思い返してみると、春に伊豆半島を訪れることが多い。
伊豆高原の桜坂を、観光協会の祭りを横目に登ったこともあるし、
一碧湖へ緑の予感を求めて旅したこともあった。
暖かくなると、東京の外へ出たくなるのか。
遠出をするにはまだ体が慣れていないのか。
いずれにせよ、それほど計画的でなく伊豆には出かけている。
今回も、旅行を決めたのは2日前。
それも、10年ほど前からずっと気になっていたこの「ホテル海」が
宿サイトに空き室表示を出しているのに偶然気がついたからでした。
最初にこの宿を知ったのは、かつて好きだった雑誌SINRAが発行した
「こころを癒す自然の宿」(2002年新潮社)というムックに”潮騒と
満点の星が最高のごちそう”と紹介され、オレンジ色の日の出が水平線に
顔を出す写真に心惹かれたからだ。
今朝、6時過ぎに入った露天風呂、低い空に雲が垂れ込め、太陽が顔を出すのは
もう少し後になったが、それでもワイドに広がる光景と騒擾を裸身に受け、
ヒノキの樽湯船にあふれながらつかる心地よさといったら比類が無い。
昨夜からいったいなんどこの湯船につかったことか。
透明だがやや刺激性のある主張がある湯に、痛む腰も和らいでくる。
景色のよさ風呂のよさはその通り。
そして(ふさおまき めす)は宿の人々の人間力も高いと評する。
慇懃無礼の挨拶でもなく、西洋流サービスの箱に入った形でもなく、
どちらかといえば古き和の宿に共通する、同じ民族に対する
開放感と親切心がくだけた形で供されるといった感じ。
ざっくばらんとでもいいましょうか。
旅先で肩がこったりはしないのです。
創作和食という夕食朝食も、魚と野菜豊富に
基本のだしをしっかりと効かせた、口になじみやすいものばかり。
久々に優しくはらくちた。
良い思いをしてチェックアウトした後は、
オオルリを海岸のあちこちに見る、なんとも幸せな富戸漁港までの散歩を
楽しみ、城ヶ崎海岸駅より熱海に出て、寿司の昼ごはん。
桜の和菓子と、地元産黄金ミカンをお土産に、
家路へついたのでした。