新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

がん検診は必要か?

2013-04-06 12:37:59 | 医学系

さて、続けます。

 

実はこの検診の記事を書いてみようと思ったのには理由があります。

先程、少しインターネットで近藤誠医師の発言内容を確認しておりました。なんといっても僕は2冊程度立ち読みしただけですので。

 

その時にこんな記載を見つけました。

http://www5.ocn.ne.jp/~kmatsu/gan046.htm

引用

有効性は世界中で概ね否定されています
それが証拠に富裕で健康に関心が深いアメリカですら肺ガン検診、胃ガン検診など殆どのガン検診の制度がありません

肺ガン検診は結核が過去の病気となりつつあったので、検診従事者の失業対策として、肺ガン検診の有効性を否定した大規模試験の結果が出てから始められたものです。

企業や健保がガン検診に消極的なのは、肺ガン検診等への補助がうち切られたなど、ガン検診の無効性が認められつつあるからであり、企業や健保の意志に依るものではありません。

がんもどき理論の検証をする前に、検診をしたらどう良い事があるのかを検証する必要があります。世界中で効果がないと完全に証明されている肺ガン検診についてはこの作業は必須でしょう。

今日まで築き上げられてきた膨大な癌研究の知見とは何のことでしょうか?日本での数十人規模のデータのことでしょうか?海外からまともなデータと評価されていないことにはどう考えるのでしょうか?海外での数万人規模の複数の試験結果を無視しているのは暴論ではないのでしょうか?

検診推進の裏付けとなる理論は早期発見・早期治療と云うものですが、上に書いたように、この論理を裏付ける統計学的数字、ないしは数式もなければ、厳密な論理展開もありません。逆にそれを否定する統計学的数字はあるのです。

悪性度はさまざまであるといいながら、ほとんどのガンが大きくなるほど転移する・・・と一括りに云っている。近藤氏が2種類に分けているのに対し、推進派は全てはガンだ(ガンは一種)と云っているかのような理屈だ。
手術は無効、早期発見により命を救えないというのが海外での結果の現実です。癌検診の有効性を検証することは、その意味で不可能ですし不要です。観察的方法では有効性は評価出来ないと云うのが医学の常識の筈です。」

引用終わり。

 

これに関してきちんとした情報をもとに提供するためにどうすればよいかを考えてみました。

 

以前も紹介したと思いますが、検診だけでなくすべての検査を行うかどうかは、いろいろ考えなくてはなりません

例えばHIVのスクリーニング検査があります。これの感度はも99%以上です。加えて特異度も99%以上です。こんな検査はほとんどありません。ちなみに感度というのは「陽性のものを陽性と診断できる力」であり、特異度は「陰性のものを陰性と判断できる力」です

ちなみに肺がん検診で胸部単純写真の感度は36~80%と幅があり、特異度は90%。胸部CTでは感度が90%で特異度が49~89%と報告されています。

胸部単純写真は見落としが多くて(大きくなるまでわからない)、胸部CTは癌じゃないのもひっかけるので偽陽性が多いということです。

それを考えるととんでもない検査です。そういうことで肺がん検診は打ち切りになりました(アメリカで)

 

それはさておき・・・有名な話ですが検査にはすべて検査前確率というものがあり、これが検査後の確立に大きく影響します。一般診療では検査前確率は僕たち医師が患者さんから情報を聞き出し、その結果としてそれぞれの病気がどの程度の可能性があるかと判断してきます。

ここでは検診、スクリーニングですので検査前確率は「有病率(病気の人の割合:日本でも10万人当たり○○人と出されています)」となります。ではもう一度HIV検査に戻ります。感度・特異度が極限までよい検査ですが、有病率によってこれだけ検査の意味に影響します。

 

有病率が1%程度でもあればよいのですが、有病率は0.01%と低いです(学生の皆さんに計算させているのは、有病率0.01%ですのでHIVを想定して出しております)

http://georgebest1969.cocolog-nifty.com/blog/files/hivtest.pdf

この記事では統計学的な有病率よりも高いことを想定していますが、仮に10倍あったら偽陽性率67%、陽性率33%になります。統計学通りだと下のようになります(これは特異度を99.9%に上げて計算しているので0.1%の時の陽性的中率が50%になっていますが、要するにこれより低くなります

これが医療世界の常識であり、すべての医師は検査の意味を考えながら「検査前確率はどの程度と踏んで、この検査の結果でどう変わるのか」ということを考えるわけです。

 

すなわち検査前確率という意味での有病率が重要ということになります。

 

アメリカの話が出ていますので少し書きますが、アメリカは予防医療に力を注いでいる国ですが無駄もできるだけ省こうとしています

アメリカの側が出している検診やスクリーニング検査の意味に関して統括しているのは「米国医療研究・品質調査局」のしたにある米国予防医療専門委員会(http://www.ahrq.gov/professionals/clinicians-providers/guidelines-recommendations/uspstfix.html)や米国指針情報センター(http://guideline.gov/)になります。

いつ、どのようにスクリーニングを、どのような人間が受けるかを示しています。

アメリカではすべての人が同じように検診を受けることは有病率の上で無駄であるという考えから、すべての人のルーチンの検診を推奨していないのは事実です。しかし、がんのリスクがある人を対象にスクリーニングをするのは重要だといっています。

そこのデータを示しているのがアメリカのすごいところで、日本はルーチンにやっている。それだけです。要は無駄が多いという話ですね。

 

ちょっとわかりやすいように例を挙げますと、前立腺がんにはPSAという簡便で感度・特異度もそこそこ良い(70%前後)検査があります

さて、PSAという検査を何歳から行うか・・・。30歳の男性に行う人は医師じゃなくても考えないのではないかと思います。仮に30歳くらいの男性が「祖父が前立腺がんで亡くなってしまい、心配なので検査をしてほしい」といったとします。だとしても有病率が0に近い。

じゃぁ、何歳からやるかというと米国では75歳未満には推奨しないというのがでています。これはアメリカで55歳から74歳の男性を対象に検診の意義を調べ、早期診断はできたが、死亡率に有意差が出なかったというものが理由です。ヨーロッパでは50~74歳で、死亡率は若干低下したが1400人が検診を受けると1人前立腺がんの死亡が防げるという結果です(ヨーロッパの研究はNew England Journal of Medicine 2009で発表されています)

まぁ、75歳以上では有意義かもしれませんが…・まだそこら辺も不明というところですね。75歳以上になると寿命が近づいてくるので,全生存率の向上に寄与しなくなってきます

 

それを意味するのは大腸がんの話です。大腸がんはどうですかと言えば平均的なリスクの人に関しては50歳から開始して75歳までと書かれています。76~85歳はルーチンに行わないように推奨され、86歳以上はスクリーニングを行わないように推奨する…と書かれています。ちなみにリスクを持たない患者は便潜血で、リスクのある人(1親等以内に大腸がんの患者がいるなど)は内視鏡検査を併用する・・・など検査まで書かれています。

他にもいろいろなことでいろいろながんのリスクなどを評価し、「この患者は検診を受けるメリットがあるが、患者は検診を受けるメリットがない」という評価をして、無駄なくやっているだけです。

 

決してアメリカはがん検診をおろそかにはしていません。

ちなみに肺がんに関しては無症状の患者に対して行うには根拠が少なすぎるとかかれており、推奨されていないのは事実ですが偽陽性率が多く…という記載もあり、検査の向上によっては検診も出てくるかもしれません。

なんといってもアメリカの死亡率1位の癌ですから。

 

胃がんに関してはアメリカの話を日本に持ってくること自体が間違いで、食塩摂取の多い日本。ピロリ菌も住み着いている人が多い日本。胃癌の発症率も高いですので、アメリカのように胃がんの少ない国(日本より有病率が低い。上を見たらわかりますが有病率の変化は検査結果に大きく影響します)の話を取り込むと失敗するかもしれません。

 

本当はルーチンに検査をするには「それだけの有病率がある」ことに加えて、検査の感度・特異度がよい(肺癌はどちらの検査でも感度 or 特異度が低いわけです)ことが条件です。

そして有病率は患者さんの年齢だけでなく、喫煙するかしないか、飲酒、職業・・・など様々な因子で決まってくるので、そこを踏まえた検診計画を作成するのは意味があるかもしれません。

 

そういうことで「患者の選択性」や「検査法の改善」で変わるかもしれません。もっというと治療技術の発展で、早期診断の意義が乏しくなれば検診の意義も薄れます

 

まぁ、その辺をしっかり考える必要性はあると思います

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

腫瘍の多様性に関して(近藤医師の話の続き)

2013-04-06 11:00:55 | 医療

こんにちは

 

当直明けで先ほど帰ってきました。単科当直(まぁ、総合内科として複数診療科ですけど)のわりにいつも患者が来るので「何か持っているでしょう」と言われております。

まぁ、断らないというのも患者が増える要因ですが今回は1人救急部に振りました(というか、3次救急に…と言ったら、当然うちの救急部に話が来たみたいです)。流石に1人でやると患者さんの予後に影響しそうだったのと、同時にもう一つ救急車受けていたので対応不能だったというのがあります。

研修医もいない、看護師さんと2人で対応するには厳しい。まぁ、2人くらい研修医が来ていれば別ですが・・・。

 

さて、本日は先日書いた「近藤誠医師」の話の続きみたいなものです。

「がん」と「がんもどき」を分けるデータがないことが根拠かな?

「がん」と「がんもどき」を区別する方法がなく、抗癌剤が効きにくい腫瘍がある。しかし、がんもどきは大きくなるにつれて悪性度を増さないのか…ということです。

最新の知見というほど最新でもなくて…かなり前な気がしますが、がん幹細胞というものがあって、それらは増えていくに従い新しい遺伝子の異常を積みかさねて多様性を持つといいます。

○はがん幹細胞でゆっくり増えます。基本的にがん幹細胞はゆっくり増えるものです。例え白血病幹細胞であっても

① ○→

② ○○○◎→

③ ○○○○○○◎◎▽→

④ ○○○○○○○○○◎◎◎◎▽▽×→

⑤ ○○○○○○○○○◎◎◎◎▽▽×××××××××

とかですね。×という状態の遺伝子異常が加わった場合(想定はがん遺伝子といわれる増殖促進させるもの)は一気に加速します

 

まず、がんが発生するというのは「がん抑制遺伝子」など「増殖を制御する」「遺伝子に異常が発生したら自殺する」などの機能に障害が生じ、さらに免疫から逃れる性質まで持ったということになります。

がんは毎日発生していますが、通常免疫なりなんなりでつぶされていて認識されていないだけです。

 

これだけであれば、近藤医師が言うようにゆっくりしか増えません。ここでゆっくりですが増えている間に次の異常が入ります。だって、異常を改善する機能を失った細胞が増え続けているんですから、そこからよくなるなんてことはありません。昨日かいた「免疫抑制剤などで一時的に腫瘍をつぶす能力が低下した」ためにおこるタイプは別ですが。

 

これを繰り返していくうちに「増殖スイッチ」の異常をきたしたりします。そこで性質が変わり増殖速度が上がります。

 

さらに増える速度が速まると異常が急速に蓄積し、さらに多様性が増していきます。そうこうしているうちに癌が転移能をを持って転移するということになります。

 

ちなみに有名な話ですが「メラノーマ(悪性黒色腫)」は転移しやすい癌の一つですし、基底細胞癌は基本的に転移しないがんと言われています。元の細胞でそういう性質はある程度推測できるのです(ちなみに乳癌なども高率に転移します。あとは早期発見しにくい癌は気が付いたら転移していた…というタイプですね)。

しかし、何事も100%はない話です。一般的に絶対ないと言われている状況下で骨髄にがんが転移している人も経験しました。

 

そのため、「がんもどき」・・・が「がんもどき」であり続ける根拠というのが乏しいというのが実感です。

 

まぁ、ただの参考意見です。ただ、たぶん一般の腫瘍を対象にしている医師(外国含む)はこのような考え方で動いているはずです。NatureやScienceなどでも調べたらこの辺の話は山のように出てきます。

 

僕は唯一の真理を言えるほど自信家ではありませんので、近藤先生の理論が間違っていると言い切るつもりはないです。「がん」と「がんもどき」があるのかもしれません。しかし、現在生じている「がん」は遺伝子の異常が蓄積されていっていることもわかっていますし、それが「がんもどき」と言っている状況から進行しているともいえないです。

そのうえで自分で選択するというのが大事だと思います。

 

ただ、治療をしないで待つというのは結構勇気がいります。患者さんもですが、医師も勇気がいります。

 

今では治療介入することも多くなった「濾胞性リンパ腫」という「低悪性度」のがんがあります。これの基本スタンスは昔は「様子を見ながら進行してくるのを待ち、リンパ腫のために症状が出てきたら治療をする」というものです。今でも一部の患者さんではそういう選択をします。

待っているわけですが、急速に大きくなって来たり、中等度悪性度のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の形質に変化していたりします。

ちなみにこの濾胞性リンパ腫は「自殺させないよ」という遺伝子だけがおかしくなっているので、増殖速度は変わらずにゆっくり増えてくるのですが、そこに増殖促進の遺伝子異常が入ったら一気に増えてくるという感じです。

 

リンパ腫はまだ抗癌剤による治療効果が期待でき、あとからでも取り返しが効くのがわかっているのでこういう選択もできますが、一般的な抗癌剤が効かない腫瘍の場合、僕は自分自身「待つ」という選択肢はできません

家族でも同じですね。

 

参考意見として書きましたが、そんなところです。

後で検診に関しても書いてみようと思います

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする