新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

エクリズマブによる髄膜炎菌感染の話

2017-07-12 23:02:23 | 医療

こんばんは

 

出張先から帰ってきました。暑い帯広から脱出・・・と思っていましたが、いつも気温低めのところなのに30度を超え・・・。

 

熱中症も大勢出ましたが、命に関わるようなものがなくてよかったです。

 

インターネットに「エクリズマブ」関連の記事があったので紹介します。エクリズマブによる髄膜炎菌感染症の話です。

 

薬の副作用で女性死亡 「情報共有なかった」と夫が提訴

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170712-00000007-asahi-soci&pos=4

7/12(水) 1:13配信

 

 京都大医学部付属病院(京都市左京区)で重い副作用のある薬の情報が共有されなかったために妻(当時29)が死亡したとして、京都市の会社員男性(36)が11日、病院長や主治医を相手取り、1億8750万円の損害賠償を求めて京都地裁に提訴した。

 訴状によると、女性は血液の難病で2011年から同病院の血液・腫瘍(しゅよう)内科で治療を受けていた。妊娠し病気で血栓ができるリスクが高いため、予防目的で16年4月から治療薬「ソリリス」の投与を受け、同病院産科婦人科で8月1日に長男を出産。しかし同22日にソリリスを投与後、高熱が出て体調が急変した

 女性は産科婦人科に電話し、医師の診療を求めたが、助産師が「乳腺炎と考えられるので様子を見て」と指示。女性は翌日、髄膜炎菌感染症で死亡した。ソリリスには「非常に早く進行する髄膜炎菌感染症」の副作用があり、添付文書にも使用上の注意として記載されている。

 11日に会見した男性は「病院側が副作用の情報を共有していれば適切な治療が受けられ、死亡は避けられた」と訴えた。病院側と京都簡裁で調停を進めたが病院側は「患者側が産科婦人科に副作用情報を知らせるべきだった」と主張し、不調に終わったという。

(以下略)

(安倍龍太郎)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

まず、亡くなられた患者さんのご冥福をお祈り申し上げます。

 

ソリリス「エクリズマブ」は補体と呼ばれる「生体防御因子」を抑える薬です。抑えるのはKeyになる補体のC5という成分になります。

添付文書(http://www.soliris.jp/common/pdf/Soliris_Tempu_Bunsho_07.pdf)

 

補体は何をやっているかというと細菌などにひっついて、好中球や単球などの食細胞に食べられやすくする働きがあります。また、補体系が活性化されると「膜侵襲複合体」というものを作り、細胞に穴を開けます。こういう作用で細菌を排除します。

エクリズマブは発作性夜間血色素尿症(PNH)の薬剤です。PNHは本来「赤血球」が持っている「補体から身を守る因子」がなくなってしまう病気です。そのため、この補体の活性化により「溶血(赤血球が壊れる)」などが生じます。PNHは血栓症も引き起こすため、妊婦さんなどでは非常に大きな問題になります。

 

補体は莢膜を持つ菌が主なターゲットのため、髄膜炎菌だけでなく理論上は肺炎球菌も増えるはずですが、実際は髄膜炎菌が主体です。「補体欠損症」という先天性疾患でC5からC9までのどの成分が欠損しても髄膜炎菌が増えることがわかっていますので・・・。

 

ですので、エクリズマブを使用すれば髄膜炎菌感染が増える可能性があることは予測できます。実際、添付文書にも大きく書かれています。

 

エクリズマブの情報共有がなかったというのは難しいところですが、「助産師さん」までその情報がなかったということなのでしょう。多分、医師は知っていますよ。産婦人科医。。。多分

 

ただ、「高熱があり、状況が悪そう」という患者さんを診察しないで様子を見るように指示したのはまずかったかもしれません。結果論ですので、電話がかかってきたときはそれほど重篤な印象を受けなかったが、補体が機能しなかったため髄膜炎菌が一気に悪くなったという可能性はあるかもしれません。その場合は適切に対応しなければ当然命に関わりますが、適切に対応したから絶対に助かるかと言われたらわからないです。

 

それでも・・・血液疾患のある妊婦さんだから気をつけるように・・・という話だけでもしていたらよかったのかもしれません・・・・。患者さんのご主人の気持ちが理解できるので(少なくとも適切に対応してダメだったら、納得できるかもしれないですが・・・)。

 

助産師さんなど「医師以外」の医療従事者との情報共有。重要ですよね。

 

最後に・・・患者さんが産婦人科に副作用情報を伝えるべきだった・・・というのはおかしな話で、情報共有すべきところだったとは思いますが、それについては医療従事者同士の話です。

患者さんから同じ病院の医療従事者に情報がいくのを期待するようなアホな話は聞いたことがありません。他の病院に緊急で受診した際には「エクリズマブ(ソリリス)を使って治療している」とは伝えるべきですが、今回はそうではないので。

運悪く情報共有できていなかった患者さんで致死的な合併症が起きてしまったことは悲しいことですが、患者さん(しかも亡くなった)に原因を求めるなどあり得ない話です。それゆえ、おそらく病院側が言ったというのは誤報だと思いますが・・・誤報であってほしいなぁ・・・

 

せっかくADRでまとめようとしたはずなのに・・・何をしているのかなぁ・・・

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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4 コメント

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責任と誠意 (女王様)
2017-07-14 05:52:49
なんだか 北海道が無茶苦茶暑いですよねえ。
沖縄より気温が高いとは。
ちょうどニュース番組で 「帯広駅前の温度計がメーター振り切ってます!」とかなんとか。
北海道の住宅は 寒さ対策で保温性が高いそうです。

私も軽い熱中症やってしまいました。
足がつるのはよくあるし 頭痛持ちだし‥ と深く考えなかったんですが、力が入らなくて立ち上がれない。
これもまあ坐骨神経痛で時折あることだし‥ と 冷凍庫までフラフラとたどり着き、とりあえず水を飲もうとしたがペットボトルの蓋を開ける力が出なくてパニクりました。
まさか、室内で寝てて熱中症? 汗だくでもないし夜中なのですごく暑いわけでもないし‥。
ただ、頭痛が気になって(脳卒中とか) 通っている市中病院へTELしました。
夜間救急をお願いし、ボーッとするがなんとか喋れて少し落ち着いたのですが
「ご自分で来られますね?気を付けてお越しくださいね」。

…この程度じゃ救急車呼んだらいけないのね と解釈しましたが、車を運転するのは少し怖い。
考えて 首に保冷剤を巻いてタクシーで行きました。
受付まで歩くのもヨレヨレ。
すぐ処置室に入れてもらえたんですけれどPC見ながら「腎臓悪いんですねー、どうしよう?」
夜間救急は研修医ばかりで、同僚に「ネフローゼで塩分制限あるけど、普通の処置でいいかなあ」とか相談し二人であれこれ考えている。
ナースが扇風機をあててくれたり幾つも氷嚢のせてくれ、だいぶ楽にはなったのですが。
結局研修医同士では答えが出なかったのでしょう、上級の医師に指示を仰ぎ 点滴して事なきを得ました。

大したことがなくてよかったのですが、この記事の産科医師と同様 誠意のない医師だと思いました。
経験や知識が足りないのは、研修医ゆえ仕方ないでしょう。
何故、サクサク上級医に聞かなかったのかが理解できません。わからないと言い出せなかったのかな?
病気がいくつもあると 悩むのも致し方ないです。 だからこそ研修医同士で首を捻っても埒があきません。
私は何でもなく済みましたが、誠意や丁寧さが欠けるとこの産科医師のように 患者の命に関わることにもなりかねませんね。

この産科医。
難病を抱えて薬を常用していることを知らないわけはないと思うのですが、わかっているなら一層慎重に丁寧に対処するのが本当ですね。
これで患者さんのご家族が泣き寝入りしなきゃならないのは、理不尽すぎます。 何より亡くなったお母さんが不憫でなりません。
むやみやたらに「訴えてやる!」という患者も困り者ですが、これはさすがに‥。
医師が 大丈夫でしょう と言ったら従うしかありません。TELで質問しないで、救急車にしろ何にしろ先ずは受診ということですね。持病があるなら尚更、念には念を。

夜 寝ていて熱中症になんてなるんだなー とまた反省が増えました。
塩分、節制し過ぎてもよろしくないようなので、夕飯には梅干し1個食べよう!
タンパク質も控えていると 軽い栄養失調状態だと血液の主治医に言われましたし、それが夏バテにつながったかも知れません。 だんだん自分の筋肉から補充しちゃうから筋力もなくなっていくよ? とか脅かしてくれたので。
ほどほどに キチンと食べることも体には大切なんですね。

しかし それにしても暑すぎます。
まだ7月半ば、夏はこれからだと言うのに どうなってしまうんでしょう?
カブトムシはご無事ですか。
あまりに暑いからか セミが夜中に鳴いております。
自然が壊れていかなければいいですね。
返信する
いつ上級医に連絡するか (アンフェタミン)
2017-07-15 09:17:30
>女王様さん
おはようございます。コメントありがとうございます。

帯広は今日までは暑い日が続くようで、猛暑日がこんなに続いたのは90年以上ぶりだそうです・・・。

エアコンがないので、とりあえず扇風機を回して頑張っております。

頭痛などがある熱中症は「中等症」扱いになりますので、持病がある方は注意しなくてはいけません。特に女王様さんは「腎臓」が悪いので、色々気をつけてくださいね。

救急の現場については多くの場合、対処方法は最初は変わらないのですが、研修医の先生たちもそのうちわかっていくのではないでしょうか。研修医がサクサク上級医に聞かなかったのは、すべて質問していたら勉強にならないということもあるかもしれません。
僕は「実行する前に連絡。プランニングするまでが研修医の仕事。薬とかを入れ始めたら戻せない」とよく言っておりました。「患者さんの生き死にに関わるような時は考える前に連絡」とも言っておりましたが。

今回は「産科医」の前に助産師が関わっているようですが、ここまで情報の共有が言っていなかったのかもしれないとは思っています。産科医は知っているのが普通なんですが。多分。

医師で救急の経験が少しでもあるならば、ある程度急ぐかどうかはわかると思います。ですので、そこまで話が伝わっていなかったのではないかと思います。

自宅での熱中症は意外と多いです。糖尿病や腎臓関係などの持病がある方はリスクも高くなります。これからの季節お気をつけください。

ちなみにカブトムシは先に出ていた10匹くらいは大脱走をして、家の中で仰向けになっていました(汗

新しく40匹くらい出てきたので、近くのお子さんたちに配っています(笑

また、コメントいただければと存じます
返信する
腎内科外来にて (女王様)
2017-07-21 03:05:44
おととい 定期外来でまったく同じことを言われました。
腎臓が悪いと水分のバランスがとりにくいから注意するように と‥。
熱中症だと言って水だけを大量に飲むのは危険なんですね。

研修医同士が首をひねり
「ソルデムでいいかな?」
「うーん、どうしよう」
て考えこんでいたのは まさにそれだったんですね。
なるほど、すぐ教えては勉強(経験)にならない。
が 安易に処置しちゃったら取り返しがつかないミスになることもありますし、難しいですねえ。
まず 的確に手っ取り早く冷やしてくれたナースが一番正解かも(笑)。

ネフローゼ自体はあまり改善されませんが 浮腫より脱水気味が気になると言われ。 この暑さと熱中症の名残かもしれないけれど、ナトリウムが高くカリウムが低い。BUNが40に倍増したことやUAが9近くに上がった点で推測できる脱水で、調節能力が弱っていると自覚しなきゃいけないと‥。

それでもどうにか 尿たんぱく1日量は 10から5gに下がったし、アルブミンも3.3まで回復しました。 LDLもギリギリ正常範囲内で高血圧も改善し お薬サマサマだけれどちょっとホッとしたところです。
ビックリした肝機能も ウルソが効いているのか何事もなかったかのような正常値。
薬で落ち着いているにせよ、肝臓は意外なくらい立ち直るものだと感心しています。

来週また血液外来がありますが(1ヶ月は早い!) 気になっていたBASOが1.2%になり ここも少しだけ安心しました。
まだまだ生存能力がありそうです。

カブトムシたち 喜んでもらえて良かったですねえ。
今の子は カブトムシやクワガタをホムセンの売り物でしか知らない。
息絶えて動かないのを 電池交換すれば動くとか本気で思っているそうで 言葉を失います。
私の方のタウン紙でも「昆虫オジサン」が保育園に贈っている記事がありましたよ。
男の子は4歳も40歳も60歳もあまり変わらないんだー と笑ってしまいました。

昆虫オジサンは地元の虫を贈っているのですが ただ渡すだけではない とのことで、卵を産んだ場合は11月くらいに引き取るんだそうです。
そして園児たちと採取した林に行き、もう一度自然に戻す活動をする。
来年また会おうね!という行動は 大切な教えです。

関東は梅雨らしい雨もないまま、猛暑突入しました。
二度と間違いをおかさないよう うまくクーラーを使いながら乗り越えようと思います。
アンフェタ先生も 夏休みをとりながら頑張ってください。
お嬢様に会いに帰れますように。
返信する
脱水注意です (アンフェタミン)
2017-07-21 21:21:23
>女王様さん
こんばんは、コメントありがとうございます。

熱中症。とりあえず、冷やすというのは正しいですよね。水だけでなく、電解質(ミネラル)もおかしくなるので、それも考えなくてはいけません。

尿タンパクが下がったのは良い情報ですが、アルブミンは脱水の影響もありますから、あまり喜びすぎないでください。一喜一憂になっちゃいます。

CMLも安定しているようで、良かったです。
昆虫おじさん・・・。

おじさんに見られないようにしたいのですが(昨日の学校説明会で、受験したのは20年前と言ったら「うそ〜」と言われました。若く見えるらしいw)、おじさんです(笑

まぁ、昆虫おじさん並みに子供達に色々教えたいところです。それが明日の主業務ではないので、ちゃんと自分の仕事も行いますが。

来週末は娘の誕生日なので、関東に帰れることになりました。良かったです。

また、コメントいただければと存じます
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