ART&CRAFT forum

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「かごを相手に独習する 」 関島寿子

2014-12-10 15:56:32 | 関島寿子
1995年7月20日発行のART&CRAFT FORUM 創刊号に掲載した記事を改めて下記します。

 前回には材料と工法をあまり固定的に結びつけて見ずに、様々の可能性を受け入れられるような柔軟な態度で物質とかかわることによって、創作のチャンスを広げられることができるという事を述べた。今回は同様な融通のきく見方を身近にあるかごに向けてみようと思う。何でもないかごが急に雄弁に語りかける教師に変わるはずだ。
 今年で発行十年を迎えた『バスケタリー・ニュース』に人気定番の企画、「オリジナル・レプリカ全集」というのがある。最近号の「アマゾンの葉かご」で42回目を数える。毎回、世界各地のかご類の作り方を原物を見て推理解読して、手近な材料で複製し図解を載せる。編集者は解読人の投稿に従って実際に作ってみて、予想外の発見等を「蛇足」と称してコメントする。模造品を作れるようになっても大した意味はないと疑う人もあるかもしれないが、そんな事はない。見ただけではわからない事が色々わかってくる不思議さは何とも楽しいものだ。百見不如一蝕!
 かごというのは一種の組立て技法なので、見るだけでも構造のあらましはわかるものなのだが、実際に模作してみるとまた別の面が見えるのである。たとえばこういうことだ。話をわかりやすくするために、かごとは少しちがうが、「紙を二重にして何かを包んだような物」を模作すると仮定する。紙二枚で包めばいいのだと了解して手近な材料で似た事をしてみる。するとたちまち、いろいろな問題が起こってくる。曲げる度に二枚がズレてきて納りが悪くなるとか‥‥。曲がりなりにも似たものを作り上げるのには、内側になる紙を薄いものにするとか、少し小さめに切っておくとか、何か工夫をしなければならない。材料の厚みや柔軟性、包まれる物体の形などが複雑に関係することが身をもってわかる。
 このような具体的な問題解決のプロセスをよく観察すると、造形上のテーマがいろいろ発見できる。たとえば、ズレとは何か、層が重なるとは何か、曲げるとは‥‥‥.立体と平面の関係は……、厚みとは何か等々。これらの問いを白分に向けて見る。立体またはその成形についての観念がとても自然なかたちで問い直されるはずだ。
 アマゾンのかごを日本のシュロの葉で模造する目的はコピーする事ではないのだ。たとえ似て非なるものができ上がったとしても、使ったこともないアマゾンのヤシの葉や、それを巧みに使いこなしたオリジナルの作者がとても身近に感じられて嬉しくなる。ついでに、もちろん、シュロの葉の性質もよくわかってくるし、レプリカの作者である自分自身の技術力や発想力も客観的に評価できる。
 このシリーズで私か書いている様々の独習法も、かごの模作と同じで、読んでみるだけでなく、実際に手を動かして試してみると、効果がもっとよくわかるはずなのですがー----。こう書いている私自身、「オリジナル・レプリカ全集」と「蛇足」を読んで感心するだけで、実際に作って見ないことが多いので、独習のチャンスを日々逃がしていると反省している。