もう一つ記事を。
福島第1原発事故 警戒区域内などで除染作業を行うため、7日から陸自派遣へ
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20111206-00000972-fnn-pol
フジテレビ系(FNN) 12月6日(火)13時45分配信
政府は6日朝、福島第1原発事故にともなう放射性物質の除染対策に関する関係閣僚会合を開き、一川防衛相は、警戒区域内などで除染作業を行うため、7日から、自衛隊を派遣することを報告した。
一川防衛相は「明日から、約2週間かけて除染活動に入りますと」と述べた。
閣僚会合で、一川防衛相は、2012年からの本格的な除染作業を行う際の拠点として、警戒区域内の楢葉町、富岡町、浪江町と、計画的避難区域内の飯舘村のあわせて4つの役場を除染するため、陸上自衛隊の部隊を、7日から派遣すると報告した。
派遣部隊は、あわせて900人規模で、2週間程度、役場の床や壁を水で洗浄したり、側溝にたまった汚泥などを除去するなどの作業を行う。
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一つだけ気になるのは、きちんと900名の隊員に対して「放射線」などに関する教育はしたのだろうか…ということである。
たまたま、今日職場の医療ニュースのようなものを作っていて(最近、作っているのですけど)、内容を「放射線被曝」にしておりました。
ちなみに参考文献はこちら
図説 基礎からわかる 被曝医療ガイド [単行本(ソフトカバー)]
一部、矛盾した場所もありますが…安いし、わかりやすいと思います。1800円なので気になる人はどうぞw
ということで、この記事は放射線被曝に関して簡単にまとめてみようと思います(作っていたから、まだ内容が頭に残っています。Dataを持ってきておければよいのですけどねw 持ち出し駄目だからw)。ちなみに僕はかなり意訳しています。書き方もこのテキストの内容をわかりやすくするために、無理やり書き換えて表現している部分が多々ありますので、ご容赦のほどをw
放射線は原子より小さい粒子、もしくは電磁波とされています。α線、β線、γ線、中性子線などがあります。それぞれ透過力や飛ぶ距離、遮蔽できるものが異なります。
放射線被曝の中で急性障害と慢性障害、身体的影響と遺伝的影響、確定的影響と確率的影響とありますが、今回は急性被曝はおそらくないでしょう。
急性障害は被曝後数週間までの期間に生じるものとされていますが、一般的には急性障害は身体的影響をまず考えます。急性被曝…放射線を被ばくした時に影響を受けやすいのは骨髄や生殖器などです。消化管も重要ですが、放射線に比較的強い臓器として「脳」があります。
われわれ血液内科医は全身放射線照射(TBI)を骨髄移植前に行うことがあります。この時、嘔気が発生するのですが抑えるのに「5HT3阻害剤」「ステロイド」などを使用します。消化管障害が出始めるのは数日後からです。すなわち、使用している薬剤を考えてもわかるように、この症状は脳の症状です。
大量被曝の際に「けいれん」「意識障害」などが生じると大量被曝の可能性が高く、ほぼ致死的と言われています。
有名な話ですが「嘔気」の発現時期で被曝線量が推測できます。すなわち、脳のダメージを見ることができる。事前に吐き気止めを使用しない場合(TBI以外ではありえませんが)、4~6Gy で1時間以内に100%の人が嘔気を訴え、6~8Gyで30分以内に100%の人が、8Gy以上では100%の人が10分以内に嘔気を訴えるといいます。
他にも骨髄不全のため、無菌室管理をしたり、消化管障害の下痢・脱水などの対応、皮膚の障害、脱毛など様々な影響があります。
まぁ、ここら辺は血液内科医が主体となって全身管理を行うのでしょう。僕もやれと言われれば、全身全霊を持って行います。急性障害に関しては、正直被曝量によってはすぐに脳がやられてしまうこともあります。大量に被爆者が出た場合、助かる可能性のある人に戦力をつぎ込むことになるでしょう。
どちらかと今問題になるのは慢性障害、すなわち被曝後数年以降の障害だと思います。
慢性障害の中には身体的なものでいえば白内障、そして遺伝子レベルで影響を受ける「遺伝的影響」・・すなわち「発癌」「遺伝的障害」があると思います。
派遣される自衛隊員、そして福島の関係者の皆様が絶対に気にされているのは「発癌」や「胎児への影響」があると思いますので、一応このテキスト内に書かれているものを要約してみようと思います。
ちなみに僕が福島に派遣されていた時にマスコミの方に「怖くありませんか?」と言われて、「全く怖くない」と答えたのは、一応この辺の知識もあったからです。面白くない取材対象ですよねw
そのまえにまだ説明していない、確定的影響と確率的影響というものを簡単に書きます。確定的影響というのは「ある一定以上の放射線を被ばくすれば、必ず健康被害が出るもの」を言います。一言で言えば急性障害の話です。放射線はエネルギーですから、当然一定以上を超えればダメージを受けますよね?
ロールプレイングゲームで「ファイヤー」の魔法を使ったら、レベルが低いとダメージは受けないけど、レベル(エネルギー)が上昇してくればそれなりに皆ダメージを受ける。さらに多少の個人差(年齢など)や臓器の差(骨髄と脳など)で影響の受けやすさに違いはあっても、ある一定以上の放射線を受ければダメージを受けますよ~ということです。
一方、確率的影響というのは「被曝したからと言って、必ず健康被害が生じるかはわからない」影響を言います。発癌と胎児への影響を言っています。
放射線という砲弾を一発受けても致命的なダメージ(遺伝子にですね。修復できるかもしれない。もしくは致命的過ぎて細胞が死ぬかもしれない)を受けるかはわかりません。しかし、線量が増える・・・つまり何発も弾が飛んで来れば遺伝子に致命的なダメージが入る可能性も上昇する。ただ、100発飛んできても当らない人もいれば、1発で見事命中という人もいる。それが「確率的影響」です。
そういうことで「被曝線量が多い」・・すなわち急性障害を受けるとか受けないとかいうレベルの人は当然発癌しやすいです。広島で白血病などが増えたのも、被曝線量が多い方のようです。
では、少ない方に関してはどうかという話です。
まず、胎児への影響に関してです。チェルノブイリの原発事故後、欧州などで堕胎が増加したそうです。それは・・気持ちはわかりますよね。このとき世界保健機関(WHO)が緊急の声明を発表したそうです。
「広島の被爆者の被曝後の疫学調査」において妊婦の被爆者15000人と非被曝者妊婦56000人で統計学的に解析したところ、100mSv以下では障害を起こす明らかな根拠は出なかった。その一方で400mSv以上だと小頭症や知的障害児などが増加した。
この結果からWHOは100mSv以下の胎児被曝で妊娠堕胎は容認されないという声明を発表した。
これは一つのポイントだと思います。
で、発癌に関してですが、この本にも書かれていますが「1回に100mSv以上の被曝で発がんリスクが上昇する可能性がある」とされています。低線量の長期間被曝での発がんリスクは低いという可能性が高いと書かれています。
その根拠となるかはわかりませんが、
放射線被爆時の年齢 被曝量 白血病の生涯発生リスク増加(%) 固形がんの生涯発生リスクの増加(%)
10歳男児 100mSv +0.06% +2.1%
1000mSv +1.4% +21%
30歳男性 100mSv +0.07% +0.9%
50歳男性 100mSv +0.04% +0.3%
1000mSv +0.9% +3.0%
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と、書かれている。もちろん、広島にしてもチェルノブイリにしても疫学的に完全調査ではないが、よい参考にはなると思う。
なお、チェルノブイリでは小児・成人ともに被曝による白血病増価の影響はなしと結論付けているそうな・・・。
また、放射線ホルミシス効果というものもある。これは広島の被爆者の疫学調査で、100mSvまでの被爆者の方に発がんリスクが逆に低下している、あとは学生時代の授業でも放射線科の現教授が話をされていたが、ラドン温泉の話などもある。これも一回100mSv以上の被曝で…という文章の意味だと思っています(ちなみに福島に行ったとき、周りの方々が非常に放射線のことを恐れていたので、放射線ホルミシス効果に関して説明しましたw)。
あとは被曝による発がんリスクの上昇に関して、「1000mSvの被曝による発がんリスクの上昇」は「喫煙による発がんリスクの上昇」とほぼ等しいということも書かれています。
僕はこの記事を書くことで、放射線を気にしなくてよいと伝えたいわけではないです。実際、原発建屋内の1.6Sv(1600mSv)/hという話や20Sv/hなどという話もどこかに書かれていましたし、はっきり言ってその線量はしばらくいるだけで死にます。
だから、原子炉建屋内に入るのであれば「自己末梢血幹細胞採取」をしておいた方が良いだろうと書きました。
原発建屋内高線量:建屋内で作業するなら、事前に幹細胞は取ったほうが良いかも
ちなみに4Svから死ぬ危険性が出てきます。
ただ、今の線量で過剰に心配しすぎることには反対です。僕を含めて当時の僕の周辺は「この線量だったら妊婦や子供だけ逃がして、高齢者は無理やり逃がさないほうが良いのに・・・」と言っていたものです。
窓側の室内線量、高い傾向=富岡、浪江の小中学校-政府支援チーム
政府の原子力被災者生活支援チームは16日、東京電力福島第1原発から半径20キロ圏の警戒区域や計画的避難区域に含まれる福島県富岡、浪江両町内の小中学校計5校について、室内の空間放射線量を公表した。最も線量が高い学校では年間被ばく量が10ミリシーベルトを超え、特に庭やグラウンドに面した窓側で高い値を示した。
支援チームによると、最も高い室内空間線量を記録したのは、原発から約10キロ離れた富岡町の中学校。1階の3年生の教室で、校庭に面した南側が毎時2.21マイクロシーベルトと最も高かった。同じ教室でも、廊下と接する北側は同0.22マイクロシーベルトで、南側の10分の1だった。(2011/11/16-21:46)
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今回の派遣で、粉じんの中に高線量のものがあるかもしれません。場所によっても高線量の部位がるかもしれません。放射線防護の基本は「距離」「時間」「遮蔽」ですので、そのあたりの防護をきちんと行う。また、粉塵による内部被ばく対策をしっかり行えば…あの辺の線量であれば何の心配もないと思います。
なお、今よく0.22μSv/hって書かれるとピンとこないと思うのですが、もともと日本の平均自然放射線量は2.4mSv/年です。 0.22×24(時間)×365(日)=1927.2μsV/年=1.93mSv/年で日本の平均よりも低いことになります。毎時2.21μSvだと19mSvになるので確かに高いですね。まぁ、分割被曝の影響は不明なのですが・・・・。
僕は備えるものにしっかり備えて、何が重要なのかを認識しながら、日本国民全体でこの危機を乗り越えていかなくてはならない。そう思います。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。
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それでは、また。
僕が三月に福島へ行ったときは正直怖かったですw
それが、その地で生きている人々に共有されたのでしょうか。
共有するための努力がなされていたのでしょうか。
それがなされていないなら「自衛」隊です。
こんばんは、コメントありがとうございます。
お久しぶりです。晩期障害に関しては誰もわからないことではありますが、出たときは出たときと…多分腹をくくってしまっているのだと思います(僕は)。
あとは3月と4月の違いもあるのではないかと思います。
それに放射線科の先生ですから、僕よりもいろいろ考えられたのではないでしょうか。
また、コメントいただければと存じます
>ママサンさん
こんばんは、コメントありがとうございます。
僕も教わって得ている知識ですが、少なくともその場所で生きている人に提供されてはいないのではないかと思います。
少なくとも僕はこの本が一般に発売されるまでは、僕の一存で勝手にブログに書くわけにもいきませんでしたので。
現地に派遣された自衛官がどの程度の知識を持っているのかは、僕の方が不安に思っています。
共有するための努力、それが多分この本の発売なんだろうと思います。自衛隊医官の指導部の方々が書かれている本ですから。
また、コメントいただければと存じます