ART&CRAFT forum

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編む植物図鑑④『紙を作る植物』  高宮紀子

2017-09-20 11:41:10 | 高宮紀子
◆写真1 楮 

◆写真 2

◆写真 3

◆写真 4

◆写真 5

◆写真 6

2007年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 45号に掲載した記事を改めて下記します。

 編む植物図鑑④『紙を作る植物』  高宮紀子

 作る作業が行き詰ったり、壁があると思った時には、書くのがいいと私は思っています。紙に書いて考える、そして考えたものを繋げたり、分析したものをまた紙に書く。書くことで壁が無くなったり、自分を客観的に見ることができます。これも作るという作業の一つです。家庭でもペーパーレスという時代になりましたが、完全に紙なしの生活は私にとってはちょっと無理。

 情報のやりとりという点でも、紙というのは人間の文化にとても深く関係しています。情報を記録するため、世界にはいろいろな方法があります。先日、武蔵野美術大学で沖縄の民具の展覧会があり、期間中わら算の講習がありました。わらを束にして結んで数や種類を記したというものです。結び方にはルールがあって、実際に当事者がいなくても検証が可能です。結ぶだけだから書くものもいりません。

 記すということが一番簡単なのは、石や葉などの表面に直接ひっかいてキズをつけることです。原始的な方法ですが、簡単です。次は、ちょっと痛々しいですが動物の皮も利用しました。

 その次は樹皮のジンピ繊維を叩いて伸ばすというもの。樹木によっては薄く伸びて、つなげることもできます。模様なども入れて、日用品や衣料などにも使います。でも、その労力を考えるととても貴重で、使い捨てなんていうのはとても無理。次は植物のセルロースを重ねていくという方法。パピルスはあまりにも有名です。茎を縦に切って、直角に並べて層を作って圧力を加えると表面がなめらかで平らな面ができます。

 そして最後に、ばらばらにした繊維を水の力でからめて面を作るという紙漉きの方法
です。

 紙漉きができる植物で、まず思いつくのがコウゾです。写真1はまだ小さい苗なので、葉も小さいですが、クワ科の植物らしく、葉の切り込みが不規則です。このジンピ繊維を取って、つまり皮を剥いで、その内側の繊維を使います。外側の茶色い皮をつけたままま乾燥しているのが写真2です。先日、小川町へ紙漉きの体験に行った時に、見つけました。

 写真3はミツマタ。これも同じ所でみかけたものでまだ蕾です。黄色い花が下向きに咲きます。これも皮をはいで使います。

 偶然にも本コウゾで紙を漉かせてもらったのですが、紙漉きというのはつくづく水との関係が深い、と思いました。紙を漉くとき、水を貯めたり、捨てたりするのですが、これがむつかしい。できあがりの紙に必ず、影響します。リズミカルなぽちゃぽちゃという水の音を聞いていると、繊維がそろう一瞬がわかるそうです。ミツマタはジンチョウゲ科の植物です。庭木のジンチョウゲの皮をはぐと繊維が強いということがよくわかります。ただ、枝の分岐同士の距離が短いので、長くはとれませんが。写真4がミツマタのジンピ繊維。紙料として売られています。

 以前、ある研究所から紙料の植物リストを送ってもらったことがあります。私のHPでかごの植物図鑑を掲載しているのですが、その参考になればと送って下さったもので、すごく詳しく驚きに満ちていました。考古学的な物証の研究をされているので、とても興味深かったのですが、見れば私が使う繊維植物と同じです。繊維があるものはすべて紙にすることができる、ということがわかりました。竹、藁、麻などはいうまでもなく、編む繊維植物である草本、木本にいたるまで、共通していました。

 紙を作るのは、植物ばかりではありません。コットンペーペーという言葉を聞いた方があると思います。綿の繊維からも紙を作るのですが、工場で作られていたのは、なんと、中古の綿の衣類が材料でした。

 平塚市美術館でかご展に参加したときに来日したスコットランドのアナ・キングさんがやっているのはキノコの紙。ある種のキノコがいいようで、たまたま宿泊地の庭にあったからと、採ってきてくれました。(写真5の右下の赤いもの。)下にひいた紙はキノコの紙の作り方ですが、どのキノコがいいのか、まだ試していません。でも、じゃがいもをすってミキサーに入れ、紙を作ったぐらいのシンプルさではないかと思います。

 紙を作る技術は、ばらばらの繊維にして、または繊維の性質を利用し、以下に平らにするか、という技術です。これに比べ、編むという技術は、ばらばらの繊維を繋げていかに連続した線材や面にするか、という技術です。ばらばらの繊維からいろいろな方法が可能です。例えば撚るという方法がありますが、撚りながらできるのは、縄、ループ、結びという形があり、一つではありません。

 写真6は私が作りました。素材はスギの樹皮です。スギの樹皮は厚いのですが、それを薄く剥いだり、叩いて柔らかくすることができます。この作品は一枚のスギの皮の硬いところを残して、他を叩いて柔らかくしたもの。下の柔らかいところは紙になりそうです。スギはクラスの参加者の皆さんと採りに行きました。

 今年のかごクラスの参加者は面白い実験をする方が多い。Mさんは洗濯機で紙バンドを洗ったり、ビニールを熱で溶かしたりしています。またSさんはCDを螺旋状に切って、ダブルにつながった螺旋を作ってきました。Fさんはシュロの繊維を煮てきた。KさんはPPバンドから新たな物質を作り出し、Nさんはゴムを解いた。その他にも驚くものがたくさんあります。実験ですが、実験だけに終わりません。これによって新しい個性的の自分だけの素材をみつけることができるのです。

「古代アンデスの染織と文化」-アンデスの紐・Ⅳ ブレーディング 上野 八重子

2017-09-20 09:52:58 | 上野八重子
◆トワィニングによるブレーディング紐 (豊雲記念館蔵)

◆写真2.ブレーディングとカギ針のベスト
(水谷悦子 作)

◆写真3.製作中のスカート(水谷悦子 作)

◆写真4.写真1からヒントを得たベスト
(水谷悦子 作)

◆写真5.インターロックで模様出し(豊雲記念館蔵)

◆写真6.途中で分けて組んである(豊雲記念館蔵)


 ◆写真7.色糸の出し入れ操作で模様を現す(豊雲記念館蔵)

◆写真8.写真1の中心スタート部分(豊雲記念館蔵)

◆写真9.織端を唐組で組んである
(豊雲記念館蔵)

◆写真10.紀元前7世紀の唐組
(豊雲記念館蔵)

◆写真11.多重織とブレーディングの帯
(豊雲記念館蔵)

◆写真12.写真11の部分、織部分に後から刺繍
(豊雲記念館蔵)

◆写真13.ブレスレットを作る少女
(ペルー・チンチェーロ村にて)


2007年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 45号に掲載した記事を改めて下記します。

「古代アンデスの染織と文化」-アンデスの紐・Ⅳ ブレーディング 上野 八重子

 ◆紐から衣服へ
 写真2、3、4は1本のアンデス・ブレーディング紐(写真1)から面白さを見出し、ベストやスカートに展開させたものです。写真2、3は菱形部分がブレーディング、他はかぎ針で細い紐状に編み次の菱形に繋げてあります。“開ける、閉じる、増減が自由”なブレーディングの特性と、得意な編物を生かした作品と言えるでしょう(アンデスクラス卒業生・水谷悦子作)。
 こうした違う技法との組み合わせはアンデスでは珍しい事ではなく、一枚の布に何種類もの技法が使われており、それが見事に部位ごとに理にかなった役割をしているのです。しかし、最初からうまくいっていたのでしょうか?長い経験と失敗を重ねながら上手い方法をあみ出したのかもしれませんね。
 先日、草木染め作品展を予定している方から電話があり、会場で染め方を問われた時、基本から外れていると「それは間違っています」と突っ込まれるので、自分は良い色だと思っていても出展品は思い切った事が出来ないのよ…との話でした。こういう話に出合うといつも疑問に思ってしまいます。
乱暴な言い方かもしれませんが「やってみたらいいんじゃないの、新しい事は挑戦からしか生まれないし、駄目でも結果は自分の肉になるのよ」と突っ込む人にも、言われる人にも言いたくなってしまいす。連載④でも書きましたが、ペルーの草木染め体験ツアーで「そんな事はしてはいけないと教わりました」と文句を言うのは日本人だけ…だそうです。古代アンデス人のように「それも有りかぁ~」精神を持って、自由で柔軟な頭で物創りが出来たらと思う昨今です。基本とは守り続けると共に常に進化もあるべきなのではないでしょうか?

 ◆ブレーディング(平組紐)
 今回はブレーディング技法を取り上げてみたいと思います。
ブレーディング技法はアンデスに限られたものではなく現代でも多くの作家が取り入れている技法です。簡単に説明すると経糸だけをセットし、手で糸を上下させながら組んでいくと糸は斜め方向に移動しながら経糸が時には緯糸となり平織り、綾織り、ねじり(2本組み)、端までいくと45度の角度で戻っていきます。
単純な組織ですが色糸の配置、端までいかずに随意にインターロックで戻る、又はインターロックせずに戻ると切れ目が出来る(写真5、6)表側と内側の色糸をチェンジする等で限りなく模様を作れる面白さがあります。が、その反面、手作業ゆえにとても時間を要します。  
 ブレーディングは細い組紐とは違って幅の広い帯状のものが可能となり、4世紀頃に作られた頭や腰に巻く装飾品には幅6㌢長さ3㍍前後のものが残っています。その多くは2本を1セットとしてねじりながら組んであり(トワイニング)、ねじる色糸が表面に、見せたくない色糸はその中を通すことで模様が作られていきます(写真7)。
この様な長い紐や帯を作る為には組縮み分も考えると用意する糸は4㍍を超えるのではと思われますが、そこは知恵者のアンデス人、中心から組んでいったと思われるものもあります(写真8)よく見ると中心を境にして模様が違っていて、故意に変えたのか二人で組んだので違ってしまったのでしょうか?「完璧なものは神様しか許されない」という作風はこんなところにもあるのかもしれません。繊細緻密を誇るアンデス人にもこんな作風がある事を知るとホッとしませんか。作者は後世にそんなチェックをされているとは思いもよらないでしょうね。
 又、長いものを組む為のもう一つの考え方として紡ぎ方があるかも知れません。連載②で触れましたがコマのような紡錘車を使う事で足りなくなった糸をその場で継ぎ足せるという利点もあったのでは?さばきにくい長い糸を最初から用意しなくても良かったのでは…
 ブレーディングの中には、日本の唐組と同じもの(写真9、10)がありますがアンデスでも紀元前7世紀には帯の端飾りとして組まれており、それらが手で組まれているのに対し日本では組台を使い…と地球の反対側の文化の違いを感じられ面白いものです。

◆後帯機だからのブレーディング
 写真11、12を見ておわかりの通り、この帯は多重織りとブレーディングを交互に組み合わせ、ブレーディングの斜め方向に糸が動くのを上手く利用して作られています。表が多重織りなら裏はブレーディング、一定間隔で裏表を逆にするという二重構成になっているのです。
これもナスカ文化期・紀元4世紀頃に多く見られる特殊な帯で、裏表の織りと組みが同時進行で制作されていきます。

※織り用の経糸とブレーディング用の経糸を重ねてセットします。
※織り用の経糸は上下を固定し、ブレーディング用の経糸は上だけを固定してスタートします。
※最初にブレーディングを組み、中心の糸が端に行ったところでストップします。  
※機の上下を逆転させ、組んだ部分を手前にめくり、織り用の経糸を出して織りを始めるのですが1段織るごとに組み糸を順に下側に落としていきます。
※組み糸が全部下に落ちたら機を裏返し、上下を逆転させブレーディングを組み始めます。
※これを繰り返しながら進みます。

この様な織り方は機を裏返し、上下を逆転させる事が可能な後帯機ならではの技法と言えるのではないでしょうか。

◆アンデスに残る紐づくり
 古代染織品に見られるような多種多様なブレーディングは現在では作られていないと思われます。僅かに目にする事が出来たのがクスコ郊外のチンチェーロ村で少女が目にも止まらぬ早さで組んでいたブレスレットでした(写真13)。手にとってみると、組みと言うより日本でも子供達の間で流行したプロミスリングの作り方と似ている結びの方法です。少女達はまだ中学生位でしたが、こうして作り置きして市の立つ日に土産品として売り、一家の立派な稼ぎ手となっています。
 現在では後進国のように思われているアンデス地域ですが、数十世紀前には今でも追いつかないような高度な技と知恵を持っていたことを古代の染織品を見るたびに痛感させられています。 つづく