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血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

僕の再生不良性貧血の説明(患者さん向け)

2013-04-10 22:40:37 | 医学系

こんばんは

 

先程コメントに再生不良性貧血に関することをいただきましたので、少し僕なりの患者さんに対する説明の仕方を書いてみようと思います。

骨髄異形成症候群(MDS)とは異なる疾患ですが、低形成(細胞数が少ない)MDSでは診断がはっきりしないこともあります

(MDS関連記事)

アザシチジン(ビダーザ)の話

骨髄異形成症候群の説明(患者さん向き)

 

あとは僕も再生不良性貧血のような見えたCD55かCD59かのどちらかが欠損していたタイプのPNHもどきのような(PNHとは発作性夜間血色素尿症という骨髄不全や溶血発作などを起こす病気です)患者さんもいますので、実際に患者さんを診ていたらそういうのを全データをみて否定しながら、話をしていきますが・・・。

ということで、少し書いていきます。40歳以上の設定です

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○○さんはこのたび息切れや出血しやすいということで近くの病院を受診されて、当院に紹介という形になりました。

 

血液検査では白血球という体を守る抵抗力、兵隊のような存在ですが、これが500/μlと少なく、そのうちの菌と闘う成分(好中球など)が20%程度と減少しています。また、ヘモグロビンという貧血に関する値が7g/dlと普通の人の半分ほどで、血小板という止血のための成分も1万/μlと減っています。

そして赤血球の若い方の細胞「網状赤血球」というものも普通は数万/μl単位であるはずが、2000/μlと減少しています。

 

この血が作れていない原因を調べるために、骨髄という血液を作るところを調べました。骨髄の中は細胞の数が少なく、好中球や赤血球の若い成分、血小板というものをつくる巨核球という成分が減っており、リンパ球という成分がhっ血球の中では多くしめておりました。

 

検査結果を聞いても難しいと思いますが、○○さんの病気は再生不良性貧血という病気です。

○○さんのように血液がうまく作れないものを総称して「骨髄不全」というような呼び方をしますが、その中に大きく分けると2つのグループに分かれます。

一つは血液の質が悪くなって、作っても作っても不良品ばかりで出荷できないから血液の量が減ってしまう病気で、骨髄異形成症候群というものです。

もう一つが今回最も疑わしいのですが、造血幹細胞と言われる血液のもとになる細胞が自分の免疫で攻撃されてしまい、数が減ってしまう病気です。こちらは作りたくても創れない病気です(量の病気)。

 

先程申し上げましたが、骨髄の検査をした時に細胞の数が著しく減っていました。しかし、全くないわけではありませんでしたので、それらをよく観察しましたが「不良品」のようなおかしなものは見られませんでした

骨髄異形成症候群というのは血液の質が悪くて出荷できない病気ですので、普通の血液中に不良品がでていることもあれば、出ていなくても骨髄の中では壊される前の不良品を認めることがよくあります(通常、低形成MDSでなければ血液の数値が減っていても、骨髄中にはそれなりに細胞はいます)。

 

今回○○さんの骨髄には明らかな不良品は認めませんでした。そして全体の数が少ないだけではなく、リンパ球というものを多く認めました。これは攻撃する側の細胞が多く存在すると言うことです(実際は形質細胞や肥満細胞なども目立ちますし、寿命が長かったり、主に攻撃受ける側ではないからリンパ球が多いというのもあると思いますが)

 

実際には、まだSLEなどの自己免疫疾患を否定したり、染色体検査(染色体異常がある場合は低形成MDSの可能性があります)の結果を待つ必要がありますが、これほどの骨髄の様相を自己免疫疾患で起こす可能性は低いですし、低形成MDSであれば国際的には免疫抑制療法はきちんとした根拠がある治療ですので、同じ治療であれば行うのに確定診断を待つ必要はないと思います。

 

さて、再生不良性貧血の病状に関してStage1(軽症)からStage5(最重症)の5段階に分かれますが、○○さんは最重症に区分されます(分類はネットなどで見てください)。好中球という先ほど申し上げた「菌」と闘う成分が100/μlていどで、網状赤血球が2000/μlと減少し、血小板も2万以下です。

 

治療の基本的な考え方ですが、大きくは免疫抑制療法と骨髄移植に分けます。軽症の患者や免疫抑制療法に加える形でタンパク同化ステロイドと言われる造血作用を持つ薬を使うこともあります。

 

免疫抑制療法というのは先ほども申し上げましたが、自分の免疫が自分の血液の大本を攻撃することでこの病気は発生していると考えられています。であれば、この攻撃を止めてあげれば自分の血液は作れるようになってくるはずです。

中等症の患者さんや高齢の患者さん(患者さんの状況によりますが、個人的には80歳代にATGはやりにくいです)ではシクロスポリン(CyA)という薬剤を使用します。

やや重症(Stage3)~最重症(Stage5)の患者さんではATG(抗胸腺細胞グロブリン)+CyAで治療を行うか、若い患者さんで兄弟間でドナーがいる場合は同種骨髄移植を行ったりします

40歳未満で兄弟間のドナーが得られる場合は積極的に同種移植を行います。同種移植はリスクが高い治療(造血幹細胞移植のイメージは?:同種骨髄移植に関する説明)のため、若い患者さんのほうが耐えられる。また、兄弟間のほうがよい理由は1つ目に「バンクドナー」では調整に時間が必要であること、2点目に抗腫瘍効果などは不要なため、できるだけ変な免疫反応が起きにくいほうがよい(GVHDのことです)からです。

 

実際にこのATG+CyAという治療法での奏効率は70~80%程度あり(最近ウサギのATGになって半分程度になったようなイメージも・・・)、40歳以上の患者さんではまず行う治療法です。

 

ATGという薬は点滴で入れるのですが、ウサギの抗体(異種タンパク)なので免疫反応が起きやすいです(血清病といいます)。そのため、同時にステロイド剤も投与します。さらにシクロスポリンも内服します。

 

この3つはかなり強力な免疫抑制剤です。現時点で菌と闘う兵隊がいないところに、さらに免疫力を落とすな治療を行います。そのため、細菌や真菌(カビ)などの感染を予防する薬を内服していただきます。また、当院ではG-CSFという好中球を増やす薬を使います。

 

このような治療を行い、約3か月で治療効果を判定します。

この間、出血しないように血小板の輸血を、貧血に対しては赤血球の輸血を、感染症のリスクが高いために予防していても感染した場合はさらに強い抗菌薬で治療を行っていきます。

 

治療効果が十分出た場合は少しずつシクロスポリンを減量していきます(やめることができる人も出てきます)。

 

あと、この病気は難病指定を受けていて、公費で治療費を賄ってくれます。これについては保健所(もしくは市役所・インターネットなど)で申請用紙をもらってきてください。必要なものを入力します。

リスクの高い治療ですが頑張って治療していきましょう

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こんな感じでしょうか。

40歳以上で免疫抑制療法と骨髄移植の奏効率は同等、非血縁ドナーの場合は免疫抑制療法のほうが高くなります。移植での死亡率が上昇するからですが・・・。

そのため一回目は通常免疫抑制療法です。

しかし、1回目の治療不応の患者さんでは2回目の奏効率は30%程度(Blood 2006)と低いので、通常は移植の準備をしながら(兄弟間であればともかく、バンクドナーであれば迅速コースで申し込んでも80日くらいですので)もう一回治療ですね。

 

20歳未満とかであれば通常は移植

40歳未満までなら兄弟でドナーが得られれば移植(最近はバンクドナーのの成績もよいです)

 

あと、免疫抑制療法が奏功した後、他の病気がわかってくることもあります。骨髄異形成症候群とかさっき書いたPNHとか。骨髄異形成症候群はきっと壊されなくなってくるからなのだろうなぁ・・となんとなく思っています。

 

そんな感じでしょうか。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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それでは、また

P.S 2017年にアップデートしました

僕の再生不良性貧血の説明(患者さん向け)2017年版

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