◆田中美沙子 「浮遊するフェルト」 1999年 巷房個展
◆田中美沙子「WORK」 1996年 W 80× H 45cm
◆“フェルト・フェスティバル” 2000年 ノルウェー・ベルゲン
2002年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 25号に掲載した記事を改めて下記します。
「FEEL・FELT・FELT-デザインとアート(点・展・転)-」 田中美沙子
●表現すること
2002年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 25号に掲載した記事を改めて下記します。
「FEEL・FELT・FELT-デザインとアート(点・展・転)-」 田中美沙子
●表現すること
デザイン、アートにかかわらず創り出す喜びは共通しているでしょう。私がフェルトに興味を持ちはじめた頃は今ほどフェルトの表現が一般化されていなかつたので材料、技法など手探りで試みました。それは思い返すとフェルトを自由に扱いたいと思う気持ちからの努力で幸せな時間であったと思います。誰でも新しい事へのチャレンジは胸が踊り心騒ぐものです。継続は力なりと言われるように、続ける事でいろいろな方法を発見してきました。フェルトによる表現がある水準に達した時にまた新たな疑問が始まります。独創性のある表現はどうしたらいいのだろうか。材料の特徴をどのように生かしたらいいのだろうかなどです。自分の表現したい物は、アートなのかデザインなのかという表現の本質について考えることになりました。
身に纏うフェルトが盛んなノルウェーの作家の衣服を見る機会がありました。衣服のポケットを蛇腹で作り物を入れると膨らむアイディアはユーモアのセンスとウールの特徴を十分に生かした独創性のあるデザインは大変魅力的で考えさせられました。また生活空間を彩るタピストリーや敷物など生活に潤いを与えデザイン、アート両面から表現する事が出来ます。
●翻点・翻転・翻展(岡村吉右衛門著/デザインの歴史/講談社)が語る造形の世界
彼はこの著書のなかで次のように述べています。「よく、芸術はロゴスが先かイメージが先かと言う事が言われる。しかし、実際には初めに光があるとか、衝動から始まるといったほうが適当ではないであろうか。その光が文学者や哲学者では言葉となり、画家、彫刻家、デザイナーには形、色彩になるのである。発想は光や衝動であって、表現経過はロゴスであり、イメージであるといえば、なおよいことになろう。」
私なりに彼の考え方を咀嚼してフェルト表現に応用しているのですが、その本質へ迫る事はなかなか難しい事なのです。しかしインスピレーションを光りに例えることから始まり経験、知識などから新たな展開へと試みる事が出来ます。また観察、描写など基本のことがらですが、独創的な表現には既成概念を破る事が必要でしょう。私はこの点、転、展の広がりある考え方は、デザインやアートに限らず物事を前向きにとらえる魅力ある考え方だと思っています。
●デザインと工芸
<工芸>という言葉は、中国の唐の時代すでに使われ振るい歴史を持ちます。技芸一般を刺して使われており、絵を描く乗馬や射的にいたるまでの技術を含んでいました。現在の工芸の言葉にはそれまで広い意味は含まれていません。19世紀に入り芸術を”Fine Art ”と ”Applied Art” に分けて考えるようになり、絵画、彫刻、を純粋美術と工芸を応用美術と呼ぶようになりました。イギリスで起きたウィリアム・モリスの美術工芸運動は<Art and Craft >西欧の近代工芸を進め工業の発展により工業デザインがその分野を確立していきました。アメリカにおいては第2時大戦後この工業力を平和産業に切り替えID(インダストリアルデザイン)として開花してきました。
ドイツのバウハウス教育もその時代の重要な役割を果たしています。基礎教育に重点を置き学習の後すべての学生は、工場実習、建築、美術などの専門分野に進みました。例えば形態教育を担当する芸術家と実際的な工作実習を担当する職人という二人の教師から学生は学んだのです。ヨハネスイッテンの色彩論やマテリアル(素材)の学習としての表面感、質感、構造、集群などがあります。現代のアートとデザインの融合の基盤がバウハウスで行われていた事は驚きです。
●ファイバーアート
ファイバーアートの言葉が使われ久しくなります。繊維は身体との関わりのなかで主に発展し日本では染め、織りとして伝統的な世界を創りだしました。しかし繊維素材の構築性を考える時、素材が生み出す平面や立体、環境への可能性が引きだされてきました。それらの背景には、絵画の世界からの影響があります。シュールリアリズムの人達の展覧会では、オルテンバークによるハンバーグやタイプライターを繊維で表現した柔らかな彫刻(ソフトスカルプチュア)が現れ、テキスタイルアーチストのマクダカーレアバカノピッチはタピストリーの二次元から立体表現へ移行し美術の分野へ広がっていきました。ヨーロッパのタピストリー展では、スイスのローザンヌで1961~1992まで15回にわたり開催され平面、立体、環境をテーマに繊維造形による表現がなされそこでは、素材=技術の関係をみなおし素材の持つ生命力を独自に考えた造形表現へと進んで行きました。現在では絵画、彫刻の分野に限らずアートとしての表現は多方面で行われています。
●フェルトの表現 (布フェルト.組織.コラージュ)
フェルトのイメージを変えた、布とウールをジョイントし薄手でしなやかな雰囲気の布フェルトは布と一体化して面白い表情を作ることが出来ます。身に纏うものからインテリアの布まで一枚の布が加わり表現するする可能性は大きく広がりました。布フェルトを制作する時使う布は薄く隙間のあるもが適切です。布の張りや透ける効果は多重にして雰囲気を盛り上げます。また柔らかな綿布はウールにひっぱられ凹凸が生まれ起伏のある表情をみせます。できるだけ細いメリノを使うと布と一体化して行きます。 また織りや編み組織を後からフェルト化してその材質感を変化させる方法は、あま撚りの糸を使い密度や編み目の大きさを決めて行きます。圧力の方法に強弱をつけると変化がより効果的です。編み目を増やしたり減らして形態の変化や隙間の疎密により柔軟性の違いを出せます。
絵画的な表現として、いろいろな材質を組み合わせ画面を作りだすコラージュの方法をフェルトに取り入れてみました。普段から雑誌の切り抜き、好きなもの気になるものを集めスケッチブックに貼りドローイングなどを加え、イメージの世界を広げて楽しんでみるとフェルトの展開もスムースにいきます。色彩、形態、素材を通して変化する表現はコラージュの特質でもあり、加えたり削ったりの試行錯誤を心ゆくまで行う事が出来ます。
このようにフェルトのアート、デザインの表現は多様で魅力ある世界なのです。感動する気持を持ちつづけイメージを形に膨らませたとき無から有への表現が新たに生まれるのでしょう。