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「ドロップアウト」 三宅哲雄

2011-07-15 16:03:58 | 三宅哲雄

生活空間の選択 -どこで生きていきますか-  三宅哲雄  


 気分が悪い、食欲がない、頭が痛い、むかつく、など平常心でいられない混乱した状況になり急いでホテルをチェックアウトして空港に向かい逃げるようにギリシャを後にして隣国イタリアへ飛んだ。


 一ドルが360円の固定相場の時代、大学院の仲間や革新市長会の市長さん(旅程の一部)などとヨーロッパの都市と生活の調査を目的にウラジオストックからシベリア横断鉄道に乗りモスクワを経由してレニングラード(サンクトペテルブルク)までソ連を旅し、フインランドからユーロパスを使ってドイツ、オランダ、フランス、イタリアと気のむくまま途中下車を繰り返しながら列車の旅で南下した。ローマでレンタカーを借り、知らない土地と右側通行という不慣れな道を交代で運転し、交通事故や違反をしながらもスイスアルプスを越えフランスを経てスペインの首都マドリードになんとか到着した。ここでグループ旅行は解散し個人個人で旅程を組み飛行機で都市を巡る旅を開始していた。


 社会主義国家ソ連の旅は強制的にガイドを付けられ不自由な観光で早々に出国したい思いをもちながら我慢をした滞在や毎日が曇天で気分が晴れないうえにフィッシュ・アンド・チップスと食後のスイーツには閉口しながらも逃げ出すことはなかったロンドンにくらべて真っ青な空と海、白く輝く古代遺跡や神殿などが町の至るところに点在する明るい町アテネに滞在していながら何故日増しに体調が悪くなるのか?原因は考えるほどの事も無くオリーブの臭いや香り、そして味が私の頭の中に充満し全身を覆っていることだった。最初はそのうちに慣れると楽観していたが、町を散策すると至る所からオリーブの臭いが発ち込め、食事をすればサラダや揚げ物など全ての料理にオリーブが使われ、町全体がオリーブに漬かっている状態であるように感じれば感じるほど五感はますますオリーブに集中して正常な思考や行動そして我が身体をコントロール出来ない状態になった。


 人が我を忘れて行動するときは事象により大きく差が出るが危険や恐怖から逃れようとするときなどで思考する余裕がある状態で襲われた場合まず逃避する方法を考え行動するが、思考する時間が無い瞬時の出来事に遭遇した場合、脳の安全弁が作動して心身共に停止状態で身を守り記憶さえ残らない状態になることもあるなど人がかって知り得たことのない自然や社会に身を置いた場合は五感や生理的判断が優先されるのは命の保全を第一とするからであろう。しかしながら生命の危機を日常感じる機会がほとんど無くなった現代社会で我々は争いや諍いを避け平穏を求めるあまり現状維持や踏襲という無難な生活を繰り返してきた。本能や生理的判断で逃避することを別として私たちは日常生活であまりにも賢く生きるすべを学習し不満や理不尽に目を瞑ることから倫理観まで失いつつあるように思われる。毎日の食事に困窮する人々に比べて公務員とくに先生と呼ばれる国会議員や医者、教員は地位と報酬が保障されているからこそ一層の倫理観を求められるにも拘らず井の中の蛙の生活が続くとそれが普通で当り前であると思い、出来ればこの静かで平穏で豊かな環境を崩したくないと考えるのは残念ながら先生方に限らず多くの国民に定着した生き方になった。しかし私たちは突然大人になったわけでなく全ての人々が幼少の時代は大きな夢を持ち育ったことを想い出してください。確かに資本主義経済社会で生きている私たちは夢みたいな甘いことばかりでは生きていけませんし、この社会から逃避することもできませんが改めて今日かかわっている組織や枠組みと自己との関係を見直してみることもありだと思います。一般的には国家があって国民があり、会社があって社員があると考えられていますが実際は国民のいない国家はなく、登記上だけの会社が存在しても何の意味を持たないように既存の常識に捉われず視点と立脚点を転換することで別世界が見え多くの夢と希望を持つようになります。

 黒文字の世界から白抜きの世界へ「ドロップアウト」