さて、先天性溶血性貧血・・・特に日本人に多い「遺伝性球状赤血球症(HS)」に関してです。
正直、基本的に小児科で対応されていますので、僕らが治療に関わることは少ないのですが、成人で受診された患者さんがいます。
小児期に指摘はされていたが、そのまま放置していた患者さん。
治療をしたが、副脾が出て来て溶血が再燃した患者さん。
遺伝性球状赤血球症は赤血球の膜タンパクの異常で、赤血球を平べったい形にしているタンパク(アンキリン、スペクトリンなど)がうまく働かなくなり、丸い形になります。そうすると脾臓を通り抜けることができなくなり、溶血してしまいます。
そのため脾臓を摘出するという治療を行います。
重要なことは「いつ脾摘を行うか」であり、可能であれば6歳以降に行うとされています。また、肺炎球菌ワクチンなど「莢膜を持つ細菌」の予防を行います。
では、少し書いてみます。
Jさんは会社の健診で横断と貧血を指摘されて、紹介されました。血液検査では白血球4000/µl、ヘモグロビン(Hb)9.5g/dl、血小板は21.5万/µlと貧血を認め、他の検査結果としてビリルビンという数値が6.5 mg/dlあります。これは黄疸の時に上がる数値ですが、肝臓の機能としては特に問題はなさそうなデータになっています。
Jさん:肝臓は大丈夫なんですか?
はい。肝臓よりは血液の異常で黄疸が出ているようです。当科で追加で行なった検査では網状赤血球という赤血球の産生を反映する数値が18.5%とかなり高くなっています。これは貧血を進行させないために、かなり頑張って赤血球を作っていることになります。
他の検査結果ではクームス試験という「赤血球を壊す抗体」を確認する検査では異常は認めておりません。他に血液像という「顕微鏡」で赤血球などを確認する検査では、球状赤血球という丸い赤血球が多数観察されています。
今の時点ではまだわからないのですが、子供の頃に貧血とか黄疸を指摘されたことはありませんか?
Jさん:親に聞かないとわからないのですが、そういう話があったかもしれないのですが、特に調子が悪くなかったので放置してしまいました。
もし、よろしければ少し確認をしてみていただけますか?
こちらは追加の検査を少しさせていただきます。一つは浸透圧抵抗試験というもので、球状赤血球の場合は食塩水の濃度が減っていくと、溶血しやすいという特徴があります。正常な赤血球と比較して、溶血しやすいかどうかを食塩水の濃度を変えながら、判定します。もう一つ、自己溶血試験という検査も行います(溶血しないようにするのにかなり頑張らないといけないので、エネルギーが必要。グルコースを加えると溶血が改善)。
診断を確定させるのであれば、小児科領域の特殊な検査をお願いする必要がありますが、今はここまでで良いと思います。
また、脾臓の大きさや胆石の有無など、いくつか確認したいので、CT検査も行います。
Jさん:わかりました。
Jさんは子供の頃から黄疸や貧血を指摘されており、浸透圧抵抗試験や自己溶血試験も陽性で、他の溶血性貧血の診断基準には合致しなかったことから、球状赤血球症と診断されました。他の家族には同疾患は確認されず、30%ほどいる孤発症例と判断されました。
貧血、網状赤血球、黄疸のレベルからは中等症と判断され、胆石やかなりの脾腫を認めることから、胆嚢摘出+脾臓摘出のため外科に紹介となりました。
こんな感じでしょうか。
一般的な話として、この疾患は脾臓摘出を行えば症状は劇的に改善する(有効率は85.7%)とされています。軽症患者では脾臓摘出のメリットはほとんどないとも言われますが、中等症以上では一般に行います。
あと、遺伝性といいますが、30%は遺伝性ではなく、たまたまなることがあります。生まれついてそうなっているという意味では先天性ですが、遺伝ではないと・・・。わかりにくいでしょうか?
成人ではあまりみませんので、詳細は小児科の先生に・・・と思いますが、少しでもお役に立てればと思います。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。
![]() |
血液内科 ただいま診断中! |
クリエーター情報なし | |
中外医学社 |