた、夫への執着の影に、だれも知らない、それほどの負の連鎖があったとは。6へ。
桜の花のつぼみ(小説)・・・5
百合子は、ご主人は、すでに愛人にマンションを買って与えていると推察していた。それは、今、桜子が住んでいるものより広く、新しいインテリアのもので、ご主人は毎日、そこに寄っているとも、推察していた。つまり、キッチンの流し台が桜子の家では、ステンレスであり、愛人の家では、大理石であるような違いがあるはずだ。しかし、桜子は、そんなことは夢にも想像をしていないみたいだった。それが哀れで仕方がなくて、離婚をした方がいいのにと、思っていた。特に、同窓会の二次会で、昭君が、ぽろっと、「桜子ちゃん、僕のところに来たらいいのに」と発言をしたのを聞いてしまってからは、今がチャンスだと思うようになっていた。
そういえばと、はるか遠くを思い出す。昭君は例のご優秀グループに招かれていなかった。お母さんが、美人すぎる・・・・・また、軍人だった夫の給料が急に無くなった
ために、食堂をやっていたからだろう。それは、昭君にとって、幼い胸を痛める屈辱的な出来事だったはずだ。だけど、そのご両親の遺伝子で、昭君は、子供のころから凄味のある美少年だった。東千代の介に切れ味を加えたような美形。で、お雛様みたいな美形の桜子とは、ちょうど対をなす、クラス一の美形同士だったのだ。現代でいうタレント的な美形ではない。祖先が、高い階級なんでしょうね」ということを示す美形。
で、昭君と結びつくことを想定しないでも、離婚を主張したら、家だけは確実に彼女のものになるだろう。生活費だが、あのご主人は出さない可能性はある。だけど、人間、精神がしっかりしていたらあとは何とかなるものだ。当座はお子さんに帰ってきてもらって、そこから生活費を出してもらう。
あまりにも堂々巡りをして、何の進歩もない、桜子の代わりに、さっさとそこまでシュミレーションを立てた。そのうえで、「ねえ、離婚する気はない?」と聞いてみる。
すると、「百合子ちゃん、私、離婚はしないわ』という。『ああ、やはり、また同じだ』と、思ってがっかりした百合子は、しばらく無言となる。
すると、桜子が、「わたくしの両親、離婚をしているの。だから、私は絶対に離婚はしないわ」という。百合子はびっくりする。なんと、桜子は、そんなに新しい女性の子供だったのか? じゃあ、反面教師として、こんなに古いタイプの女になっちゃったの?
急に疑問がいっぱい湧いてくる。
戦後すぐに、女性の解放が言われ、ロマン・ローランの『魅せられたる魂』や、ボーヴォワールの『第二の性』は、女性たちのバイブルになっていた。
百合子は苦笑しながら、「なんだ。そんなに勇ましいお母さんの子供なのに、どうしてそんなに、ふにゃふにゃ、めそめそしているのよ」と言ってみる。すると、しばらくの間、桜子は無言。そして、そのあとで「百合子ちゃん、何か、誤解をしていない。私の母って、離婚をした後で、セミの抜け殻みたいになっちゃったの。絶対に離婚をしない方がよかったのに、離婚をしますと、自分から、宣言しちゃったので、とても不幸になってしまった人なのよ。自分から、切りだしたから、家も財産も何ももらえなくて、そのあとで、親せきのお世話になるしかなかったの。日吉はね。あれ、私の家ではないのよ。親戚の家なの。私は、あの母を見ているから、絶対に、離婚はしないわ」と、言った。
百合子は、しばらくの間、何も言えなかった。桜子の、単なる聞き分けのないわがままに見えた、夫への執着の影に、だれも知らない、それほどの負の連鎖があったとは。6へ。
桜の花のつぼみ(小説)-6
百合子が、じっと黙っていると、桜子が、「あのね。親戚にお世話になっていたころがあるの。大きな家で、大勢が一緒に暮らしていました。で、親せきの中の一人が、父を好きになってしまったの」という。百合子はかろうじて、「東京のおうちは焼けてしまったの?」と聞く。すると、「違うの。父は、〇〇省に勤めていたのだけれど、戦後パージに出会ってしまったの」と答える。
ここで、百合子は、初めて、桜子の父親が東大の出身であることを知るのだった。というのも、本省勤めで、パージに合うと言えば、それは、課長以上、局長以上をさすからで、それは当然のごとく東大卒であろう。となると、昭君と、桜子ちゃんは、双璧をなす、名家の子供となる。
それで、百合子はある一つの納得に達する。桜子の頭の固さというか、悪さの中に、どうしても、腑に落ちないアンバランスを感じてきたが、東大出の父の子供であることを、自分が何を聞かなくても、いままで直感的に感じるからこそ、抱いた怪訝さだったと。この人って、もっと頭がよくて、物分かりがいいはずよという思いがある。だからこそ、頭が悪い、頭が悪いと、今まで、平気で書いてきた。根っこのところで、愛し、尊敬しているからこそ、抱くイライラ感だった。
東京の戦後には食べるものがなかった。配給は少量で、大勢の人が飢えていた。まともな給料をもらっている人も闇物資を手に入れないと生きていかれなかった。どんな人も、価値のありそうなものをもって田舎をおとずれた。卵を分けてください。ほうれん草を分けてくださいといいに。
しかし、もし、基幹となる、お給料がなかったら、それも、成り立たない。一家が、長野県の旧家に保護を求めて、帰郷をしたのは当然だった。満州から引き揚げた、百合子一家が、父の兄の家に寄寓をしたのと同じだった。しかし、どうも、そちらの家族構成は、百合子の親戚より、人数が多くかつ、複雑だったらしい。
中に、ちょうど、『初恋の来た道』に主演したころの、チャン・ツィイーを思わせる少女がいた。その人との間に、ことは起きたらしいのだ。東大出身の眉目秀麗な紳士が、何もすることがなくて鬱屈している。それを見かねた少女は、「オジサマ、セリでも、摘みに行きませんか?」と誘ってあげたと仮定しよう。単に、善意からだ。二人は、田んぼのヘリで、せっせ、せっせと、セリを摘み、バケツの中に保存をしていく。
ふと、「ちょっと休もうか」となって、あぜ道へ並んで腰を下ろす。
「オジサマ、東京のことを教えてくださいな」と少女は頼む。男にとって、ただひたすら、自分を見つめるまっすぐな瞳はまぶしい。
そんなところまで達して、百合子は、疑問を挟む。
「ねえ、どうして、お母様の方が、身を引かなくちゃあいけないの。お母様には、3人のお子様さえあるのに」と。すると、桜子が言う。「母はプライドが高かったの。で、許せなかったと思うわ」・・・・・それを聞いて、「でも、それなら、お父さんは、お金を出してもよかったのに」と聞くと、
「母は、私だけを連れて家を出たの。男の子は、父に預けたの。やがて、パージが解けたら、父は復活すると信じていたのね。そうなると、女の自分には、育てられない。大学へ、進学させる学費が出せないとなってね。兄と弟は、父のもとに残したの」
百合子は、一人推察を重ねる。何親等の差なのだろう。姪か。従妹か、それとも、妻側の親戚だから、結婚に無理はないのだろうか? それにしても、無残な話だ。出産は、死ぬ覚悟さえ必要な危険で、痛い仕組みである。それを、三回も、やってあげた大切な男を、自分の姪か、いとこかに、譲って、自分が身を引かなければならないなんて。
「だいぶわかったわ。だけど、お兄様たち。よく反抗をしなくて、立派にお育ち上がりなさったわね」というと、「そうね。彼女はできた女性なの。父と結婚後、医学部へ進学をしたのよ。そして、実際に医者になって診療も、続けているの」
「本当。それは参ったわね」と、言うしかない百合子だった。・・・・・7へ
桜の花のつぼみ(小説)-7
「そう。じゃあ、あなただけ、ひとりお母様と暮らしたのね」という。いいながら、初めて謎がとけた気がした。母と娘は愛情の交流が実はないのだ。むしろ、ライバル心をもつと、フロイトは言っている。普通の家庭で、家族が安心しきって本音を交わすときに、それが見事に表れる。桜子はその母親と二人きりで、しかも経済的な庇護を受けている親戚の中で、息をひそめて暮らしてきたのだ。なんとかわいそうなことだろう。だから、桜子には、未発達なところがある。会話をするときに、は、彼女はとてもバカとは思えない。しかし、大切な判断をするときに、他人では、信じがたいほどの馬鹿な判断をする。
ただ、百合子は、自分の姿勢が、ずっと穏和になっているのを感じた。で、とても、優しい聞き方で、「お母さま、あなたと、どんな遊びをしてくださったの?」と聞いた。フロイトによれば、反発しあう母娘でも、お互いに、その二人しかいないのなら、愛し合うはずだ。夜は絵本でも読んでくれたのだろうか? すると、これまた、思いがけない返事が来た。「ううん、母ってね。まるで生きた骸だったの。話しかけても答えてくれない感じ。離婚のことを、とても後悔していたのだと思うわ。そして、とても早く死んだの。私が短大を卒業する前に、ろうそくが消え入るように、死んだの」という。
百合子は、ほとんどすべてを納得できた。なんとかわいそうな少女期を送っているのだろう。そして、そういうかまってもらっていない人生だからこそ、彼女は頭が悪いのだ。よいご親戚に囲まれて生きてきた。だから、不良だったり、曲がったりは、していない。でも、ほかの人間だったら、「こういうことなのよ」と説明すれば納得するところを、彼女はどうしても納得しない。
しかし、その原因はなんと外部にあったのだ。つまり、大切な父親にあったのである。父親が自制心を働かせて、新しい妻との関係を深入りさせなければ、桜子は、こうはならなかった。彼女は、さびしい人生を送っている元の妻へ、与えられた一種のペットというか、おもちゃだったのだ。
百合子は、ふと、聞いてみた。「お父様との関係は、どうなっているの?」と。すると「母が死んだあとで、父が引き取ってくれたの。私、その時に初めて、人に愛されるということを知ったの。すごくうれしかった。あれがあるから、人間として、自信が付いたような気がするわ。そして、父が嫁入り支度をしてくれて、父の家から結婚式へ向かったの」と、彼女は答えた。
それを聞きながら、『よかったわね』と祝福をした。しかし、それは、80%程度のこころで。後の20%で、『お父様、ずるいわ。あなたって、桜子から、最後の最後のチャンスを奪ったわ。人間として成長できる最後のチャンスよ。つまり、あなたを批判することが必要だったのです。・・・・・つまり、彼女は『お父様、どうして、お母様を捨てたの。私ね、今のお母様と、お父様が組んで参列してくださるより、もちろん、本当のお母様と、お父様が、手を組んで、参列してくださる方がずっとうれしかったの』と、言うべきだったのだ。が、初めて接した、あふれるような愛と親切さの洪水の中で、その本質が鈍らされてしまった。その後、35年たっている。桜子は、まるで駄々っ子のように、夫と愛人の手を切らせようと必死である。
その姿勢は、とても、大人のそれとは思えなかった。
前半部分、完
@@@@@@@@@@@
エピローグ。
この小説には、後半部分があります。そちらの方が、動きがダイナミックで、いわゆる本当の小説となっていくでしょう。しかし、本日は書きません。疲れています。体力の残りがありません。しかし、その続きを明日書くか、あさって書くかと問われれば、まるでお約束できないとなります。頭の中に、今はその詳細が降りておりますが、いったん寝た後で、そのディテールが復活するかどうかは、保証の限りではないのです。
で、筋が完結していない段階で、どうしてこの小説をさらしたかですが、ここまでの部分でも、評論としては成立していると自負するからです。
何を評論をしているかというと、一人の人間を成長させるために、必要なものは何かということです。普通の家庭、そして、普通の喧嘩、普通の意地の張り合い。そして、普通の思いやりの交換、そういうものがすべて必要なのです。
その普通の家庭を保持するためには、まず、両親が、恋に落ちたり、ましてや新しい縁組を組みなおしたりしてはだめなのです。それは、子供が二十歳を過ぎるまでは、絶対にやってはいけないことなのです。
人間の脳を鍛え伸ばすのは、拙速主義のドリル学習ではありません。2歳ごろから、お受験に取り組むなど、徹底的に間違っていると思います。
美しい人、だけど、心が未発達だった人、桜子さんに、仮に主人公になっていただいて、今日の私はそれを語らせていただきました。では、本日は、これで、さようなら。
今、私がグーブログ『銀座のうぐいすから』で、書いているものが、重要で面白いことは、読者数などから、確信を得ることができます。そこに集中したいのですが、ここに新たな課題が出現しました。それは、窮鳥として、懐へ入ってきたA子夫人を救わなければいけないということです。彼女は政治的な発信者ではないのに、大きな被害を受けています。しかも、彼女とリアルに出会ってわかったことは、この手の被害者は、少なくないということです。
何か、大きな黒いクラウドが、この日本の空を覆っていることを感じます。で、それに対する戦いですが、こちらには、お金も組織もありません。ただ、ひたすら個人としての、自分を強化することしか防衛策は無いのです。で、以下の小説を、A子夫人へささげます。で、これを書くのはとても大変だったので、政治的課題が、すっぽり抜けてしまっていますが、でも、
これもまた、広義の意味では、政治的課題を果たすことと同義でもありますから。急遽、そちらへ舵を切りなおします。・・・・・彼女は私とは何の関係もない段階から、パソコンが外部の力によって破壊させられ始め、特に、クライアントのデータが破壊をされるので、社会保険労務士の仕事を止めなくてはならなくなり、悲嘆にくれていたところ、私のブログへ出会い、被害者が自分だけではないころを知り、やっと生きる気力が出たとおっしゃっています。
で、彼女を救うための小説を書き始めます。バルザックみたいに、冷徹な小説を書きます。なお、こちらの小説の方のモデルになった女性は、「千恵子ちゃん、私のことを小説に書いて」・・・・と、頼んでくれていました。が、今まで取り組まなかったのは、彼女の希望が、悲劇のヒロインとして、自分を美しく表現してもらうことだったと推定していて、そういう小説なら書けないと、判断をしていたからです。ここでは、相当にリアルに人間心理をうがっていきます。途中、パソコンを悪しく利用される場面が出てきますが、それは、今につながる問題となっています。
桜の花のつぼみ(小説)-1
百合子は、クラスで、一番きれいな子は、桜子ちゃんだと思っていた。真っ白な肌。品の良いお雛様みたいな顔の造作。だが、不思議なことにあまりよくお勉強ができなかった。で、自分が加わっている地域で、一番お勉強のできる子達で形成するグループには彼女は入っていなかった。そのグループは、船長夫人が経営する一種の受験用塾で、3組から、それぞれ、トップの女子が三人ほど、男子が、1人か、2人、入っていたが、母親どうしのライヴァル心もあるのか、招かれていない優秀な女の子は何人か、ほかにもいたけれど。
桜子ちゃんは、その塾の2分と離れてないところに住んでいたのだから、本当は招かれないといけなかった。後から参入してきた船長夫人と、戦前からの住民(桜子ちゃんの母)の間に対立でもあるのだろうか?
しかし、これらの謎は、50年後に一気に解ける。
その50年後だが、世間一般の例に漏れず、百合子たちは同窓会を開始した。クラスのうち半数が集まる盛会だった。そして、子供時代に親の力によって先生にもっともかわいがられていた男の子も女の子も、すでに死んでいるのが、不思議なことではあった。
百合子は、桜子ちゃんの変化に半分、満足をして、半分は不満だった。彼女はある有名企業の社長夫人として収まっていて、外見は何不自由が無いように見えた。会話も明るく活発になっていた。が、子供のころの美景振りが、思いがけずも、発達しておらず、平凡な人になっていると見えた。
そのころ、百合子は、修行のために、ひとり暮らしをしていて、それは一応のところ、みんなの興味を引いたが、やがて、当然のことであろうと、誰も話題にしなくなった。小学校のころから突出して大人っぽく、突出して、学業優秀だったのは、誰もが認めてくれており、『普通の奥さんには納まっていられないんだろうね』ぐらいなところで終わりだった。
しかし、百合子の一人暮らしは、電話を活用するという意味では最高の環境だった。実は電話を盗聴している、又、パソコンも常にハッキングをしている闇の大組織があるなどとは、夢にも思っていなかったので、夜や、昼、5日に一度ぐらい、友達に電話をかけては、深い深い心理学的な問題を語り合っていたものである。
が、ある日、桜子ちゃんから、「ねえ、百合子ちゃん、何を着ていったらいいか、相談に乗って」と切迫した電話がかかってきた。それが、地獄の門が開いた瞬間だったのだ。桜子ちゃんは、実は煉獄の業火に焼かれている最中だったのだ。それは、他人にはまったく見えない部分だったのだけれど。
桜の花のつぼみ(小説)ー2
「どこに着ていくの?」と問う百合子に、「クラブなの」と桜子は答える。「う?」と、絶句する。「主人がね、来週の火曜日に同伴をするの。そこに、來いというの。で、何を着て行ったらよいかしら?」と、説明が追いかけてくる。百合子は、昔見たテレビ番組内で、同伴というのを見たことはある。クラブに勤めている女性にとって、お客と一緒に夕方店に登場するのは、プラスアルファの金銭をもらえるのだった。だから、夕方になると、彼女たちは電話を掛け捲る。銀座で、正装のまま道を歩きながら電話を掛け捲っている姿も何度も見かけた。それを思い出しながら、「やはり、奥様らしいスーツがいいでしょう。高島屋で、20万円ぐらいのスーツを買って、ちゃんとしたところの奥様であるという自信と誇りを見せて」と答えた。この時点では、桜子ががんじがらめにはまってしまっている修羅の実装を知らなかったので、こう答えた。
百合子は、大勢の人から、すこぶる頭が良いとは言われている。が、それは熟慮に次ぐ熟慮を重ねるからでって、瞬間的な把握は鈍い方だ。だから、電話が終わっても、15分間ぐらいは、事態が良く飲み込めなかった。が、15分過ぎに、やっと、正しい事情が飲み込めた。彼女の夫は、その愛人とぐるになっていて、彼女をからかい、苦しめようとしているのだ。正札付きの悪だった。夫かそれとも愛人か、どちらがその悪巧みのアイデア元かはわからないものの、桜子は、嵐に揺れる湖上の落ち葉といった風情だった。で、あわてて電話をこちらから、かける。
「あなたね。そんなところへ出かけちゃあダメよ。絶対に出かけちゃあダメ」という。しかし、桜子は、納得をしない。「百合子ちゃん、うちの主人ってね。こういうこといっぱいあるのよ。もてるの。慶応ボーイの典型だし。今までも、あやしいケースはいっぱいあったの。でも、今度だけは、本気みたいなの。で、心配でたまらないの」「わかった。で、その女性はどういう人?」「元OLらしい」 百合子は内心で、お嬢様育ちで、経験が足りない桜子は、太刀打ちできない女性であろうと、感じ、くりかえし「あっちゃあ、ダメよ」と言い聞かせた。
しかし、桜子は、自制が利かなかったらしい。結局は出かけていったみたいだ。しばらくの間、連絡が無かった。百合子は、「結果はどうだった」などというような電話をかけるタイプではない。
で、季節は経巡って、又、同窓会の季節がやってきた。
百合子たちの卒業した小学校は、日吉にあるのだが先生を敬って,先生の地元である町田で、行う。一次会は、先生同席だから、何も崩れない。さて、二次会へ流れる。そこでも、別に崩れるわけではない。ただ、人生のあれこれを、語るだけだ。
だが、その中で、男の子の中で、輝くような出世頭の、昭君が、いる。そのこが、「桜子ちゃん、僕のところへおいでよ」といったのだ。百合子はドキッとして、桜子を見つめた。昭君の方は当時は独身で、結婚の資格がある。親は軍人で、本人は上智出身のクリスチャン。最初の奥様はドイツ人だったが、死亡。そして、現在の、彼は、社長でもある。ぴったりの組み合わせだ。桜子が、苦境を電話で、すでに愚痴っているのだろうか。だから、こういう提案が彼から出た? いや、それは無いであろう。となると、昭君の勘とは鋭すぎる。
でも、彼に桜子の苦行がわかるとすれば、それは、彼がいかほど、桜子を愛しているかの証明でもある。又、愛しているから、桜子の顔に出ている苦境を察せられるのであろう。そうだ。一節前にもいったように、桜子は、もっと美人になっているはずだった。それが平板な顔になっている。それだけでも、勘のいい人間には、何かが変だとわかるのだ。
桜の花のつぼみ(小説)-3
さて、バルザックのような小説を書くと前文で宣言している。どこにその特徴が出て來るかといえば、百合子は主人公、桜子を美化しない。小説としては、わかりにくくなり、感動を生まなくなるが、桜子が犯した過ち、・・・・・頑迷さと、ば・か・さから、脱却をできなかったこと・・・・・についても、触れるつもりだから。それは、新しい窮鳥、A子夫人にも、正しく学んでほしいからだ。自分の苦境を救うのは、自分である。しかし、もっともきつい戦いを、自分に課さないといけない。つまり、自分を変える必要があるのだ。
自分をどう変えるか? に、当たって、他人の忠告を受け入れるのは、必要だ。しかし、受け入れたつもりになって、実際には何も受け入れておらず、そのまま追い詰められきって、自殺をしてしまったのが、桜子だ。そうなったら、子供に大きな傷をのこす。幸いにして御主人の実力のおかげで、腹膜炎をこじらせたという表向きの建前は通り、実際に入院後なくなっている。
ただし、無論のこと、彼女は包丁で、腹掻っ捌いたのだ。
しかし、異常なことであるから、友人には入院も知らされず、葬式も行われず、ただ、ただ、パソコンうちの年賀欠礼として、一行、妻、桜子(享年59歳)がなくなったので、云々、かんぬんとあった。・・・・・・どうも、そのはがきは、百合子一人のために、御主人が作った模様である。
それが、来ただけでも、良かった。出ないと、真相が何もつかめず、結局、助言者としての、自分に自信を失った百合子は、今のように、A子夫人を助けようなどとは、思うことも無かったであろうから。
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さて、こんな理屈ばかり並べていたのでは、小説としては面白みがない。やはり、具体的な事実で、肉付けをしておこう。
最初の「同伴に来い」とだんなから命令されたという驚天動地の話だけれど、もしあれが、それより前の、夫婦喧嘩の挙句の言葉であったらどうだろう。実はだんなを良く知る人が、「そんなに悪い人間じゃあないんですよ。いわゆる、もてるは、もてるタイプだけれどね」と言っていた。そして、桜子が、百合子たちの前に見せる姿とは別に、逆上した姿をだんなに見せていたと仮定する。『あわせてよ。その女に合わせてよ』と怒鳴ったと仮定してみよう。すると、売り言葉に買い言葉となって『じゃあ、火曜日に、同伴するから、お前来いよ。かおり(関内にある古いレストラン)に』となったのかもしれない。
そうなると、だんなと愛人と妻が三人で会食をするというあの驚天動地の申し出でも、桜子には、断れるはずも無く、又、断るつもりもない申し出でとなる。
そして、かわいそうなことには、こういうだんなだから、釣った魚にはえさはやらないの典型で、妻には十分なお金を渡していなかったりしていて、彼女は高島屋で20万円のスーツを買うお金など持っていなかったのかもしれない。
無論、人間には素地の美しさというものがある。が、それを、十分に持っているはずの彼女は、どうしてか、嫉妬の闇に足を取られ、自分の本来の良さを発揮しえていないのだった。社長夫人であるのに、それほど、高価なものを着てはいなかった。同じグループ内に、塾の経営で、大成功をしている女性があって、彼女こそ、大高級ブランド・・・・・それこそ、一着が、すべて、20万円以上のものを・・・・・・着ているのだけれど、桜子はそうではなかった。
衣装に自信が無く、立場の上でも、自信がない彼女が、どんな思いでレストランに出かけたのだろう。
実際には、御主人が、家に午後4時ごろ電話をかけてきて、『今日は止めたよ』とでも、言ったのかもしれない。ともかく、その件は今となっては闇の中である。そして、百合子は、その後、延々と、桜子に付き合うことになっていく。そして、父親が、東大出で、終戦後、不倫をしてしまった話などを聞いていくことにも、なる。そこに、彼女が頭が悪くなってしまった秘密が隠されていた。
ちっとも言うことを聞いてくれない彼女に、内心でいらいらしながらも、忍耐強く、繰り返し、繰り返し、同じ助言をしながら付き合う。
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桜の花のつぼみ(小説)-4
ある日、夜9時過ぎに桜子から電話があった。「ねえ、主人、外泊しているのよ。また、あの女のところだと思うけれど、百合子ちゃん。話さない」と。こういうときに、逗子のアトリエ一人暮らしは便利だった。もし、鎌倉の自宅へいたら、真夜中に電話をかけあう。とくに、長電話など許されるはずがなかった。百合子の夫は、地方のサラリーマン家庭の出で、普通のサラリーの中で、四人の男の子を全部大学へやったので、極端に切り詰める方であり、電話でながはなし等するのは、とんでもないという主義なのだ。
百合子は、「ああ、いいわよ」という。百合子の方も、そろそろ、本腰を入れて、彼女を納得をさせないといけないと考えていた。つまり、すでに、何回か言ってきていたが、「家政婦に徹しなさい」ということだ。『本当の妻の座をうばわれたくないという、その気持ちを捨てなさい』という方向で、芯から彼女に、納得をしてもらう必要があった。
この時点までに、相当な長話は電話で、交換をされており、百合子もほぼ正確に状況がつかめていた。桜子は何の落ち度もない奥さんではあったが、ただ、それだけの人物でもあった。唯一の利点は、子供がいること。それ以外は、特に頭の良さでは、愛人に負けていた。愛人は、男がほしがるもの・・・・・安心感、安らぎ、意欲更新、・・・・・そういうものを与えることのできる女性で、ご主人は彼女と新しいパートナーシップを開始したがっていた。が、親せきづきあいや、社交の場もあること、もろもろを総合して、ご主人は、対面上は、離婚をせず、妻を家政婦の位置に置いておこうとしていた。が、なんともこずるいことに、セックスは、桜子との間にもあるのだそうだ。
そして、桜子が、判断ミスによって、血まよい加減に責め立てるものだから、相当に嫌気もさしてきていて、ノイローゼにして、入院させようと企んでいた。だから、桜子が、方針をここで、変えない限り、まるで、敷かれたレールに乗っているかのごとく、精神病院へまっしぐらとなるであろう。自分を守るためには、早急に方針を変えないといけない。
特に夫婦共有のパソコンの中に、不思議な新しいファイルが浮かんでいて、それは、アルファベット上では、ご主人と、愛人の組み合わせであるそうだ。
この部分は後日、別のタイトルを立てて論じます。というのも、当時の私は彼女の言葉をそのままに受けていて、御主人がやっていると思っていました。が、10年後の今は、違う可能性も感じています。つまり、闇の組織がやっていた可能性です。で、元に戻れば、
『自分が、ここでは、いったん負けなさい』ということを、彼女に、納得をさせないといけないのだけれど、それが、また、大難事であった。というのも、桜子が、自分の言うことを聞いてくれないのは、対等だからだろうと思って、専門家にかかるのを勧めたことがある。で、彼女はテレビに出ている某有名人を頼ってカウンセリングを受けたそうである。一時間、一万円を取られて、言われたことは、たた、「あなたは、今、夜叉になっておられます」だけだったそうだ。彼女はぷんぷんに怒っており、「ねえ、百合子ちゃん、百合子ちゃんの方が絶対に優しい。百合子ちゃんが頼りよ。だから、よろしくね」と言われていた。
が、百合子は内心で、このあたりから、ぞっとし始めてもいたのである。もし、百合子が上のような言葉を、カウンセラーから受けていたとしたら、絶対に、それを他人には言わない。だって、それは大きな恥だから。だが、桜子は、平気でそれを、百合子に告げる。それは、「そんなバカげた嘘を言うのよ。その人」という批判の気持ちしか彼女にはないからだ。相変わらずあるご主人と愛人への他罰的な感情だ。どうして、こういう風になってしまったのかという自己反省的な、気持ちがない。
本当は、この時点で、百合子は大きく興ざめして、気持ちが離れていた。で、賢くふるまうつもりなら、電話が来るたびに、『あ、今てんぷらを揚げているの』とか言
って逃げ出し、自然に縁を切るという手がある。しかし、結局最後まで、相手との会話を切らない百合子だった。とくに、この日の、延々4時間に及ぶ電話は、二人の交流のハイライトだったであろう。
そして、百合子は、その長電話の中で、はじめて、桜子が、東大卒の父と名門出身の母を持っていること。そして、それほどいい遺伝子をもちながら、どうしてか、頭が悪い、その、本当の理由を知ることとなる。そして、そこについては深い同情を禁じ得なくなるのだった。・・・5へ
桜の花のつぼみ(小説)・・・5
百合子は、ご主人は、すでに愛人にマンションを買って与えていると推察していた。それは、今、桜子が住んでいるものより広く、新しいインテリアのもので、ご主人は毎日、そこに寄っているとも、推察していた。つまり、キッチンの流し台が桜子の家では、ステンレスであり、愛人の家では、大理石であるような違いがあるはずだ。しかし、桜子は、そんなことは夢にも想像をしていないみたいだった。それが哀れで仕方がなくて、離婚をした方がいいのにと、思っていた。特に、同窓会の二次会で、昭君が、ぽろっと、「桜子ちゃん、僕のところに来たらいいのに」と発言をしたのを聞いてしまってからは、今がチャンスだと思うようになっていた。
そういえばと、はるか遠くを思い出す。昭君は例のご優秀グループに招かれていなかった。お母さんが、美人すぎる・・・・・また、軍人だった夫の給料が急に無くなった
ために、食堂をやっていたからだろう。それは、昭君にとって、幼い胸を痛める屈辱的な出来事だったはずだ。だけど、そのご両親の遺伝子で、昭君は、子供のころから凄味のある美少年だった。東千代の介に切れ味を加えたような美形。で、お雛様みたいな美形の桜子とは、ちょうど対をなす、クラス一の美形同士だったのだ。現代でいうタレント的な美形ではない。祖先が、高い階級なんでしょうね」ということを示す美形。
で、昭君と結びつくことを想定しないでも、離婚を主張したら、家だけは確実に彼女のものになるだろう。生活費だが、あのご主人は出さない可能性はある。だけど、人間、精神がしっかりしていたらあとは何とかなるものだ。当座はお子さんに帰ってきてもらって、そこから生活費を出してもらう。
あまりにも堂々巡りをして、何の進歩もない、桜子の代わりに、さっさとそこまでシュミレーションを立てた。そのうえで、「ねえ、離婚する気はない?」と聞いてみる。
すると、「百合子ちゃん、私、離婚はしないわ』という。『ああ、やはり、また同じだ』と、思ってがっかりした百合子は、しばらく無言となる。
すると、桜子が、「わたくしの両親、離婚をしているの。だから、私は絶対に離婚はしないわ」という。百合子はびっくりする。なんと、桜子は、そんなに新しい女性の子供だったのか? じゃあ、反面教師として、こんなに古いタイプの女になっちゃったの?
急に疑問がいっぱい湧いてくる。
戦後すぐに、女性の解放が言われ、ロマン・ローランの『魅せられたる魂』や、ボーヴォワールの『第二の性』は、女性たちのバイブルになっていた。
百合子は苦笑しながら、「なんだ。そんなに勇ましいお母さんの子供なのに、どうしてそんなに、ふにゃふにゃ、めそめそしているのよ」と言ってみる。すると、しばらくの間、桜子は無言。そして、そのあとで「百合子ちゃん、何か、誤解をしていない。私の母って、離婚をした後で、セミの抜け殻みたいになっちゃったの。絶対に離婚をしない方がよかったのに、離婚をしますと、自分から、宣言しちゃったので、とても不幸になってしまった人なのよ。自分から、切りだしたから、家も財産も何ももらえなくて、そのあとで、親せきのお世話になるしかなかったの。日吉はね。あれ、私の家ではないのよ。親戚の家なの。私は、あの母を見ているから、絶対に、離婚はしないわ」と、言った。
百合子は、しばらくの間、何も言えなかった。桜子の、単なる聞き分けのないわがままに見えた、夫への執着の影に、だれも知らない、それほどの負の連鎖があったとは。6へ。
桜の花のつぼみ(小説)・・・5
百合子は、ご主人は、すでに愛人にマンションを買って与えていると推察していた。それは、今、桜子が住んでいるものより広く、新しいインテリアのもので、ご主人は毎日、そこに寄っているとも、推察していた。つまり、キッチンの流し台が桜子の家では、ステンレスであり、愛人の家では、大理石であるような違いがあるはずだ。しかし、桜子は、そんなことは夢にも想像をしていないみたいだった。それが哀れで仕方がなくて、離婚をした方がいいのにと、思っていた。特に、同窓会の二次会で、昭君が、ぽろっと、「桜子ちゃん、僕のところに来たらいいのに」と発言をしたのを聞いてしまってからは、今がチャンスだと思うようになっていた。
そういえばと、はるか遠くを思い出す。昭君は例のご優秀グループに招かれていなかった。お母さんが、美人すぎる・・・・・また、軍人だった夫の給料が急に無くなった
ために、食堂をやっていたからだろう。それは、昭君にとって、幼い胸を痛める屈辱的な出来事だったはずだ。だけど、そのご両親の遺伝子で、昭君は、子供のころから凄味のある美少年だった。東千代の介に切れ味を加えたような美形。で、お雛様みたいな美形の桜子とは、ちょうど対をなす、クラス一の美形同士だったのだ。現代でいうタレント的な美形ではない。祖先が、高い階級なんでしょうね」ということを示す美形。
で、昭君と結びつくことを想定しないでも、離婚を主張したら、家だけは確実に彼女のものになるだろう。生活費だが、あのご主人は出さない可能性はある。だけど、人間、精神がしっかりしていたらあとは何とかなるものだ。当座はお子さんに帰ってきてもらって、そこから生活費を出してもらう。
あまりにも堂々巡りをして、何の進歩もない、桜子の代わりに、さっさとそこまでシュミレーションを立てた。そのうえで、「ねえ、離婚する気はない?」と聞いてみる。
すると、「百合子ちゃん、私、離婚はしないわ』という。『ああ、やはり、また同じだ』と、思ってがっかりした百合子は、しばらく無言となる。
すると、桜子が、「わたくしの両親、離婚をしているの。だから、私は絶対に離婚はしないわ」という。百合子はびっくりする。なんと、桜子は、そんなに新しい女性の子供だったのか? じゃあ、反面教師として、こんなに古いタイプの女になっちゃったの?
急に疑問がいっぱい湧いてくる。
戦後すぐに、女性の解放が言われ、ロマン・ローランの『魅せられたる魂』や、ボーヴォワールの『第二の性』は、女性たちのバイブルになっていた。
百合子は苦笑しながら、「なんだ。そんなに勇ましいお母さんの子供なのに、どうしてそんなに、ふにゃふにゃ、めそめそしているのよ」と言ってみる。すると、しばらくの間、桜子は無言。そして、そのあとで「百合子ちゃん、何か、誤解をしていない。私の母って、離婚をした後で、セミの抜け殻みたいになっちゃったの。絶対に離婚をしない方がよかったのに、離婚をしますと、自分から、宣言しちゃったので、とても不幸になってしまった人なのよ。自分から、切りだしたから、家も財産も何ももらえなくて、そのあとで、親せきのお世話になるしかなかったの。日吉はね。あれ、私の家ではないのよ。親戚の家なの。私は、あの母を見ているから、絶対に、離婚はしないわ」と、言った。
百合子は、しばらくの間、何も言えなかった。桜子の、単なる聞き分けのないわがままに見えた、夫への執着の影に、だれも知らない、それほどの負の連鎖があったとは。6へ。
桜の花のつぼみ(小説)-6
百合子が、じっと黙っていると、桜子が、「あのね。親戚にお世話になっていたころがあるの。大きな家で、大勢が一緒に暮らしていました。で、親せきの中の一人が、父を好きになってしまったの」という。百合子はかろうじて、「東京のおうちは焼けてしまったの?」と聞く。すると、「違うの。父は、〇〇省に勤めていたのだけれど、戦後パージに出会ってしまったの」と答える。
ここで、百合子は、初めて、桜子の父親が東大の出身であることを知るのだった。というのも、本省勤めで、パージに合うと言えば、それは、課長以上、局長以上をさすからで、それは当然のごとく東大卒であろう。となると、昭君と、桜子ちゃんは、双璧をなす、名家の子供となる。
それで、百合子はある一つの納得に達する。桜子の頭の固さというか、悪さの中に、どうしても、腑に落ちないアンバランスを感じてきたが、東大出の父の子供であることを、自分が何を聞かなくても、いままで直感的に感じるからこそ、抱いた怪訝さだったと。この人って、もっと頭がよくて、物分かりがいいはずよという思いがある。だからこそ、頭が悪い、頭が悪いと、今まで、平気で書いてきた。根っこのところで、愛し、尊敬しているからこそ、抱くイライラ感だった。
東京の戦後には食べるものがなかった。配給は少量で、大勢の人が飢えていた。まともな給料をもらっている人も闇物資を手に入れないと生きていかれなかった。どんな人も、価値のありそうなものをもって田舎をおとずれた。卵を分けてください。ほうれん草を分けてくださいといいに。
しかし、もし、基幹となる、お給料がなかったら、それも、成り立たない。一家が、長野県の旧家に保護を求めて、帰郷をしたのは当然だった。満州から引き揚げた、百合子一家が、父の兄の家に寄寓をしたのと同じだった。しかし、どうも、そちらの家族構成は、百合子の親戚より、人数が多くかつ、複雑だったらしい。
中に、ちょうど、『初恋の来た道』に主演したころの、チャン・ツィイーを思わせる少女がいた。その人との間に、ことは起きたらしいのだ。東大出身の眉目秀麗な紳士が、何もすることがなくて鬱屈している。それを見かねた少女は、「オジサマ、セリでも、摘みに行きませんか?」と誘ってあげたと仮定しよう。単に、善意からだ。二人は、田んぼのヘリで、せっせ、せっせと、セリを摘み、バケツの中に保存をしていく。
ふと、「ちょっと休もうか」となって、あぜ道へ並んで腰を下ろす。
「オジサマ、東京のことを教えてくださいな」と少女は頼む。男にとって、ただひたすら、自分を見つめるまっすぐな瞳はまぶしい。
そんなところまで達して、百合子は、疑問を挟む。
「ねえ、どうして、お母様の方が、身を引かなくちゃあいけないの。お母様には、3人のお子様さえあるのに」と。すると、桜子が言う。「母はプライドが高かったの。で、許せなかったと思うわ」・・・・・それを聞いて、「でも、それなら、お父さんは、お金を出してもよかったのに」と聞くと、
「母は、私だけを連れて家を出たの。男の子は、父に預けたの。やがて、パージが解けたら、父は復活すると信じていたのね。そうなると、女の自分には、育てられない。大学へ、進学させる学費が出せないとなってね。兄と弟は、父のもとに残したの」
百合子は、一人推察を重ねる。何親等の差なのだろう。姪か。従妹か、それとも、妻側の親戚だから、結婚に無理はないのだろうか? それにしても、無残な話だ。出産は、死ぬ覚悟さえ必要な危険で、痛い仕組みである。それを、三回も、やってあげた大切な男を、自分の姪か、いとこかに、譲って、自分が身を引かなければならないなんて。
「だいぶわかったわ。だけど、お兄様たち。よく反抗をしなくて、立派にお育ち上がりなさったわね」というと、「そうね。彼女はできた女性なの。父と結婚後、医学部へ進学をしたのよ。そして、実際に医者になって診療も、続けているの」
「本当。それは参ったわね」と、言うしかない百合子だった。・・・・・7へ
桜の花のつぼみ(小説)-7
「そう。じゃあ、あなただけ、ひとりお母様と暮らしたのね」という。いいながら、初めて謎がとけた気がした。母と娘は愛情の交流が実はないのだ。むしろ、ライバル心をもつと、フロイトは言っている。普通の家庭で、家族が安心しきって本音を交わすときに、それが見事に表れる。桜子はその母親と二人きりで、しかも経済的な庇護を受けている親戚の中で、息をひそめて暮らしてきたのだ。なんとかわいそうなことだろう。だから、桜子には、未発達なところがある。会話をするときに、は、彼女はとてもバカとは思えない。しかし、大切な判断をするときに、他人では、信じがたいほどの馬鹿な判断をする。
ただ、百合子は、自分の姿勢が、ずっと穏和になっているのを感じた。で、とても、優しい聞き方で、「お母さま、あなたと、どんな遊びをしてくださったの?」と聞いた。フロイトによれば、反発しあう母娘でも、お互いに、その二人しかいないのなら、愛し合うはずだ。夜は絵本でも読んでくれたのだろうか? すると、これまた、思いがけない返事が来た。「ううん、母ってね。まるで生きた骸だったの。話しかけても答えてくれない感じ。離婚のことを、とても後悔していたのだと思うわ。そして、とても早く死んだの。私が短大を卒業する前に、ろうそくが消え入るように、死んだの」という。
百合子は、ほとんどすべてを納得できた。なんとかわいそうな少女期を送っているのだろう。そして、そういうかまってもらっていない人生だからこそ、彼女は頭が悪いのだ。よいご親戚に囲まれて生きてきた。だから、不良だったり、曲がったりは、していない。でも、ほかの人間だったら、「こういうことなのよ」と説明すれば納得するところを、彼女はどうしても納得しない。
しかし、その原因はなんと外部にあったのだ。つまり、大切な父親にあったのである。父親が自制心を働かせて、新しい妻との関係を深入りさせなければ、桜子は、こうはならなかった。彼女は、さびしい人生を送っている元の妻へ、与えられた一種のペットというか、おもちゃだったのだ。
百合子は、ふと、聞いてみた。「お父様との関係は、どうなっているの?」と。すると「母が死んだあとで、父が引き取ってくれたの。私、その時に初めて、人に愛されるということを知ったの。すごくうれしかった。あれがあるから、人間として、自信が付いたような気がするわ。そして、父が嫁入り支度をしてくれて、父の家から結婚式へ向かったの」と、彼女は答えた。
それを聞きながら、『よかったわね』と祝福をした。しかし、それは、80%程度のこころで。後の20%で、『お父様、ずるいわ。あなたって、桜子から、最後の最後のチャンスを奪ったわ。人間として成長できる最後のチャンスよ。つまり、あなたを批判することが必要だったのです。・・・・・つまり、彼女は『お父様、どうして、お母様を捨てたの。私ね、今のお母様と、お父様が組んで参列してくださるより、もちろん、本当のお母様と、お父様が、手を組んで、参列してくださる方がずっとうれしかったの』と、言うべきだったのだ。が、初めて接した、あふれるような愛と親切さの洪水の中で、その本質が鈍らされてしまった。その後、35年たっている。桜子は、まるで駄々っ子のように、夫と愛人の手を切らせようと必死である。
その姿勢は、とても、大人のそれとは思えなかった。
前半部分、完
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エピローグ。
この小説には、後半部分があります。そちらの方が、動きがダイナミックで、いわゆる本当の小説となっていくでしょう。しかし、本日は書きません。疲れています。体力の残りがありません。しかし、その続きを明日書くか、あさって書くかと問われれば、まるでお約束できないとなります。頭の中に、今はその詳細が降りておりますが、いったん寝た後で、そのディテールが復活するかどうかは、保証の限りではないのです。
で、筋が完結していない段階で、どうしてこの小説をさらしたかですが、ここまでの部分でも、評論としては成立していると自負するからです。
何を評論をしているかというと、一人の人間を成長させるために、必要なものは何かということです。普通の家庭、そして、普通の喧嘩、普通の意地の張り合い。そして、普通の思いやりの交換、そういうものがすべて必要なのです。
その普通の家庭を保持するためには、まず、両親が、恋に落ちたり、ましてや新しい縁組を組みなおしたりしてはだめなのです。それは、子供が二十歳を過ぎるまでは、絶対にやってはいけないことなのです。
人間の脳を鍛え伸ばすのは、拙速主義のドリル学習ではありません。2歳ごろから、お受験に取り組むなど、徹底的に間違っていると思います。
美しい人、だけど、心が未発達だった人、桜子さんに、仮に主人公になっていただいて、今日の私はそれを語らせていただきました。では、本日は、これで、さようなら。