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「フェルティング ワーク」  田中美沙子

2013-03-01 09:18:27 | 田中美沙子

1 ◆身にまとうプロジェクター 田中美沙子

1987914日発行のTEXTILE FORUM NO.8に掲載した記事を改めて下記します。

 フェルトという言葉は、ギリシヤ語の『結合させる』『FELZEN』から出ています。これは羊毛の特長である縮絨性を表現しています。中央アジア、西アジアの人々がいつ頃からフェルト作りをしたかは定かではありませんが織物よりも古いと言われています。例えば旧約聖書にみられるノアの箱舟でのフェルトは、羊の毛が床に落ち、踏まれ、適度の湿度で固まりフェルトが誕生したともしるされています。日本では正倉院の御物の中に、中国や朝鮮から渡来した、花文の毛氈が残されています。制作方法は室町時代に伝えられたと言われています。材料が身近になかったことや気候風土の違いもあったのでしょう。単純なわりには日本独特なフェルト作りはあまり発展しませんでした。世界をみまわしますと多種多様なフェルトが存在しています。特に遊牧民の生活ではフェルトは重要なひとつでもあります。住居の造りにその魅力を見ることができます。草を求めて移動して行く家は、高さ二~三メートル、直径八メートル位あり、木材の骨組を格子状にし、その上をフェルトの布でおおい作られています。住居の呼び方も地方によって様々ですが、遊牧民の間ではYURT(ユルト)、蒙古では包(パオ)、中国では穹盧(キュウロ)などと呼ばれています。又、イランではナマッドと呼ぶフェルトの敷物があります。これらは織の繊細な表現のカーペットに比べ有機的曲線と単純な幾何文様が特長です。

 

 繊維素材による布は、第二の皮膚とも呼ばれます。その理由は、外界の接点になる人間の体を保護する服という布であり、もうひとつは、住居での室内(特に壁を対象としている)をより柔らかく、やさしくする布であると言われます。建築家であるコルビジェは、室内の壁を『放浪者の壁』と称し、タペストリー(織物の壁掛け)の必要性を唱いています。織物に比較しフェルトでの表現は単純です。毛の繊維が物理的な条件で絡まれば良いのですから誰でも手軽に楽しめます。しかし、単純である程、研究して行くと難しくなるのも事実でしょう。その為には、日頃の訓練も必要です。物作りが好き、絵を描くのが好き、といった素直な気持ちが大切でしょう。色彩を使う楽しみもフェルトの魅力のひとつです。パレットで絵の具を混ぜ合わせ絵を描く感覚があればそれで十分です。陶器作りのような土をこねる感覚、紙をすいて作る感覚もかねそなえています。平面から立体へといろいろな表現が可能です。何でもそうですが、体力的には重労働の感もあります。小さな作品はそうでもありませんが大きな敷物やタペストリーなどは苦労しますが出来上がった時の満足感は大きなものがあります。一見弱そうに見えるのですが絡んだ毛は以外に強いものです。また、模様なども自由に組み込むことが出来、袋状にして縫目のないポシエットなどにすると楽しい表現が出来ます。クラフト的な分野だけでなく、アートとしてのフェルト造形もこの頃では盛んになって来ました。アメリカのアーティストのジョン リビングストンは重厚なフェルトと木材による彫刻としての作品を発表しています。いずれにしろ、手軽な技法で表現出来るフェルトは各々の立場、条件で制作することができるのも魅力のひとつと考えています。



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