それは 春なのに雪混じる雨が屋根をうがつ夜のことじゃった
お江戸の城北 大神宮様にほど近い森の名がつく長屋町に
暮らすふさおまきのオスとメスは それぞれ仕事で家路に
つくのが遅れておった
やや早めに宅の門をくぐったのはオス それでも戌の刻を
とおに過ぎ 伊の国製麺をひき肉トマト汁でいただいたころには
亥の刻に近づき、そのころようやくメスも帰ってまいった
伊の国製麺をひどく気に入ったメスは、田守という男子の倶楽部電影を
嬉しそうに見入った後すぐに寝室に入っていった
オスは依願順位というなぜか上野の回るすし屋を食い道楽する電影などを
みたため寝所に向かうのがずいぶん遅れ もちろん高いびきも聞こえてくる
しかし恋するメスに床につく前の挨拶も聞けぬのは悔しいもの
耳元に口を近づけ 無理に起きろと声を出した
一回くらいでメスはどうじないし 目も細くしたまま開く気配も無い
もちろん長年付き合ったオスは千も承知 5回6回と声をかけると
ようやく硬く曲げていた背も伸びて、ややこちらを向く姿勢となった
さあメスのお休みが聞けると期待したところ 薄く開けた唇から
漏れたのは
「亀仙人」
なんじゃ それは。
突然の登場 この前までは寝る自分を河童だと申しておったし
フロレンス人なる太古の人を名乗ることもあった
しかし亀仙人とは奇怪千万
すぐに退治せねば!
とっさに思いついた衣装を仮に羽織ったおすは、口からこんな変身を言葉にした
「鶴男爵」
勝負は見えてしまった。メスの細い目をいかに鶴の鋭いくちばしでつつこうとも
相手は万年生きる雲の上の方だ
千年しか生きられない地上の地位しかない男に勝ち目は無い
そしてその次の朝
亀仙人は消え ふつうのふさおまきメスに戻って寝坊してきた
なんともわからぬ一夜であった
お江戸の城北 大神宮様にほど近い森の名がつく長屋町に
暮らすふさおまきのオスとメスは それぞれ仕事で家路に
つくのが遅れておった
やや早めに宅の門をくぐったのはオス それでも戌の刻を
とおに過ぎ 伊の国製麺をひき肉トマト汁でいただいたころには
亥の刻に近づき、そのころようやくメスも帰ってまいった
伊の国製麺をひどく気に入ったメスは、田守という男子の倶楽部電影を
嬉しそうに見入った後すぐに寝室に入っていった
オスは依願順位というなぜか上野の回るすし屋を食い道楽する電影などを
みたため寝所に向かうのがずいぶん遅れ もちろん高いびきも聞こえてくる
しかし恋するメスに床につく前の挨拶も聞けぬのは悔しいもの
耳元に口を近づけ 無理に起きろと声を出した
一回くらいでメスはどうじないし 目も細くしたまま開く気配も無い
もちろん長年付き合ったオスは千も承知 5回6回と声をかけると
ようやく硬く曲げていた背も伸びて、ややこちらを向く姿勢となった
さあメスのお休みが聞けると期待したところ 薄く開けた唇から
漏れたのは
「亀仙人」
なんじゃ それは。
突然の登場 この前までは寝る自分を河童だと申しておったし
フロレンス人なる太古の人を名乗ることもあった
しかし亀仙人とは奇怪千万
すぐに退治せねば!
とっさに思いついた衣装を仮に羽織ったおすは、口からこんな変身を言葉にした
「鶴男爵」
勝負は見えてしまった。メスの細い目をいかに鶴の鋭いくちばしでつつこうとも
相手は万年生きる雲の上の方だ
千年しか生きられない地上の地位しかない男に勝ち目は無い
そしてその次の朝
亀仙人は消え ふつうのふさおまきメスに戻って寝坊してきた
なんともわからぬ一夜であった